New Eyes Niigata #05 リュウ
New Eyes Niigata
2026.02.25
目に映るもの、出会う人、そして日々の生活……海外から新潟にやってきた人たちは、今、この街でどんなことを思い、感じているのでしょう。新シリーズ『New Eyes Niigata』では、海外出身の皆さんが歩んできたこれまでの人生の物語を振り返りながら、彼らが「新潟」という新しい環境で見つけた、小さな発見や気づきをお伝えしていきます。
第5回目は、中国・河北省(かほくしょう)出身のリュウさんです。2023年に来日し、東京での生活を経て、2025年4月に長岡造形大学の大学院へ進学しました。現在は、視覚領域のグラフィックや絵本制作を専攻し、故郷とよく似ているという長岡の地で日々創作活動に没頭しています。「目の前のことを大切にして、自分で決めたならそれでいい」。そう語るリュウさんの、作品に込めた温かい思いや、長岡で見つけた自分らしい生き方について、お話をうかがってきました。

企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
東京の喧騒を離れ、雪の降る長岡へ。
――まずは、リュウさんが日本へやって来たきっかけを教えてください。
リュウさん:2023年の7月に東京へ来ました。もともと日本の映画や漫画のデザインが好きで、自分の作品をもっと突き詰めるために、現地で吸収したいと思ったんです。最近だと、藤本タツキさんの『ルックバック』や『ファイアパンチ』が好きですね。日本の作品からは、常に刺激を受けています。
――東京にも美術学校はたくさんあったと思いますが、長岡造形大学を選んだ理由はなんだったんでしょうか?
リュウさん:美術のイベントや展示がたくさんあって刺激的だったんですが、東京は人が多すぎて、ちょっと疲れてしまって(笑)。自分の作品づくりに没頭するには、もっと落ち着いた場所がいいなと思うようになったんです。それから地方で美術学校を探していたときに、長岡造形大学を見つけて。大学周辺の町並みが私の故郷と似ていることがいちばんの決め手でした。
――故郷の河北省と長岡は、どんなところが似ていると感じていますか?
リュウさん:人が多すぎなくて、雰囲気が落ち着いているところですかね。今住んでいるアパートから歩いていける距離にスーパーもカフェもあるから、すごく生活しやすいです。なんなら、東京よりも便利に感じるくらい(笑)

――長岡で暮らしはじめて、何か変化はありましたか?
リュウさん:東京にいたときは慌ただしくて、あまり絵が描けていなかったんですが、こっちに来てからは描く枚数が格段に増えました。自分の求めていた環境がここにあったんだと思います。アパートの近くのスーパーで買ったお寿司とか、日常の風景とかをスケッチしたりして、描くことに集中できています。
――現在は、どのような分野を専攻されているんでしょうか。
リュウさん:視覚領域のグラフィックや、絵本の制作をしています。子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校は美術学校に通って、大学でも視覚デザインを専攻していました。ストーリー性のある表現が好きで、今は絵本というカタチに惹かれています。
――もしよければ、これまでに作った作品を見せてもらえませんか。
リュウさん:もちろんです。これは、『りんごがほしい』というタイトルの絵本です。主人公のハリネズミが、完璧のリンゴを手に入れるために毎日一生懸命働いて、試行錯誤を繰り返すお話です。

リュウさん:でも最終的に、彼が当初思い描いていたような「完璧なリンゴ」は手に入らないんです。普通ならそこで失敗したと落ち込むかもしれませんが、このお話では「それも個性だよね」と受け止める結末にしています。
――こちらの絵本には、リュウさん自身の経験も反映されているんでしょうか。
リュウさん:そうですね。昔読んだ本の中に「人と人の距離感はハリネズミのようだ」という言葉があって、それがずっと印象に残っていたんです。「ヤマアラシのジレンマ」のように、本当はお互いにハグをしたくて近づきたいのに、近づきすぎると針が刺さって傷つけ合ってしまう。そんな不器用さや、完璧じゃない部分も含めて、肯定したいと思って描きました。構想に時間をかけて練ったので、完成までに1年くらいかかりましたね。

「井の中の蛙」と温かいお茶。自分の幸せは、自分で決めていい。
――今は新しい作品にも取り掛かっているそうですね。
リュウさん:寓話の「井の中の蛙」をモチーフにした絵本を作っています。元の話は「蛙は外の世界を知らず世間知らずだ」という教訓ですが、私が描いているのは「蛙くんは井戸の中から出なくてもいいんじゃないか」という物語です。

――へえ~、それは中身が気になりますね。
リュウさん:蛙くんは、外の世界に出て、おしゃれなカフェやお店に出会うだけで、「なぜか楽しくないし、自分に合っていない」と感じるんです。人も、外の世界は情報が多すぎて、自分を見失ってしまうことがありますよね。私の友達も、みんな「都会に住みたい」「外に出たい」と言うんですけど、私は自分の暮らしやすい場所で暮らした方が絶対にいい。そんな実体験がベースになっています。
――外の世界へ飛び出すことだけが、必ずしも正解ではないということですね。
リュウさん:そうですね。外に出ることで理想の生活ができる人もいるけれど、そうじゃない人もいる。大切なのは「自分が後悔しないこと」だと思っています。目の前のことを大切にして、「自分で決めたならそれでいいじゃないか」という、メッセージを込めています。完成は2026年の春の予定です。

――リュウさんの「自分軸」で生きる姿勢は、情報に溢れる現代においてとても大切だと感じます。普段の生活の仕方についてもお聞きしたいのですが、今日は中国のお茶を持ってきてくれましたんですよね。
リュウさん:はい、中国でよく飲まれている、「白茶(パイチャ)」と「プーアル茶」です。中国のお茶は基本的に温かいまま飲むのが習慣で、私は夏でも温かいお茶を飲みますね。

――夏でも! それは暑くないですか(笑)
リュウさん:汗をかきながら飲みます(笑)。でも、体温を高めることは身体にもいいし、気持ちも落ち着くんですよ。
――日本のコンビニや自販機で売っているお茶って冷たいものが多いと思うんですけど、不便に感じることはないですか?
リュウさん:たしかに多いですけど、あまり気にせず飲んでいますよ。それよりも、普段から食材を買ってマーラータンのような辛いものを作るんですけど、日本の調味料は辛さが足りないので、もっと辛いものが欲しいです(笑)
――最後に、今後の展望について教えてください。
リュウさん:在学中に個展を開いてみたいと思っています。まだ一度もやったことがないので手探りになるとは思いますが、もし実現できたら、いろんな人たちに来て欲しいです。中国から日本へ出発するときに、友達がくれた応援メッセージがあって。見るたびに「頑張れ」って背中を押してもらえている気がするんです。みんなの気持ちに応えられるように、これからも頑張りたいと思っています。
――卒業後はどんな進路を考えていますか。
リュウさん:日本で就職してデザインの仕事に就きたいと思っています。自分のペースで、自分がいいと思うものを作り続けたいです。そのためにも、長岡という場所で、焦らずに自分の表現を探していきたいですね。

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