僕らの工場。#27 世界基準の調理器具ブランド「conte」。
食べる
2021.11.21
一菱金属株式会社が手掛ける家庭用調理器具のブランド「conte」。「German Design Award」や「iFデザイン賞」などで金賞を受賞するなど、世界的に認められるプロダクトを製造し、その企画から販売まで行っています。今回はブランド展開の中心人物である一菱金属株式会社の江口さんに、ブランドコンセプトや実際のプロダクトについていろいろお聞きしてきました。

一菱金属株式会社
江口 広哲 Hiroaki Eguchi
1976年燕市生まれ。燕市のアクセサリー会社に勤務後、オーストラリア、東南アジアを旅する。海外から見た日本という新しい視点と経験を経て2002年に「一菱金属株式会社」へ入社。
日本を出ることで見えた、日本のモノづくりの魅力
――本日はよろしくお願いします。まずはconteを作られている「一菱金属株式会社」さんと、江口さんのことについて教えてください。
江口さん:うちの会社は祖父が創業者で、母親が二代目、長男が今、三代目として代表をやっています。私は次男で、2002年に26歳のとき入社したんですけど、それまでは燕にあるアクセサリー会社で働いていました。そこは、錫(スズ)を原料としたアクセサリー屋さんで、当時は錫に銀メッキ加工をして大量生産したものを500円~1,000円の価格帯で販売している会社でした。
――入社される前からモノづくりのお仕事をされていたわけですね。昔からモノづくりに興味があったのでしょうか?
江口さん:モノづくりは子どもの頃から身近にはありましたね。工場も自宅の目と鼻の先にあったので、常に意識はしていました。モノづくりって、工程が目で見て分かりやすいので、そういうのが好きで。どんどんできていく感じが楽しかったのは覚えています。

――入社しようと思ったきっかけは?
江口さん:燕のアクセサリー屋さんで働いた後、2001年にワーホリでオーストラリアに行って、そのときに自然を体験できるようなツアーを転々と参加したんです。たまたまかもしれないですけど、そこで使われていた車のほとんどがランドクルーザーだったんですよ。日本では想像できないくらいの悪路なんですけど、現地の人たちは「他の車じゃすぐ壊れるけどやっぱトヨタは違う」って言うんです。すごく離れた国で、言葉も違うけど、日本のモノが海外で使われているのを見て、良いモノを作れば世界でもちゃんと評価されるんだなと、「モノづくりの魅力」を実感しました。
――日本のモノづくりって、やっぱり評価が高いんですね。
江口さん:海外に出たからこそ、日本のことを客観的に見ることができたと思います。俯瞰するような立場で日本の商品を見る、そのきっかけになったと思います。


調理器具からアートへ。視点を変えた事業展開。
――入社当初はどういったモノを作りたかったんですか?
江口さん:なにか「これがやりたい」っていう思いがあって会社に戻ってきた感じではなかったですね。最初は機械をどう動かすかとか、そういうところから学んでいかなきゃいけないと思っていました。あとは、燕三条近辺にはどういう企業さんがあって、自分たちはどういう立ち位置で存在しているのかっていうところを知る時間にしました。
――ちなみに当時はどんなもの?
江口さん:業務用の厨房道具で、メインは計量カップとか油ひきでした。この近辺は業務用の調理道具を作っている企業さんが本当に多いんです。でも業務用になるとサイズのバリエーションが多くて、ひとつ作るのに金型が何個も必要でイニシャルコストがすごく高いんです。そうなってくると資本勝負で規模が大きいところが有利なので、じゃあ土俵を変えないと勝負ができないと思って、アート分野に一度方向転換をしたんです。
――お、かなり大胆な方向転換ですね。
江口さん:私と椅子張り職人の2人で「monge」という名前で活動をはじめて、最初は「新潟オフィスアートストリート」っていう、銀行とか証券会社のショーケースをアートで飾ろうっていう企画に参加し、ステンレス製の歩道にある手摺のようなものを制作・展示しました。その時の審査委員長である建築家の隈研吾さんから、「隈研吾特別賞」というのをいただきました。もともとそんな賞はなかったんですけど、作品を見てこれには賞をあげようってなってくれたみたいなんです。
――でもなぜアートだったんですか?
江口さん:位置づけとしてはプロモーションの一環だったんです。アートを見てもらうことで興味を持ってもらうきっかけになってもらえればいいなって思ったんです。ミュージアムでプロダクトも販売していければいいなって思っていました。調理道具から離れることで、まわりとの差別化ができるなにかを模索していた感じですね。これが2011年くらいから始めた活動です。その後は冬季開催の“大地の芸術祭”に4期連続で参加しました。
――作品、何か見せてもらってもいいですか?
江口さん:「fog」という商品名のステンレスカップです。これはmongeとしてデザインして、弊社で制作しました。ステンレスカップは市場に多くありますが、私たちらしい表現というところで、指紋が気になったので外観をフライパンとかで使うフッ素樹脂で加工しました。塗装屋さんに吹き付けの依頼をするとき、普通はベタで塗るものなんですけど、「霧状に吹いて終わりにしてくれ」って依頼したら、「どういうことですか?」って質問されて(笑)。だから自分で墨とかを紙に散らしてイメージ渡して作ってもらいました。これだと指紋がつきづらいんです。

――アートへのシフトチェンジは新しい挑戦でもあったんですか?
江口さん:そんなかっこいいものではなくて、とにかく私たちの活動に興味を持ってもらいたい、そしてこのようなステンレスカップ等のプロダクトも売れて欲しいっていう、いわばプロモーションの一環だったんです。ただやってみると知り合う人は表現も人柄も個性的などっぷりアートの人たちで、それはそれで楽しいのですが、ミュージアムショップは企画展に寄り添ったノベルティグッズが多いこともあるので、面白がってはくれるけど、正直数字的にはそんなに伸びなかった。そういうことがだんだん分かってきて、また軌道修正をするわけです。
アート思考へのシフトチェンジから見えてきたもの。
――今度はどういった方向に?
江口さん:そこでまた調理道具に戻ってくるんです。ただ業務用だけだと勝負にならないから、家庭用にも目を向けたわけです。
――原点回帰ですね。
江口さん:ただ他社との価格勝負になってしまっては、関わってくれる人の賃金も上げられないし、後継者問題とかの話にまでなっていってしまうんです。こういった業界全体の構造自体にも疑問を感じていたので新しいブランドでは流通自体を見直そうと思ったんです。新規で流通を開拓すれば原価が上げられて商品のクオリティも上がります。さらに賃金も上げられるから次の世代になっても継続したモノづくりができるようになります。そこで「conte」という家庭用調理器具を作るブランドを立ち上げました。


――製造をしながら販売ルートの開拓はなかなか大変そうですね。
江口さん:そうなんです。mongeとしてアート・デザイン活動をしていたときに工芸・産業・流通に詳しい、ひとり問屋・日野明子さんと出会い、どう売っていくか、そしてどう作っていくかを相談させていただきました。またデザインは客観的に見ていただきたいのでプロダクトデザイナーと協働すべきとも思いました。ただ、県内のデザイナーだと差別化が難しいと思ったので、「県外の方」「料理ができる」「ステンレスの加工をやったことが無い人」っていう3点を条件に日野明子さんにデザイナーのご紹介をお願いしました。そこでプロダクトデザイナーの小野里奈さんと出会い、conteのプロダクトデザインはすべてお願いしています。2016年に日野明子さん、小野里奈さんと一緒に企画開発を開始して、会社で作って、小売店に直接販売、という流れを作っていきました。
――それはとてもよい出会いだったんですね。
江口さん:モノづくり側はデザインに対するリテラシーがないとダメだし、デザイナーさんも製造現場の工程が分からないとダメだと思うんです。スタイリングだけではちょっと違っていて、現場の加工技術を見た上でできることをしっかり表現しているのかとか。あとは使い心地とかまで考えてデザインされていないと最適解にはならないと思うんです。やっぱり相互のリテラシーがないとかみ合うのは難しいと思うので、そういった意味ではとてもよい出会いになったからこそ今も続けていられるんだと思います。
見た目の美しさと機能性の高さを兼ね備えたデザイン
――conteではどんな商品を作っているんですか?
江口さん:これは「まかないボウル」というのですが、通常のボウルに比べると径は小さくて深さがあるんです。一番小さいサイズでも卵を4~5個混ぜられるし、通常よりも径が小さい分、混ぜるときの手の回転径も小さくて済むから素早く混ぜられます。普通の倍以上の厚い材料を使って、下から引き延ばして作っているんです。そうすると重心が下になって安定感があって大きなおたまをいれても倒れたりしないんですよ。また「まかない平ザル」をボウルの上にのせると、野菜を入れっぱなしで水を足していっても、水は溢れても野菜は溢れ出ないようになっています。

――こだわったことや大切にしていることはなんですか?
江口さん:まずは、まわりがやっていないことをやる。そうじゃないと他の会社さんへのご迷惑となりますし、そもそもやる意味がないと思っています。あとは仕様変更をしないということ。一回作ったらリニューアルとか修正がないようにしています。以前に購入してくださった方を裏切る感覚になるのと、気に入っていただけたら同じものを買い足しできる環境を整えたいと思っています。なので数年で変わってしまうようなものは作りたくないですね。そのかわり、ひとつの商品を開発するのにすごく時間がかかるんです。開発から販売まで3年くらいかけています。
――そういう意味では以前のアートの部分が色濃く残っているんですね。
江口さん:そうですね。conteの商品は革新性であることを意識しているので作品みたいになってきていると思います。販売しているお店が器屋さんとかセレクトショップなんですよ。アパレルでも売ってもらっているので、そういった展開って珍しいのかなって思います。あとはおかげさまで「グッドデザイン賞ベスト100」や「GERMAN DESIGN AWARD 」と「iF DESIGN AWARD」では最高位のGOLDを受賞しました。「iF DESIGN AWARD」は世界で75社だけトロフィーをもらえるっていう中の1社にconteの「まかないボウル」が選ばれました。

――今後の目標は?
江口さん:まずはconteの商品を作り続けること。それを継続させて作っている人たちや関わっている人たちの働く環境がよくなるように整えてモノづくりをやりたい人が増えていけばいいかなと思っています。それに向けて他にも頭にはいっぱい構想があるんですけど、ちょっとまだ公表できないことばかりで……ふんわりしていてすみません(笑)
一菱金属株式会社
0256-63-7211
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