南魚沼市浦佐地区を代表する観光スポット「アグリコア 越後ワイナリー」。豪雪地帯の特質を生かし、雪室でワインを貯蔵していることでも知られています。隣接する「レストラン葡萄の花」ではワインと地元食材を使った料理を満喫でき、食事を兼ねてワイナリーを利用する方も多いのだとか。でも、どうして雪深い南魚沼にワイナリーが誕生したのか不思議に思いませんか? 今回は「越後ワイナリー」の青木さんに、雪国のワインづくりについていろいろとお話を聞いてきました。
株式会社アグリコア 越後ワイナリー
青木 茂晴 Shigeharu Aoki
1972年南魚沼市生まれ。大学卒業後「越後ワイン株式会社」へ入社し、ぶどうの栽培やワインの醸造に携わる。趣味は最近はじめたゴルフ。
——ここはワイナリーの他にもレストラン、公園、美術館といろいろなスポットがある場所なんですね。
青木さん:20年くらい前、浦佐に「八色の森公園」を作るのに合わせてこのワイナリーとレストランができたんですよ。公園ができる10年くらい前から町おこしのプロジェクトが発足して、もともとあった「越後ワイン」という会社と自治体、地元の農協なんかが出資して「八色の森公園」や「池田記念美術館」、当ワイナリーが設けられたんです。
——じゃあ、けっこう前から「越後ワイン」という会社があったわけですね。
青木さん:「越後ワイン」は1975年に誕生したから、50年近くの歴史があります。「越後ワイン」ブランドをスムーズに引き継いでもらって「アグリコア 越後ワイナリー」となったんです。以前はレストランもショップもなくて、お客さんを呼ぶようなところではなかったのが、今では大勢の皆さんに来ていただけるようになりました。
——ちょっと失礼なことを言ってすみません。南魚沼って酒蔵がたくさんあるから、日本酒のイメージが強いんですが……。
青木さん:そうですよね。今のところ中越にあるワイナリーはここだけですし、魚沼エリアには日本酒の印象があると思います。「越後ワイン」ができた頃って、この地域に「国際大学」ができる、新幹線の駅ができる、高速道後が開通する、となった時期なんですよ。それで米作以外の産業を生み出そうと当社の社長が動き出したことがきっかけで、この地域のワインづくりがはじまったんです。十勝で自治体が取り組んでいるワインが成功していて、それをモデルに有志が集まってスタートしたそうですよ。
——そんなに前から、南魚沼でワインづくりがされていたなんて。
青木さん:でも簡単にはうまくいかなくて、最初の10年くらいはロクなワインができなかったんだそうです。この辺りはワインを飲む文化もなかったですし、社長からは「会社をいつ畳もうかと思っていた」と聞いたことがあります。
——他のワイナリーとの違いはどんなところに?
青木さん:いちばんの特長は雪室を利用してワインを貯蔵していることです。ワインには冷やす工程がありますから、それに雪を利用しようと考えました。新潟には雪室が使われている商品がたくさんありますけど、うちはその先駆けかな。雪室は建物の地下で見学できるようになっています。通常だと10月くらいまで雪がありますよ。
——この地域らしい雪の使い道ですね。他にも雪国らしいことってありますか?
青木さん:そもそもワイナリーって果樹の生産地にあることが多いんです。余剰のぶどうをワインにする流れがあったんですね。だから一般的には、食用のぶどうがワインに使われるんですけど、この辺りは果樹の生産地じゃありません。「いちからぶどうを栽培するんだったら」と食用ではなくワイン専用のぶどうを栽培しています。今は栽培方法を確立できていますが、昔はワイン専用のぶどうを作っているところがあまりなかったみたいで、ノウハウもないし、だいぶ苦労があったでしょうね。
——いろいろな面で苦難の道だったんですね。
青木さん:北海道でもワインを作っているわけなので、雪国でワインづくりができないわけではないんでしょうけど、北海道とこことでは雪の質が違いますからね。県外のワイン農家さんが視察に来て、「よくやっているね」「こんなところでワインの栽培なんて絶対できない」って驚かれたこともありました。
——こちらを参考に、雪国でワインづくりがはじまった事例などはあるんでしょうか?
青木さん:ないですよ。というか、雪が2メートルも3メートルも積もるところなんてあんまりないですよね(笑)
——確かに(笑)。きっと独自の育て方をされているんでしょうね。パッと思いついたのは「雪の重みでぶどう棚が崩れるんじゃないか」ってことなんですけど。
青木さん:お察しの通り、雪でぶどう棚は崩れます。だから崩れてもいいように雪が降る前にぶどう棚の針金を全部外しちゃうんです。針金を張ったままにしておくと、ぶどうの木が潰れたり、支柱が曲がったりしますからね。あとはぶどうの木を斜めに植えて、雪の重さに耐えられるようにしています。
——青木さんがこの仕事に就かれて、いちばん苦労されたのはどの年ですか?
青木さん:中越地震の年あたりだったと思いますけど、ものすごい大雪の年があったんですよ。普段だったら12月20日頃から雪が積もるのが、その年は12月の頭から一気に積もって、それ以降畑に入れなくなりました。それで冬の備えがまったくできなかったんです。
——雪がすごくて畑に入れなかったわけですね。
青木さん:入ったところで、できることなんてたかが知れていますからね。春になったらもう畑がぐちゃぐちゃでぶどうが全滅していました。その年がいちばん大変でしたかね。
——なんともショッキングな出来事ですね。ワインづくり、嫌になりませんか?
青木さん:嫌になったことはありますよ(笑)。でも、もとから何かを作るのが好きだし、おもしろいと思う性分なんです。ワインは毎年同じように作っても、ぶどうの出来で違ったものができあがる。これが魅力ですよね。ワインの出来がいい年って、ぶどうの栽培にも面倒がかからない年なんですよ。おもしろいですよね。
——ちなみに今年のワインの出来はどうでしょう?
青木さん:今のところは抜群にいいですよ。こんなに順調な年ははじめてかもしれません。11月の頭には2022年のワインができあがりますから、楽しみにしていてください。
——最後に、ワインに合うちょっと変わったおつまみを教えてください。
青木さん:よく聞かれるんですけど、なんて答えたらいいか迷いますね……。ワインは洋食に合わせるイメージが強いけど、中華料理にもぴったりですよ。餃子とか春巻きはどうでしょう。(同僚の吉田さんにもオススメを聞いて)吉田さんは、夏野菜のラタテュイユがお勧めだそうです。ハンバーグをラタテュイユに入れて煮込み風にするのも美味しいそうです。
アグリコア 越後ワイナリー
南魚沼市浦佐5531-1
TEL:025-777-5877