夜空に咲く大輪の花火は夏の風物詩。新潟市では明日9日から「新潟まつり」がはじまります。そして11日夜には今年も「新潟まつり花火大会」が開催されます。信濃川を染めて打ち上げられるスターマインやナイアガラ、なかでも大型スターマイン「エボリューション」は華やかで迫力があり圧巻です。「新潟まつり花火大会」をはじめ、多くの花火を手がけている「新潟煙火工業株式会社」の小泉専務に、花火の作り方や花火に込めた思いを聞きました。
新潟煙火工業株式会社
小泉 欽一 Kinichi Koizumi
1971年新潟市生まれ。25歳から4年間、日本一の花火といわれる長野の「紅屋青木煙火店」で修行したのち、新潟に戻り実家の「新潟煙火工業株式会社」を継ぐ。高校から大学にかけてレスリングをやっていたが、現在はダーツにハマり、10年以上続けている。
——よろしくお願いします。新潟まつりの直前ということで、今日は花火についていろいろ教えてください。
小泉さん:よろしくお願いします。新潟県は面積が大きい上に、田園都市ということで田んぼが多いので、花火を打ち上げられる広い場所がたくさんあります。ですから、「長岡大花火大会」の正三尺玉や「片貝まつり奉納煙火」の正四尺玉のような大玉(大きな花火)が多いんです。全国の花火師からうらやましがられますよ。
——新潟県は大きい花火に適した土地なんですね。ちなみに、花火を打ち上げにくい場所ってあるんですか?
小泉さん:打上げ筒をセットするスペースが必要なので、せまい場所はむずかしいですよね。あと川の中や海の上。なにせ打上げ筒を並べるための地面がないんですから。「新潟まつり花火大会」のときは、信濃川の水上に土建屋さんが使う作業船を浮かべ、その上で打ち上げを行います。作業船の上は水平じゃないことが多いので、打上げ筒を垂直に立てるため、砂で調整して平らにしてるんですよ。
——「新潟煙火工業」さんの花火作りの歴史を教えてください。
小泉さん:江戸末期は古町で水運業と米穀商を営んでいたようです。戊辰戦争の頃、船ごと徴用されて火薬袋などの輸送にあたり、このとき火薬を使ったのろしや花火に興味を持った二代目仁太郎が、明治に入ってから「小泉花火屋」として花火作りを始めたそうです。昭和28年に「小泉火工」、昭和35年には「新潟煙火工業株式会社」に改称して今日に至っています。以前は玩具用の手持ち花火も製造していたんですが、現在は打ち上げ花火だけやっています。
——打ち上げ花火ということは、いろいろな花火大会が主な現場となるのでしょうか。
小泉さん:夏祭りなどの花火大会がメインです。「新潟まつり花火大会」、「長岡大花火大会」、「阿賀野川ござれや花火」など県内外30件以上の花火に関わっています。そのほか、結婚式や誕生祝いなどの個人的な打ち上げの依頼も増えてますね。ときどきサプライズプレゼントとして頼まれる花火もあります。年間で1万発以上は打ち上げているんじゃないでしょうか。
——ところで花火の鮮やかな色って、どんなふうに作られるんですか?
小泉さん:ベースとなる「塩素酸カリウム」と「硝石剤(しょうせきざい)」に、様々な薬品を配合することで色が出るんです。たとえば、酸化銅は青色、硝酸ストロンチウムは赤色、硝酸バリウムは緑色の花火になります。以前は薬品の危険度が高くて事故も多かったんですが、現在では研究を重ねて安全な薬品が使われるようになり、事故もほとんどなくなりました。
——へ〜化学実験みたいですね。形やデザインはどのように作っているんですか?
小泉さん:丸く開くふつうの花火の場合、半球状の「玉皮」と呼ばれる型の中に色の出る火薬をびっしり並べていきます。この火薬のことを花火業界では「星」と呼びます。星を詰め終わった玉皮をひとつに合わせて球体を完成させます。スマイルマークやハートなどのイラスト系は半球状の玉皮の一番上のところに、星を並べてイラストを作るんです。でも花火の玉って丸いので、打ち上げる時に回転しながら上がっていくじゃないですか。開いた時に向きが反対になってたりすることもあります(笑)。
——なかなかむずかしいんですね。色が変わっていく花火もむずかしいんですか?
小泉さん:内側から外側へ向かって色違いの星ごとに層を作り、年輪やバウムクーヘンのように並べてあるんです。星は外側から内側に向かって順番に燃えていくので、時間差で色が変化していくという仕組みです。
——あ、なるほど。ところで新しく作った花火って試し打ちとかしたりするんですか?
小泉さん:新作はもちろん、従来の花火を改良したときなんかも試し打ちしています。ときどき花火大会の中でも試し打ちをしていることがありますよ。もちろん、自分の会社が協賛している花火に限りますけどね(笑)
——花火師としてどんな思いで花火を作っていますか?
小泉さん:花火というのは、形の残らない「作品」なんです。形は残らないんだけど、人の記憶には残る。そう思って花火づくりをしています。いかに観客の記憶に残る花火を作れるか。それが花火師の腕だと思ってます。
——なるほど。「観客の記憶に残った」そんな手応えを感じるときってありますか?
小泉さん:花火を見たときの観客の反応がバロメーターになってます。歓声や拍手が大きかったときはうれしいし、手応えを感じますね。ただ、作り手と観客の視点の違いを感じることもあります。たとえば、作り手としてはイマイチだったなと思った花火に、大きな拍手や歓声をもらったときとか(笑)
——作り手の見方は素人とは違うんでしょうね(笑)。じゃあ自分が作った花火を打ち上げで、満足できるのはどんなときなんですか?
小泉さん:花火をチェックする上で大事なポイントがいくつかあります。まず、形がきれいな真円になっているかどうか。風などの影響もありますが、ゆがみのない円になっているときは満足できますね。つぎに、色の変化がきれいに変わっていくかどうか。だらだらと変わっていくのではなく、しっかりとメリハリのある変わり方が望ましいです。あと、花火の輪から星が飛び出ちゃうのはNGなんです。我々は見た目の派手さではなく、花火の完成度に目がいきますね。そういう意味では、自分が満足いく花火はなかなかできないですよ。
——なかなか厳しいですね。では最後に花火師としての夢を教えてください。
小泉さん:先ほどの話にも出ましたけど、花火は形が残らない作品ですので、人の記憶に残る仕事をしていきたいと思っています。我々が作って打ち上げた花火を見て、一瞬でも幸せになってもらえたら、それはもう花火師冥利につきますよね。花火の競技会に出場して腕を競うことも大事だと思いますが、観客に感動を与えることはもっと大事だと思います。
形の残らない一瞬の感動のために、大変な手間をかけて花火を作る花火師のみなさん。花火の出番が多い夏祭りシーズンだけではなく、1年中花火を作り続けているのだそうです。今年の夏は、そんな花火師の思いを感じながら、夜空に咲く花火を鑑賞してみてはいかがでしょうか。
新潟煙火工業
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