美味しいイタリア料理とカレーで人気のレストラン「IJIRUSHI insieme」。こちらのお店では他とはちょっと違うスパイスを使ったイタリア料理も楽しめるんだとか。今回はオーナーシェフの伊藤さんにお店をはじめるまでの経緯や料理のこだわりなど、いろいろとお話を聞いてきました。
IJIRUSHI insieme
伊藤 健之 Takeyuki Ito
1974年新潟市生まれ。趣味は格闘技鑑賞。学生時代のバーでのアルバイトをきっかけに料理に目覚める。大学卒業後、銀行に就職し、1年半ほど勤めたのち退職。24歳のときに柏崎市のイタリアンレストランで修業をはじめる。32歳のときに独立。移転を繰り返しながら2020年に現在の場所に「IJIRUSHI insieme」をオープン。
――まずは、伊藤さんが料理を仕事にしようと思ったきっかけを教えてください。
伊藤さん:大学生のときに飲食店でアルバイトをしていたのがきっかけです。ショットバーだったんですけど、オーナーはもともとイタリア料理の店をやっている人でした。だから、昼はイタリア料理のお店を手伝うこともあったし、バーで出しているおつまみもイタリア料理寄りでした。そこで週6で働いていたら、まだ学生だったんだけど店長を任せてもらえるようになったんです(笑)。それで料理に目覚めました。
――じゃあ大学卒業後は飲食店で働いたんですか?
伊藤さん:そのつもりではいたんですけど、思い切れないところがありました。せっかくなら4年制の大学を出たからこそ働けるような、飲食とは真逆の世界に行ってみたいと思って、堅い職種に就いたんです。けど1年半で辞めました。違うことをやったことで「料理がやりたい」っていう気持ちが明確になりました。
――その後はどうしたんですか?
伊藤さん:柏崎に有名なイタリア料理のお店があって、そこの門を叩きました。24歳のときに飲食の仕事をはじめたので、「人より遅くはじめたんだから人の4倍は働け」って言われて。「物理的に無理じゃねえか」って思いながらも、必死になって人の2倍くらいは働いていました(笑)
――自分のお店をはじめたのはいつですか?
伊藤さん:30歳のときに新潟市に戻ってきて、32歳で独立して、今とは違う場所でイタリア料理の店をはじめました。
――イタリア料理のお店でありながら、カレーも出していると聞きました。何がきっかけだったんですか?
伊藤さん:お店を大きくして席数を増やしたいと思っていたんですけど、味のクオリティは落としたくないから自分以外の人には作らせられない。そんなときに、「カレーなら自分が作ったものを他の人が盛り付ければいいから出せるかな」って思ったんです。
――他にもカレーを出しているイタリア料理のお店ってあったんですか?
伊藤さん:イタリア料理の有名な方で、出している人がいたんですよ。当時はそういうお店もあまりなかったし、僕もそういうことをやると「負けだ」じゃないけど、抵抗があったんです。だけど直接その人に相談してみたら「最終的にイタリア料理に着地できればいいんじゃないの」って言われました。確かに、日本で作っているようなイタリア料理は現地にはないわけだし。俺も頭を柔らかく考えてみれば「ありだな」って思えるようになりました。
――ふむふむ。
伊藤さん:そうしているうち、2店舗目として「カレーを専門で出すお店をやろうかな」とも考え始めるようになったんです。それで、ちょうどそのタイミングでインドに行く機会があったんですよ。
――カレーのお店をやるからインドへ行くことにしたんですか?
伊藤さん:全然、料理を勉強しに行くとかではなく(笑)。親しくしていた人が誘ってくれて、現地のお寺を巡る目的で行きました。
――「ついでにカレーの勉強もしてこよう」とは思わなかったんですか?
伊藤さん:インドの本格的なカレーを食べて、それを「作りたい」って思っちゃうと自分しか作れなくなっちゃうし、ややこしいなと思っていました。行くからにはカレーは食べるんだけど、カレーのお店をやることとは切り離して考えるように自分に言い聞かせていました。
――そうなんですね。実際に本場のカレーを食べてみてどうでしたか?
伊藤さん:やっぱり衝撃を受けましたね。「なんだこの美味しさ」って(笑)。料理をやっていると、テレビや本から無意識のうちに料理関係の情報を吸収していくじゃないですか。「この料理にはこういう調味料が入っていて、こうやって作ってるよね」って分かってくるんですよ。そうするとあまり刺激がないというか、感動がないんですよ。
――じゃあその情報や知識を覆すほど衝撃的だったわけですね。
伊藤さん:「何が入っているかまったく分からないけど美味しい」っていう(笑)。帰って来てからも「あれはどういうカレーだったんだろう」って、本を読み漁るようになりました。それから2店舗目のカレーのお店をはじめたんですけど、結局イタリア料理店の方を他のシェフにまかせて、僕がカレーのお店に入りました(笑)
――今ではスパイスを使ったイタリア料理も出しているそうですね。
伊藤さん:カレー屋は閉めて、また1店舗に絞って自分で店をやっていこうってなったときに、イタリア料理をベースにして、そこにスパイスを入れた料理を作るようになったんです。
――カレーのお店をやっていた経験が生きているんですね。
伊藤さん:もちろん伝統的なイタリア料理の作り方で出しているものもあるんだけど、スパイスを使って、本来のイタリア料理にはない味付けで出すようにしています。今出しているカレーも、自分のイタリア料理の知識や技術と融合させて作っているからインド料理でもないので、「スパイス料理」っていう言い方をしています。僕が美味しいと思うスパイス料理を作ると、インドっぽさもイタリアっぽさもあるんです。
――ますます食べてみたくなりました。伊藤さんおすすめのメニューはありますか?
伊藤さん:うちの看板メニューに「甘エビのトマトクリームパスタ」っていうのがあって、2006年のオープン当初からずっと出しています。アレンジを加えてはいるんですけど、修行先で教えていただいた思い出のメニューが元になっています。エビの出汁を取るときの大変さだとか、今でも修業時代を思い出すんです。エビと一緒に歩んできた16年間です(笑)。今もこれがいちばん人気ですよ。
――料理を作る上で、伊藤さんが大事にしていることは何ですか?
伊藤さん:料理を食べたお客さんに元気になってもらうっていうところですね。美味しいだけじゃダメで、「美味しい」の中に愛情だとか気持ちも宿っていなきゃだと思うんです。そういう考え方が好きっていうのも、僕がインドに惹かれた理由のひとつですね。「料理には気持ちが宿るんだな」って実感した料理があって……。
――どんな料理だったんですか?
伊藤さん:南インドのお寺に行って食べた、現地のお坊さんが作る精進料理みたいなものでした。バナナの葉っぱが並べられて、その上にお玉でベチャって置かれたものを手で食べるっていう(笑)。見た目は良くないんだけど、それが本当に美味しくて。感動するというか、人の温もりを感じる料理だったんです。気持ちを乗せて料理を作る大切さが、自分の中で明確になりましたね。
――お話を聞いていて、伊藤さんが「料理人」というお仕事に誇りを持っていることがすごく伝わってきました。
伊藤さん:俺は「料理人になろう」と思ってこの道に進んだし、未だに客観視してみても「料理人ってかっこいいな」って思うんです。だけど唯一嫌だなって思っていたのが「商売人になる」っていうことでした。「商売人は自分の利益をむさぼる」っていうイメージが小さい頃からあって(笑)。そこが嫌だったんだけど……。
――何か考えが変わる出来事が?
伊藤さん:「三方よし」っていう言葉を知ったんです。「売り手によし、買い手によし、世間によし」ってことで。売り手は利益を上げなきゃ商売を続けられない、けどそれで買い手が損をするようであれば短期的にしか続かないし、買い手も売り手も良くなって、世間に貢献できるようなことをやらないといけないっていう。その言葉を知って「自信を持って商人をやって行ける」って思えて救われたんですよね。
――その考え方が今も伊藤さんの土台になっているわけですね。
伊藤さん:自分がやっていることが世間にとって「よし」になってなきゃ意味がないなって思うんです。うちではグルテンフリーのパスタを出していて。意外とそういうお店ってないんですよ。自分の提供する食が世のためになるように、これからもやっていこうと思います。
IJIRUSHI insieme
新潟市中央区水島町 11-11 1F
025-255-1464
火~金 11:00-15:00(L.o14:00)/ 17:30- 21:30(L.o.20:30)
土日祝 11:00- 15:30(L.o.14:30)/ 17:30- 21:30(L.o.20:30)
月曜定休(他不定休あり)