南魚沼市の「Izakayaとなり」は、居酒屋の定番メニューに加えて沖縄の郷土料理や泡盛などが楽しめるお店です。添乗員として全国を飛び回っていたご主人が、「せっかく嫁いで来てくれた妻と一緒に地元で働きたい」とはじめたのだそう。奥さまの地元である西表島で暮らしていた頃の思い出やお店の人気メニューについてなど、いろいろとお話を聞いてきました。
Izakayaとなり
豊野 樹 Tatsuki Toyono
1980年南魚沼市生まれ。石川県の温泉旅館に就職し、そこで奥さまと出会う。その後地元に戻り、旅行代理店に10年間ほど勤務。奥さまの故郷である西表島で3年間暮らし、料理や居酒屋経営について学ぶ。2020年に南魚沼市に「Izakayaとなり」をオープン。スキーヤーとして活躍した経歴を持つ。
Izakayaとなり
豊野 理沙 Risa Toyono
1985年沖縄県生まれ。樹さんと同じく石川県の温泉旅館に就職。その後は実家が営む宿泊施設や関東などで働き、結婚を機に南魚沼市に転居。飲食店などで経験を積み、2020年に「Izakayaとなり」をオープン。人と旅が好きで、結婚するまでは国内外を旅行していた。
――おふたりは、温泉旅館の同僚だったんですね。
樹さん:フロントと仲居さんだったよね。僕は接客の仕事がしたくて、石川の温泉旅館に就職したんです。大きな旅館だったから、団体でお越しのお客さまも多くて。添乗員さんの仕事ぶりを見ているうちに、「あぁ、こういう仕事も接客業だよな」と興味が湧きました。20代半ばで地元に戻ってからは、旅行代理店に転職して。今度は自分が添乗員として全国に足を運ぶようになりました。
――理沙さんは、ご結婚されるまでどういったことをされていたんですか?
理沙さん:旅館にお世話になっていた期間は夫より短かったと思います。退職してからは西表島で家族が経営する旅館を手伝ったり、東京、埼玉でも働いて。それから、カナダ留学もしました。とにかく結婚するまでは、いろいろな場所を転々としていたんです(笑)
――ご結婚されてから、3年間ほど沖縄で暮らしていたとか。
樹さん:僕は添乗員としてあちこち行っているから家にほとんどいなかったんです。土日は仕事、帰宅時間も遅かったから、せっかくお嫁さんに来てくれたのに申し訳なくて。それで「ふたりで一緒に何かできないかな」と思うようになりました。
理沙さん:父と弟が西表島でパインとマンゴーを生産しているんです。そういったものを上手に生かして、「南魚沼市で何かしたいね」って話していたんだよね。実家が民宿を経営していて、子育てが一段落した姉も地元で居酒屋をはじめたんです。結婚前に、そこをお手伝いしていたこともありました。
――お家が居酒屋さんだったから、おふたりも興味を持ったんでしょうね。
理沙さん:お酒が好きだし、「居酒屋しかないよね」って感じでした。
樹さん:そうだね。そこはふたりの意見が一致して、ひとまずお店を出す準備も含めて「修業しに行くか」と沖縄に行きました。
――沖縄暮らしはどうだったんですか?
樹さん:俺は楽しかった(笑)
理沙さん:確かに、私より楽しんでいたよね。私は地元で長男と次男の出産を経験しました。家族に子どもたちの面倒を見てもらいながら、島の人との触れ合いもあって。バタバタしていましたけど、楽しかったですね。ほんとう、あっという間でした。
――お料理はそこで学ばれたんですよね。
樹さん:理沙の実家の居酒屋は、けっこう手が込んだ料理を出すんですよ。基本的にはすべて手作り。当時の料理人さんもすごいやり手だったんですよ。料理人としてずっと包丁を握り、島の魅力に惹かれて移住した方でした。西表島の食材をふんだんに使った創作料理が得意で。その人と義理のお姉さんからいろいろ教えてもらいました。
――お店のメニューには、理沙さんのお家の味が再現されているんでしょうか?
樹さん:そういうメニューもあります。沖縄の郷土料理「ジーマミ豆腐」とサーターアンダギーは、おばあちゃん直伝の一品です。もずく酢のタレのレシピも教えてもらったものですね。
理沙さん:「これ何?」っていうメニューもあると思うんです。でもだんだんと皆さんに知ってもらえて、沖縄料理が浸透してきているなって感じます。
――人気メニューは?
樹さん:「ジーマミ豆腐」がおすすめです。沖縄でも手作りしているお店は少ないと思いますよ。濾したピーナッツをじっくり時間をかけて錬るから、時間と手間がかかるんです。この前は、「沖縄で食べたジーマミ豆腐より美味しいです」って言ってもらえて嬉しかったですね。
理沙さん:もともとは実家でお通しとして出していたメニューだったんです。観光客の方にすごく評判で、おかわりのリクエストが続出したのでグランドメニューとなりました。揚げ出し豆腐みたいな食べ方もあるんですよ。
――オープン時は、どんなお店にしようと思っていたんですか?
樹さん:地元にいながら働きたいと思って、会社員から転身しました。なので、「地元でもやりたいことできるんだぞ」って、楽しんで働いている姿を若い子たちに見せなくちゃなと思っています。南魚沼市は人口も減っているし、都会に出て帰ってこない人も多いから。このご時世「沖縄料理屋だってできるんだから、なんでもできるよ」と思っています。
――雪深い南魚沼市出身の樹さんと南国生まれの理沙さん。それぞれお相手の地元で暮らして、驚いたことはありませんでした?
樹さん:う~ん。ヤギを食べることかな。
理沙さん:私が最初にびっくりしたのは建物ですね。屋根から雪が落ちるように斜めになっているから驚きました。沖縄は基本は平屋なので。あとは地面から消雪のために水が出るとか、いっぱいあります。四季がはっきりしている感動もありました。
――理沙さんのご実家は今も営業しているんですか?
理沙さん:居酒屋は閉めて、今はそこでカフェをしています。とてもこだわっていて、特にパイナップルとマンゴーを使ったパフェが人気みたいです。「Izakayaとなり」では、ドリンクメニューに実家のパイナップルを使っています。お店にパイナップルのカタログを置いているので、弟が「南魚沼市からの発注が増えたよ」と喜んでいます。
――オープンから5周年を迎えますね。これからはどんなお店を目指していますか?
樹さん:義実家の民宿の名前が「パイン館」。居酒屋はその隣にあったから、「パイン館の隣」っていうので、地元の人は「となりに行ってくる」って言うんですよ。それがすごくいいなと思って。「隣の家にちょっと行ってくるね」みたいな気軽さを感じたんです。そんなお店になりたいなという願いを込めて「Izakayaとなり」という店名にしました。
理沙さん:私は沖縄をもう少し知って欲しいなと思っています。私、新潟と沖縄ってあまり遠く感じないんですよね。飛行機に乗ってしまえばすぐですから。
――でも「Izakayaとなり」さんがあるから、案外、沖縄文化は浸透しているかもしれませんよ。
理沙さん:確かに、お店を始めてから「沖縄に行ってきました」「旅行から帰って来たばかりで沖縄が名残惜しくて」「旅行前に勉強しに来ました」というお客さまにお会いできるようになりましたね。それこそ、近所のおじさんが沖縄好きで、子どもにもいろいろな体験をさせたいっていうので、去年一緒に沖縄に行って来ました(笑)。「これから西表島に行って働きます」というお客さまに実家を紹介したら、いつの間にかそこで働いていたなんてこともあったんですよ(笑)
南魚沼市一村尾1839
tel/025-775-7960
定休日/水曜日
営業時間/17:00~23::00