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季節にこだわった料理や雰囲気を楽しめる岩室温泉の「懐石 秀石菴」。

これから秋が深まって山々が色づきはじめ、紅葉見物や温泉に行きたくなる季節がやってきます。新潟市にある岩室温泉は、市内の中心部から気軽に行ける温泉街として人気があります。そのなかに、東京の名店「茶懐石 和幸」で修業したふたりの職人が営んでいる「懐石 秀石菴(かいせき しゅうせきあん)」というお店があるんです。今回は店主の小林さんと阿部さんにお話を聞いてきました。

 

 

懐石 秀石菴

小林 信太郎 Shintaro Kobayashi

1969年新潟市西蒲区(旧岩室村)生まれ。東京目白にあった「茶懐石 和幸」で10年間修業を積み、1997年に岩室温泉で「懐石 秀石菴」を開業する。器集めが趣味。

 

懐石 秀石菴

阿部 竜太 Ryuta Abe

1970年新潟市西蒲区(旧岩室村)生まれ。東京目白にあった「茶懐石 和幸」で10年間修業を積み、小林さんと共に「懐石 秀石菴」を開業する。趣味は野点(のだて)と山菜採り。

 

東京にある茶懐石の名店で修業をしたふたり。

——おふたりはどういうご関係なんですか?

小林さん:兄弟なんですよ。

 

——あれ? でも苗字が違いますよね。

阿部さん:私は婿に行ったので苗字が違うんです。

 

——ああ、なるほど。兄弟揃って料理人を目指したということは、実家が代々続いてきた懐石料理のお店なんでしょうか?

小林さん:以前は祖父が開業した魚屋だったんです。でも時代の流れもあって魚屋の経営が難しくなってきたので、私達が懐石料理の店をはじめました。

 

阿部さん:魚屋をはじめる前は袋屋だったようで、魚屋になってからもずっと「袋屋」と呼ばれていました。この店をはじめたときは「懐石 秀石菴」という店名に戸惑う人が多かったですね(笑)

 

 

——そうだったんですね。懐石料理のお店にしたのは、岩室温泉という場所柄を考えて?

小林さん:私達兄弟が修業させていただいたのが、東京目白にあった「茶懐石 和幸」というお店だったんですよ。

 

——名前は聞いたことがあります。どういうお店なんですか?

小林さん:もう閉店してしまったのですが、茶道のお家元のお抱えの料理店で、お茶事や接待等に利用される茶懐石の名店でした。NHK や料理 専門誌に取り上げられる他に書籍もたくさん出版されていて、そういう場合はお店の営業が終わった深夜に料理写真の撮影がはじまるんです。寝る時間がなくて1日2時間眠れればいい方でした(笑)。でも、その経験があったからこそ、今でも徹夜で仕事をすることができるんです。

 

阿部さん:大寄せ茶会がおこなわれると600人以上のお客様が集まるので大変でしたね。正月はお休みをいただけるんですけど、休み明けには初釜という新年最初のお茶会が恒例になっていたので、眠れない地獄のような生活が2週間続くんです(笑)。でも国宝級の器を間近で見ることもできて、普通ではできない経験をさせていただきました。

 

 

——そのお店では、どれくらい修業をされてきたんでしょうか?

小林さん:ふたりともそれぞれ10年間修業して、親方からお墨付きをいただきました。10年の修業期間でしたけど、私にとっては15年分の濃さと重さがある時間でしたね。

 

阿部さん:親方の高橋一郎の元でなければ、学べないことばかりでしたので、大変貴重な時間でした。茶懐石のお店ということもあって、当時はハードルが高くてなかなか行けなかったという方達が県内外は問わず、 私達のお店へ足を運んでくださいます。大変嬉しいことです。

 

季節感や風情にこだわったお料理とおもてなし。

——開業してみて反響はいかがでした?

小林さん:最初は全然お客様がなかったですね(笑)。でも、親方から「温泉街で懐石料理の店を営業すれば、必ず旅館から料理を頼まれるから大丈夫」と言われていたので信じて待ちました。そうしたら、本当に旅館から料理の注文をいただけるようになったんです。

 

阿部さん:「素泊まりプラン」の料理をご注文いただいているんですよ。お互いにいい関係でやらせていただき、本当に有り難いと思っています。

 

——温泉街ならではですね。

小林さん:最近は飲食店も増えてきましたけど、岩室温泉内の飲食店が激減していた時期もあるんです。食事できる場所が無いからお客様が困っていましたね。常連のお客様から連絡をいただいて、急遽お店を開けたこともありましたよ(笑)

 

——そんなこともあったんですね(笑)。それにしても、立派なカウンターですね。

小林さん:樹齢300年の橡(とち)の木を使った5メートルの一枚板なんです。ところどころに木の葉が埋め込まれていて風情があるんですよ。

 

 

——なかなか凝っていて懐石料理のお店ならではの風情を感じますね。

小林さん:季節感は大切にしていますね。使う器も季節ごとにすべて変えるようにしているんですよ。

 

阿部さん:店先も暖かい季節は麻の暖簾ですけど、寒い季節になると綿の暖簾に変わります。店の入口も簾戸から障子に変わりますし、カウンターの後ろにある壁も色味や模様が変わるんです。

 

——そこまで模様替えをするんですか。料理でも季節感を大切にしているんでしょうね。

小林さん:もちろんです。春は筍や山菜、夏は鮎、今の時期は栗や松茸をメインにしています。これから寒くなってくると鴨や蟹、すっぽんを使うようになりますね。

 

 

——他にはどんなこだわりがありますか?

小林さん:私が料理を作る上で大切にしていることは、昆布とカツオでしっかりとダシをとることと、天然物の魚を使うということですね。今の時代、既製品で誰でも何でも作れてしまいますけど、食べてみると全然違いますよね。 わさびも 生産者さんと御縁があって、 静岡産のわさびを使用しています。 このわさびは 味も香りも 格段に違います。

 

阿部さん:わさびのおかわりをするお客様もいらっしゃいました(笑)。例えばお造りのお醤油は加減 醤油というものをお作りします。その日のお魚に合わせて 柑橘 やお出汁などで作るお醤油です。あまりに美味しいので飲み干したい位とよくおっしゃっていただいています。

 

——調味料まで作っていたら、かなりの手間ひまが掛かりますよね。

小林さん:人間は大ざっぱだけど、仕事は細かいんですよ(笑)

 

阿部さん:お客様からは「変態の料理」と言われました。最上級の褒め言葉だと思っています(笑)。茶懐石の料理を35年続けてきた者として、これからも 誠実に本質的な日本料理をお届けし続けて行きたいと思っています。

 

 

 

懐石 秀石菴

新潟市西蒲区岩室温泉617

0256-82-2009

12:00-14:00/17:30-22:00

不定休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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