地元が誇る伝統芸能を後世につなぐ
「角兵衛獅子保存会」
カルチャー
2026.06.18
新潟市南区には江戸時代から続く「角兵衛獅子(かくべえじし)」という伝統芸能があります。旅装束に身を包んだ子どもたちが小さな獅子頭をかぶり、曲芸や舞を披露する大道芸。明治になって姿を消したものの、昭和11年に結成された「角兵衛獅子保存会」により復活し、今日まで代々守られ続けてきたのです。今回は「角兵衛獅子」の練習日にお邪魔して、お囃子を担当している登石さんからお話を聞いてきました。
登石 亙
Wataru Toishi(角兵衛獅子保存会)
1960年新潟市南区(旧月潟村)生まれ。旧月潟村役場と新潟市南区役所であわせて45年間勤め上げ、2015年より「角兵衛獅子保存会」でお囃子を担当する。高校時代はロックバンドでドラムを叩いていた。現在はウォーキングと晩酌が日課。
「角兵衛獅子」のはじまりは
仇討ちのための犯人探しだった?
――まずは「角兵衛獅子」について、どのようなものなのか教えてください。
登石さん:江戸時代に諸国を回っていた子役の旅芸人で、小さな獅子頭をかぶった子どもたちがお囃子に合わせて軽業(かるわざ)や踊りといった大道芸を披露していたんです。これが大変人気を呼んだことから、今まで歌舞伎や映画、歌謡曲の題材にも取り上げられてきました。なかでも美空ひばりさんの「越後獅子の唄」が有名ですね。
――「角兵衛獅子」の「角兵衛」って誰のことなんでしょう?
登石さん:「角兵衛獅子」の発祥にはいくつかの説があります。殺された角兵衛の息子ふたりが、犯人を捜して大道芸をしながら諸国を回るんです。犯人の目印が角兵衛に噛み切られた足の指だったので、大衆のなかで逆立ちを披露して指のない足を探したことから「角兵衛獅子」と呼ばれるようになったと伝えられています。
――なかなかドラマチックな逸話があるんですね。
登石さん:もう一説には、信濃川の氾濫によって田畑を流され飢えに苦しむ村を救うため、角兵衛という人が村人に獅子舞を教えて諸国巡業をしたとも伝わっています。口減らしや出稼ぎといった面があったのかもしれませんね。
――当時の厳しい世のなかを反映していますね。いずれにしても、江戸時代から続いてきたとは……。
登石さん:でも明治に入ってから、子どもの義務教育制度が実施されたこともあって、「角兵衛獅子」は姿を消していくことになるんです。
――時代が変わったんですね。「角兵衛獅子保存会」はいつ頃結成されたんでしょうか?
登石さん:昭和11年に料亭の芸妓さん達によって結成され、その舞が伝承されることになりました。昭和34年には子どもたちによる芸として甦ることになり、平成27年にはお囃子も生演奏で復活したんです。現在は市指定の無形民俗文化財に指定されています。

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代々受け継がれてきたからこそ
自分の経験を生かした指導ができる。
――「角兵衛獅子」の練習日は毎週土曜日なんですか?
登石さん:はい、割烹の女将さんが保存会をまとめているんですけど、その娘さんたちが指導にあたっています。子どもたちのお母さん方も練習のお手伝いをしてくれるんですよ。
――とてもアットホームな雰囲気ですね。
登石さん:兄弟や親戚が「角兵衛獅子」をやっている姿に、憧れて入ってきた子も多いんです。だからわからないことは兄弟や親戚に教わったりして、代々受け継がれています。指導している先生方も子どもの頃にやっていましたし、私の娘たちもやっていました。先生方も自分がやっていた経験を踏まえて、アドバイスしているようです。
――経験者ならではのアドバイスができるんでしょうね。
登石さん:すぐにできる子もいれば、できるまで時間のかかる子もいて、それぞれに能力が違うこともあるので、その子のペースに合わせて、焦らずゆっくりと教えるようにしているようです。
――できるようになったときは嬉しいんじゃないですか?
登石さん:舞台で披露するときは、見ているこっちも緊張します(笑)。たとえ失敗しても最後までやり遂げてくれたら嬉しいですね。子どもたちが頑張って芸を披露する可愛い姿が「角兵衛獅子」の魅力だと思います。

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カセットテープだったお囃子が、
生演奏としてよみがえる。
――登石さんが「角兵衛獅子」のお囃子を担当するようになったいきさつを教えてください。
登石さん:「角兵衛獅子」が復活してから長い間、お囃子は生演奏じゃなくてカセットテープだったんです。それをデジタルデータ化することになって、当時公民館にいた私が東京のNHKまでテープを持って行ったんですよ。
――東京まで行ったんですね。
登石さん:そのときに「録音じゃなく生演奏でやりたい」と考えたんです。ところが譜面に起こしてもらったものの、五線譜とはまったく違うので戸惑いました。先生が月に一度教えにきてくれるものの、そんなペースでは覚えるのに時間がかかると思ったので、週一度集まって練習会を開きました。でも結局、お披露目まで3年かかってしまいました。
――覚えるまでに大変な苦労があったんですね。お囃子の際に心がけていることはありますか?
登石さん:演じている子どもたちとの息を合わせることですね。子どもの動きが遅れたときは、アドリブで間をつながなければならないんですよ。最初の頃はイベントで披露したときの動画をDVDで観ながら、家で太鼓を叩いて練習していましたね。
――生演奏だからこそできることですよね。今後はどのように「角兵衛獅子」を守っていこうと思っているんでしょうか?
登石さん:お囃子の後継者を育てて、つないでいくことを考えています。もうCDの音源に戻るわけにはいかないですから、メンバーを募って週に一度レッスンをしているんです。見慣れない譜面に慣れていただくためにも、ゆっくりと覚えていただいています。練習だけではモチベーションが上がらないので、今後は発表の場を設けていきたいですね。
――今後も「角兵衛獅子」を守り続けていってください。
登石さん:他の地域には見ない伝統芸能ですので、これからも後世につないで残していきたいですね。6月27日(土)28日(日)の「月潟まつり」では、日曜に「角兵衛獅子」の披露があります。また、9月27日(日)には「月潟大道芸フェスティバル」にも出演しますので、興味のある方はぜひお越しください。


角兵衛獅子保存会
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