2015年にスタートしたイベント「にいがた醸造サミット」。2月11日、朱鷺メッセを会場に4年ぶりの対面形式で開催されます。「造り手の想いが、一番のご馳走」というコンセプトで、日本酒、ワイン、ビールなどの醸造酒、そして味噌やチーズなどの発酵、それぞれの造り手の想いが醸し出す、醸造家(首脳)同士の「サミット」トークが最大の魅力のイベントです。今回は出展する醸造家が持ち寄るお酒に加え、新潟県内のほぼすべての醸造所から全110種以上のお酒が大集合。今回は総合プロデューサー・酒学講師としてイベントの企画・運営を行っている「Niigata Sake Lovers」のデュケットさんと、出展者の「KIYO wines」坂爪さん、「t0ki brewery (トキブルワリー)」藤原さんにお話を聞いてきました。
Niigata SAKE Lovers
デュケット 智美 Tomomi Duquette
1980年新潟市生まれ。実践女子大学在学中にオーストラリアとアメリカへ短期、卒業後に長期でカナダへ留学。現地でのワイナリーやブルワリー巡りで醸造の面白さを知る。帰国後は通訳としてエンジニアの企業に勤務。通訳をする中で日本酒の技術的な知識が必要だと感じ、日本酒学を勉強する。2013年に「Niigata Sake Lovers」を結成。現在はマリアージュ酒学講師として様々な新潟の食と酒のイベントプロデュース、海外向けの観光PRの映像や広告制作、翻訳、レストランや酒蔵へのコンサルティング業を行っている。
KIYO wines
坂爪 清志 Kiyoshi Sakatsume
1974年新潟市生まれ。ニュージーランド国立リンカーン大学栽培醸造学科を卒業後、複数の自然派ワイナリーで経験を積む。在学中から多くのナチュラルワインの造り手と出会い、自分が目指すべきワインを自覚し新潟へ帰郷。現在、間借醸造というスタイルで複数のワイナリーにてワインを醸造している。
t0ki brewery
藤原 敬弘 Takahiro Fujiwara
1986年北海道生まれ。国立苫小牧工業高等専門学校卒業。日立製作所を経て、2011年フラー株式会社を共同創業し、取締役CTOに就任。2020年に株式会社ビアパイントを創業、代表取締役に就任。その後、佐渡島にクラフトビール文化を輸入すべく、月100L近くのクラフトビールを島外から運び続ける。オーナー兼ヘッドブルワーとして「t0ki brewery」を設立。
――本日はよろしくお願いします。ところでみなさんはどういうご関係で……?
デュケットさん:私は「にいがた醸造サミット」の発起人のひとりで、今は総合プロデューサーとして企画・運営と、当日の酒学講師を務めています。坂爪さんは元々醸造についてよく語り合う仲間で、藤原さんは今回初めてお声かけして、醸造サミットに出展いただくことになったブルワリーさんです。
――なるほど。ではまずは「にいがた醸造サミット」がどんなイベントか教えてもらえますか?
デュケットさん:新潟県内で造られている日本酒、ワイン、ビールが合わせて110種類以上集まる、県内最大規模のお酒のイベントです。お客さんには醸造家さん同士のステージトークを楽しんでもらいながら、美味しいお酒を味わっていただけます。
――ステージトークはどんな感じで進むんでしょうか?
デュケットさん:一番最初に乾杯!…かと思いきや、「知る」はいちばんのご馳走なので、まずは「醸造酒学講座」で、それぞれのお酒の作り方の違いや面白さを知っていただきます。そして「んー美味しそう!」と思ったところで乾杯! そこからは醸造家さんたちをお呼びして、「ビール vs ワイン」とか「日本酒 vs 味噌」みたいに、お互いの発酵、文化、楽しみ方、考え方など、色々な面から違いと共通点について掘り下げて熱いお話をしていただく予定です。
――2015年にはじまったイベントなんですよね。どんな経緯でスタートしたんでしょうか。
デュケットさん:私は生まれも育ちも新潟市なんですけど、20代はずっと海外に行っていて、翻訳や通訳の仕事をしていたんです。日本に帰ってきてからは、海外から来たお客様を日本酒でおもてなしすることが多くなって。それであるときお客様を連れて酒蔵さんに行ったんですけど、酒蔵の方が教えてくれる話がテクニカルすぎて、まったく分からなかったんです(笑)
藤原さん:専門用語だと翻訳もできないですしね(笑)
デュケットさん:そうそう。だから周りの外国の人たちと一緒に「私が通訳するから、日本酒の勉強をしよう」ってことではじめたのが、私が代表を務める団体「Niigata SAKE Lovers」なんですよ。
藤原さん:海外の人の方が日本のお酒に興味を持っていることもありますよね。
デュケットさん:本当にそうなんです! 「Niigata SAKE Lovers」に関わるようになってから、蔵の人のファンになって、日本酒も大好きになった海外メンバーがたくさんいます。そこで「造り手に会うことによって生まれる化学反応って面白いな」と思ったのが、このイベントをはじめた大きい理由ですね。そこからいろんな方に声をかけて、実際に第1回目を開催したのが2015年です。
――日本酒、ワイン、ビールと、いろんなお酒を集めたイベントにされたのはどうしてですか?
デュケットさん:2015年の頃なんですけど、新潟は日本最大級の「酒の陣」、ビール「オクトーバーフェスト」、ワインも「ワインフェス」とかぞれぞれのイベントはあるけど、同じ発酵から造られるこの3つが全部一緒に楽しめるイベントってないなって思ったんです。
――確かに。新潟には美味しいお酒がたくさんあるのに、なんだかもったいないですよね。参加したお客さんからはどういう声がありましたか?
デュケットさん:実際に開催してみると「普段ビールばかりで日本酒やワインは敬遠してたけど、試したらすごく美味しかった!」「杜氏さんのファンになったし、日本酒の味も思っていたのと違って美味しかったから、これからはもっと飲んでみるよ」「ビールは苦手って思ってたけど、これなら飲める!」とか、喜びの声をいただきました。
――醸造家さんにとってはどうだったんでしょう?
デュケットさん:造り手さんたちからも「イベントをやっていると、嬉しいことだけど年数を重ねていくと顔ぶれがだんだん同じになっていく。だけど醸造サミットでは出会ったことのないお客さんと話ができて、いつもと違う感じで面白かった」って言っていただけましたね。自分が普段好きなものに深く触れられて、プラス、他の醸造酒同士を横断した新しい発見があるから、お客さんにとってもやっている私たちにとっても面白いイベントだなって思います。
――お客さんに醸造家さん同士のトークを楽しんでもらうことにこだわったのは、どうしてですか?
デュケットさん:お客さんと造り手さんがお話しできるイベントって、結構あると思うんですよ。私たちも最初はそういうふうに、お客さんからブースに行って造り手さんと話をしてもらう、っていうイメージだったんです。だけど打ち合わせをしているときに、普段ワインを造っている人たちが「えっ、日本酒ってそうなんだ」って言ったり、反対に日本酒を造っている人たちが「ワインってそうなんだ」って言ったり、対お客さんではなく造り手同士がそれぞれの違いについて話しているのが面白かったんですよね。
坂爪さん:ワインの原料は葡萄で糖分も水分も入ってるけど、ビールと日本酒は穀物で水分ないしね。それに同じ米使ってても味噌とか醤油も違いあるよね。
デュケットさん:そうそう!日本酒の造りの話に味噌蔵の人が入ったら、「共通点はたくさんあるのに、同じ糀が違う働きをしたり、違うところもたくさんあって面白いね!」というふうに、どんどん化学反応が起きていくのを目の当たりにしたんです。「これはきっとお客さんも聞きたい話だ!」と思って、造り手さんたちを「首脳」に見立てて、首脳が一堂に会して「醸造の面白さとこれからの新潟の醸造の未来を議論する、みたいな壮大なイメージ(笑)から、「醸造サミット(首脳会議)」という名前を付けたんです。
坂爪さん:俺たち首脳なんだね(笑)。でもこんなにたくさん新しいことやってる醸造家が集まって普段聞けない話を聞きながら飲めるって、贅沢なイベントだよね。
――同じお酒でも原料とか造り方はまったく違いますもんね。
デュケットさん:私も話を聞けば聞くほど違うところがたくさんあるなって思ったし、反対に共通点もすごくあって。やっぱりそのお酒のことを知れば知るほど美味しく感じるし、そういう発酵の面白さをもっといろんな人たちに知ってもらいたいって思ったんです。だからせっかくだからこの「醸造サミット」で、いろんな醸造家さんたちのコアなトークを聞いてもらおうってことになったんですよ。
――食べ物もお酒も、その背景を知るともっと美味しくなるし、どんどん好きになりますよね。
デュケットさん:同じ「発酵」でも日本酒、ワイン、ビール、味噌、チーズとか、面白さや魅力を知るとどんどん飲みたくなるし、食べたくなるし、人に伝えたくなる。そういう人が増えて欲しいから、このイベントをしています。しかも最後は新潟のPRにもなるっていう。好きなことが地域のためになるって、すごく嬉しくないですか?(笑)
――みなさんはトークを通じてお客さんにどんなことを伝えたいですか?
藤原さん:醸造の垣根って年々なくなっていると思います。クラフトビールなんかは特に顕著で、なんでもやります。ワイン樽に熟成させることも、日本酒酵母を使うことも、開放発酵で空気中にいる微生物に麦汁を醸させるなんてことも。いろんなお酒のいいところを取り入れて、新しい飲み物が開発されているんです。この背景には醸造家同士のコミュニケーションがあると思っています。最近は若手がどんどん醸造をはじめている。だからこそ新しい飲み物が開発されて、お酒が好きな人が楽しめる環境になってます。そういう場が提供されること自体が自分にとっては非常に楽しみですね。
デュケットさん:わかる! 醸造家さん同士で「あれしたら面白いよね」「これもいいんじゃない?」みたいな話を聞くとすごくワクワクするし、醸造と新潟の未来を感じますよね。
――それは私も聞いてみたいですね。他にもありますか?
デュケットさん:あとはお酒とのマリアージュ……食べ合わせも楽しんでほしいんですよね。「ワインには貝類は合わないだろう」と思い込んでいても、海辺のワイナリーさんが造った淡麗のワインと合わせてみるとすごく美味しかったり。お刺身に「お醤油とわさび」を合わせるよりも「オリーブオイルとハーブ」を合わせたほうが美味しく感じる日本酒があったり。そういった食べ合わせの面白さを知ることで、お酒の楽しみ方が増えたらいいなって思っています。
――とういうことは、当日はフードの用意も……?
デュケットさん:もちろんです。今回は「新潟古町 而今」さん、「Tsubamesanjo Bit」さんにワインと日本酒、ビールに合うとっておきのマリアージュフードを提供してもらいます。日本酒とイタリアンが実は相性いいとか、和食に合うワインもあるって知っていました?
――日本酒にイタリアンですか! 試してみたいですね。お食事以外もあるんですか?
デュケットさん:「峰村醸造」さんのお味噌を使ったチーズケーキ、「Bake A.」さんの日本酒や酒粕、味噌を使った焼き菓子などもあります。
――お酒が飲めない人にスイーツは嬉しいですね。
デュケットさん:ハンドルキーパーさんとか辛いですよね。今回実は「Small World Cafe」さんと十日町の「醸す森」さんから、ノンアルコールの発酵ドリンクも用意してもらってるので、「お酒は飲めないけど発酵は好き」っていう方にも来て楽しんでもらえるように企画しています。
――チラシを見たら、抽選会まであるんですね。
デュケットさん:景品の豪華さがすごいんですよ。新潟のプレミアな日本酒、ワイン、ビールにはじまり、「醸す森」の宿泊券、先週販売してすぐにチケットが完売した「酒の陣」の入場券とか。超盛りだくさんなので、来ないと絶対損ですね(笑)
――最後に、どんな方にこのイベントをおすすめしたいですか?
藤原さん:「とにかく美味しい、楽しい飲み物を楽しみたい!」って方に来てほしいですね。「t0ki brewery」は品質はまだまだですが、頑張って改善していっています。次会うときはもっと美味しくなっているはずです。クラフトするって「品質に拘る」「その人にしか表現できない味を造る」ってことなんじゃないかなと思っています。ってことはやっぱり、会う度に変わっていてほしい。その年の味を愉しんでほしい。そのために造り手が参加するイベントに来てほしいですね。
坂爪さん:僕が来て欲しいのは、とにかく発酵に興味がある人。今って自分で味噌を作ったり、フルーツでビネガーを作ったりする人も多いじゃないですか。そういう感度の高い人たちに来て欲しいですね。あとは「これから自分でも発酵をやってみたいな」っていう人にとっても、何かしらヒントになるかも。
デュケットさん:私は自分の好きなお酒を見つけたいとか、そういう好奇心旺盛な人にぜひ来て欲しいですね。それに同じお酒を飲むなら造り手の顔が見えていた方がいいし、食べ物も、せっかく口にするなら少しでもいいものを食べたいじゃないですか。発酵の仕組みとかを知ることで、自分の生活が少しだけ豊かになると思うんですよ。
にいがた醸造サミット
開催日時:2月11日(土・祝)
会場:朱鷺メッセ2F メインホール
昼サミット:11:00 – 15:00(上限350名)
夜サミット:16:00 – 20:00(上限350名)
撮影場所提供:non- チーズとワイン