お寺 × 図書館 × 居場所
旧与板町の「ののさま文庫」
カルチャー
2026.04.24
長岡市旧与板町にある「照覺寺(しょうかくじ)」の本堂で、週2回オープンしている小さな図書館「ののさま文庫」。本をきっかけに人が集い、思い思いの時間を過ごせる場所として地域に根づいています。「お寺に足を運ぶ人が減っている現状をなんとかしたい」と、この取り組みをはじめた管理人の竹内さんにいろいろとお話を聞いてきました。
竹内 幸子
Sachiko Takeuchi(ののさま文庫)
1967年長岡市生まれ。結婚を機に与板地域にある「照覺寺」に入る。2022年、本堂を活用して「ののさま文庫」をはじめる。
照覺寺のこの先はどうなる?!
「ののさま文庫」のはじまり。
――そもそも、どうしてお寺で図書館をはじめようと思われたんでしょう?
竹内さん:コロナ禍で、お寺の行事がいっさいできなくなってしまって。当然、地域の皆さんがここに来ることもなくなりました。それでなくてもお寺離れが進んでいる昨今ですから、「この先どうなってしまうのだろう」という不安を感じていたんです。「なんとかして『照覺寺』に人が訪れるきっかけはないものだろうか」と、図書館をはじめてみることにしたんです。
――参考にした他のお寺さんの取り組みなどは、あったんですか?
竹内さん:最近は、マルシェを開催しているお寺さんも増えましたよね。憧れはあるものの、「照覺寺」にはイベントのような企画はあまり向いていないような気がしたんです。賑わいよりも、日常的に足を運んでもらえるもの、お寺を居場所にしてもらえる取り組みをしたいな、と思っていました。
――でもどうして、「図書館」だったんですか?
竹内さん:私はもともと本が好きなので。図書館であれば、借りて、返してと、自然と立ち寄ってもらえるだろう、と思ったんです。
――本がお好きということは、きっと竹内さんのご自宅にはたくさんの本があるんですね。
竹内さん:本は毎日読むんですが、取っておくタイプじゃないんです(笑)。図書館で借りることも多いですしね。
――じゃあ、「ののさま文庫」にある本というのは……?
竹内さん:一部寄付していただいものもありますが、ほぼすべて個人で買いそろえました。この図書館は私の趣味だと思っています。趣味にはお金がかかりますものね(笑)
――図書館の本にどれだけご自身の趣味を反映するか、迷いませんでした?
竹内さん:ここにある本は、私が気に入って「いいな」と思ったものばかりです。自分が過去に読んでおもしろいと思った本、利用者さんに気軽に手に取ってもらえそうな本を置いています。でもほんとうは、私、暗めの作品が好きなんですよ。最近だと、村田沙耶香さんとか小川洋子さんとか。皆さんには、心温まる瀬尾まいこさんの作品などをおすすめするんですけど、個人的にはドロドロ系が好みなんです。でも、そういう作品ばかり置いていても仕方ないでしょう(笑)
――絵本も充実しているみたいですね。
竹内さん:よくいらっしゃる保育士さんが、「あの人の絵本がよいですよ」「この本が人気ですよ」と教えてくださるんですよ。読んでみると「確かに素敵だわ」と思える本がたくさんあるんですよね。
――何冊くらいの本があるんですか?
竹内さん:本堂に並べていない本も含めて、3,000冊はあると思います。最初はわずかな冊数からはじめたんですよ。本堂の一角にカラーボックスを3つ置いて、そこに収まるくらいでしたから。
――どんな方がいらっしゃいますか?
竹内さん:当初はご近所の方が来てくださるだろうと予想していたのですが、実際にはSNSやメディアの記事を見て遠方からいらっしゃる方が多いです。それでも利用者さん同士のつながりが生まれてくるものなんですよね。図書館であり、「コミュニティの場」みたいな側面もあると思っています。「特別な用事がなくてもふらっと来れる」「自分では選ばない本と人との出会いがある」「一期一会に恵まれる場所だ」と言ってくださる方もいます。嬉しいですね。

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「いつか本に関わる仕事を」と願い、
気づけば本に囲まれる日々に。
――ところで竹内さんは、嫁いでから何十年も「照覺寺」を支えてこられたと思います。以前と今とで、「変わった」と感じるのはどんなところですか?
竹内さん:お参りしていただく機会がものすごく減りました。ひと昔前は、おばあちゃんがお参りに通っていたのにできなくなった、というのであれば、次の世代が受け継いでくれました。でもそういう文化は今はなかなか伝わらないものですよね。お参りしてくださる世代の方だって、お仕事が忙しいでしょうから、お寺から足が遠のいてしまうのは仕方ないのかな、という気持ちもあります。
――一方で身内に不幸があったときなどは、いてもらわないと困る存在です。いつお役目がきてもいいように気を張っているのでは。
竹内さん:それこそ昔は、今よりも「休む」という感覚がなかったですね。普段は庫裏(くり)といって本堂とつながっている住まいにいるのですが、そこへご近所さんが「いなしたかね(いましたか?)」とよく顔を出してくださいました。
――「ののさま文庫」がスタートしてから生活にも変化があったのでは。
竹内さん:館長は息子である「照覺寺」の住職で、私は管理人です。少しずつ「ののさま文庫」が大きくなって、管理人業が仕事みたいになっています。開館時間は、日曜日の7:00~15:00と月曜日の9:00~12:00で、それ以外は気になる本を調べる時間に費やしています。すべて新書でそろえることはできないので、古本屋さんを巡ったり、図書館に通ったりして。本を中心に生活しています(笑)
――新しい生活をどう感じていますか?
竹内さん:もともと本が大好きで、一生のうち、いつかは本に携わる仕事をしてみたいな、とずっと思っていました。長岡の大型書店で働くのもいいな、みたいに。でもお寺のいろいろな業務を考えると「無理だろう」と諦めていたところもあって。「ののさま文庫」をはじめたのは、55歳のときでした。年齢を考えるとやりたいことをするには今しかないな、と思ったんですね。それも、大きなきっかけです。
――思い続けていたことが、こんなかたちで実現するなんて。
竹内さん:「照覺寺」はそれほど大きなお寺じゃないので、何かするにも難しいだろうな、と思っていたんです。でも、「照覺寺」だからできることもあるんですね。本がなかった頃は、誰からも知られていないお寺でした。でも今は、ここを目指して来てくださる人がたくさんいるんですよ。

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本と人、人と人とが出会う、
新しいお寺のかたち。
――私たちが普段利用する図書館と「ののさま文庫」、いちばんの違いはどんなところにありますか?
竹内さん:人と人がつながれる「コミュニケーションの場」になっているところかな。最近は図書館の他にも、いろいろな活動をしているんですよ。たとえば、みんなでお経をあげたあとに住職がちょっとした法話をする「お朝事の会」。その法話には、絵本を使うようにしています。そうした取り組みもあって、普段からお寺にお参りに訪れてくれる人が増えてきました。
――お寺離れをなんとかしたい、という課題の解決策にもなったんですね。
竹内さん:本堂や庫裏をレンタルスペースのように活用できるようにもしています。お寺が主催するのではなく、外部の方にこの場所をお任せするかたちで。題して「ののさま照らす」。「照」覺寺なので、照らす(テラス)というわけです(笑)。「ののさま文庫」からいろいろな取り組みに広がっていることがおもしろいんですね。とてもやりがいを感じています。
――竹内さんが思う本の魅力って、なんですか?
竹内さん:人それぞれ、本の読み方ってあると思うんです。私は、1日の中で本を読む時間を決めていて、その時間にちょっとしたお菓子と飲み物を用意してひと息つくのが定番。なんていうのかな、そのひとときは、切り替えができる「句読点のような時間」なんです。朝早い時間と夕方、本を読む時間を設けて、次の活動に移るようにしているんですよ。
――なるほど、スイッチを切り替える役目があるんですね。
竹内さん:もう趣味を通り越して、リサーチのために「読まねばならぬ」みたいなところもあるんですけどね(笑)。でもそれはそれで、よいんです。どんなふうでも、「楽しい」と感じるので。難しい本を「頭脳が鍛えられているぞ」と思いながら読むのも、物語の中にどっぷり入り込むのも楽しいもの。知らない世界を知ることができるのが、本ですよね。

ののさま文庫
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