姉妹で営む村上・坂町駅前のカジュアル洋食店「Secret Fruits」。
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2023.01.21
村上市・荒川地区の坂町駅から歩いてすぐの通り沿いにお店を構える「Secret Fruits」は、家庭的なイタリアン・洋食がカジュアルに楽しめるレストランです。昨年8月の豪雨でお店は床上1m近くにまで水が入る被害に遭い休業を余儀なくされましたが、4カ月後には営業を再開。今では何事もなかったかのようにすっかりきれいになり、元気に営業を続けている同店におじゃまし、お店を切り盛りする武藤姉妹にいろいろとお話を伺ってきました。


Secret Fruits
武藤 希理子 Muto Kiriko
1980年旧荒川町(村上市)生まれ。「Secret Fruits」店主。母とともに隣の胎内市で営んでいた携帯電話販売店から転身し、地元の坂町駅前にイタリアの家庭料理や洋食を提供する同店をオープン。ちなみに店名は「生命の実」の意。無類の猫好きで、地域猫の不妊・去勢活動や里親募集活動にも携わる。

Secret Fruits
武藤 紗良 Muto Sara
1990年旧荒川町(村上市)生まれ。「Secret Fruits」スタッフで、希理子店主曰く「お店の裏番長」。前職はゴルフ場のキャディ。趣味はお店のメニュー表にも載せているイラストや最近始めたというバードウォッチングなど多岐に渡る。
浸水1m、「もうダメかも」からの再建。周囲の支援・協力に感謝。
――再開おめでとうございます。SNSを拝見しましたが、昨年8月の豪雨では大変な被害だったようで。
希理子さん:ありがとうございます。年末年始前の12月12日、なんとかオープンすることができました。あの状況から再開できるまでになったのは、本当に周囲の協力あってのことで、私たちだけではとても無理でした。協力していただいた方々には、本当に本当に感謝しています。
――再開後の回復状況はいかがでしょう。
紗良さん:おかげさまで多くの方々にご来店、ご利用いただき、ありがたい限りです。この年末年始も、クリスマスのオードブルをはじめ、例年とほぼ変わらない数を出すことができました。帰省で来店された方からもたくさんの労いやお見舞いをいただき、今後もがんばっていこうと改めて強く感じました。
――水害当時のことを改めて振り返っていただいても?
希理子さん:えーと、何から話せばよいか……正直言って、泥まみれになったお店の惨状を目の当たりにしたときは「これはもうダメだな」と思いました。休日兼仕入れ日にあてている前日の水曜日(8月3日)に買ってきていた食材が仰向けになった冷蔵庫から流れ出て泥だらけになっていて、それまでコツコツ揃えてきた店内のインテリアや椅子などの備品もメチャメチャになっていて……。
紗良さん:なかなか水が引かない中、何回もチャレンジしてようやくお店まで辿り着けたのが翌日(4日)の夕方だったんですけど、心の片隅にあった「ワンチャンお店は大丈夫なのでは」という淡い期待は、シャッターを開けた瞬間に打ち砕かれました。壁の跡を見ると、最大で床上1mくらい水が入ったようです。
――すっかりきれいになった今のお店を見る限りでは、とても想像できないです。
希理子さん:何から手を付けていけばいいものやら見当も付かない中、その日は2人でとりあえず窓掃除用のスクレーバーを手に、泥をかき出すことから始めました。翌日(5日)からは早くも知人やお客様、ボランティアの方が駆け付けてくれて、物資を含め様々な支援をしてくれました。中には上越や県外からはるばる来てくれた方もいて、感謝してもしきれません。今回の経験と恩を忘れない意味を込めて、店内の腰板は以前のものをそのまま一つ一つ丁寧に磨き、塗装し直して使い続けていますし、贈っていただいたお花をドライフラワーにして飾っています。それから以前より寛いでもらおうと、内壁のカラーも以前の深紅×黄からアイボリー×モスグリーンに変更しました。

まったくの異業種からの転身。ちょっとお洒落な「家庭の味」を。
――再開まで約4カ月を要しましたが、それまでの苦労をお聞かせいただいても?
希理子さん:周囲のお店の方々もそうですが、私たちのような自営業にとって、お店を再開するまではまったくの無収入というのはとても辛かったですね……金銭的にはもちろん、精神的にも。復旧作業をしながら、「もうこのままお店を畳んだ方が気が楽になるんじゃないか」という葛藤とは常に戦っていました。実際、手伝ってくれた方にも「もう諦めろ」と言われことはありました(笑)。その方は「全部諦めたつもりで開き直れ」という意味で仰ったんですが。再開できたのは数々のご支援のおかげで、私たちだけではとても不可能でしたが、この水害による休業で予約をキャンセルしてしまった方、もっと言えば、水害前日に仕入れた食材でつくるつもりだった料理を提供する予定だったお客様に対する心残りが、最終的には再開の原動力になったかもしれません。
――店舗の修繕にはクラウドファンディングも利用されましたね。
紗良さん:はい。最初は、うちのような小さなお店が……とも思ったんですが、やってよかったです。おかげさまで目標額を達成することができたのはもちろんなのですが、何よりクラファンを通じて、自分たちのお店の再開を待ってくれている人がこんなにもいるんだ、と実感できたことが嬉しかったです。コメントのひとつひとつが温かく再開への大きな励みにさせてもらいました。
――では、お店について改めてご紹介いただければ。
希理子さん:当店はイタリアの家庭料理をベースにした洋食レストランです。私たちが姉妹で営んでいる小さなお店ですが、多くの方々にご愛顧いただき、今年で14年目を迎えられることになりました。コロナ禍を受け一昨年に始めたテイクアウト「デリカテッセン」もおかげさまで好評で、特にキッシュが人気です。

――もともと、どちらかで修業していたのですか?
希理子さん:いえ、実はまったくの別業種から転身したんです。それまではお隣の胎内市で、母といっしょに携帯電話の販売店をやっていました。一応チェーン店だったんですが、なぜかご近所さんがよく集まる喫茶店みたいになっちゃって。高齢の方が茶飲み話にいらしたり、近くの高校の生徒がお弁当を食べに寄ったり……(笑)。それで、せっかくならそういうお店を地元に開こうと考えたのが最初です。
――あー、地域の居場所というか溜まり場というか(笑)。

経験を糧に、周囲へ日々の活力を今後さらに。
――では、お店が喫茶店でなくイタリアン・洋食になったのは?
希理子さん:いっしょに開業した母が得意で、自宅でつくる料理もイタリアンが多く、私たちの家庭の味として慣れ親しんできたことがまずひとつあります。またそれに加え、この辺りは和食店が中心で、洋食店がほとんどなかったのも理由のひとつです。実際、若者がデートなどでちょっとお洒落な洋食のレストランに行きたくても、この辺りだと新発田や新潟の方まで出なきゃならなくて。そういうお店が地元にあったらいいな、と一消費者として以前から実感していたこともあり、自分たちでつくることにしたんです。
――なるほど。自分たちの特性を活かしつつ、地域の需要に応えよう、と。実際にオープンされてからはいかがでしたか?
希理子さん:飲食店として本当にイチから、いやゼロからのスタートだったので、試行錯誤の毎日でした。当初はそれこそこういったジャンルのお店が周りにあまりなく、女性だけでやっていることもありスナックか何かと勘違いされて「隣に座らないのか」と言われたり(苦笑)。それでも10年以上やってこられて、老若男女を問わずお客様も増え、中には新しくできたお子さんやお孫さんを連れて来ていただける方もいて、そんなときは飲食店冥利に尽きるというか、やってきてよかったな、と心から思います。
――水害のビフォーアフターで、何か変化はありましたか。
紗良さん:何よりいちばんは、お客様を大切にする気持ちがこれまで以上に高まったことかもしれません。復旧の手伝いに来てくれた方の中には「自分はこのお店でいい思い出を作らせてもらったから」という方もいて、当たり前のことですが、お店はお客様によって支えられているんだな、ということを今回、改めて痛感させられました。
希理子さん:今回の経験で身をもって学んだのは、「自分たちがやれることって本当に限られているんだな」「普段からいろんな人の支えがあって生きていけているんだな」「世の中って思っていたよりも優しいんだな」ってことです。今回受けたご恩を忘れず返していくとともに、いざというときに今度は自分たちが助ける側として困っている方の力になれれば、と強く思っています。店名に込めたように、この店また料理が、お客様や地域の生きる日々の活力になればとこれまで以上に思って、これからも仕事に励んでいきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。


Secret Fruits
〒959-3132 村上市坂町2465-1角中第2ビルマンションB-2
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