私の家ではクリスマスイブには決まってカレー味の半身揚げを食べていました。同じようにクリスマスイブに、フライドチキンよりもカレー味の半身揚げを食べていた新潟県民は意外と多いのではないでしょうか。スパイシーで香ばしいカレー味の衣はパリッパリ、中の鶏肉はふんわりやわらかな味わい。そんなカレー味の半身揚げ発祥の店が、新潟市中央区にある「せきとり」。今回は「せきとり」三代目にして専務の関さんに、半身揚げに関するいろいろなお話を聞いてきました。
せきとり
関 雅仁 Masahito Seki
1984年新潟市中央区生まれ。「せきとり」三代目の専務。居酒屋や鉄工所、看板屋など様々な職業を経験したのち、「せきとり」に入店。サイクリングが趣味で、自転車に乗ってあちこち出かけている。日曜大工も好きで、店のかんたんな修繕を自分ですることもある。
——今日はよろしくお願いします。早速ですが「せきとり」の歴史は古いんでしょうか?
関さん:今年で60周年を迎えます。創業者は4年前に他界した私の祖父・関正吾(せきしょうご)です。祖父は養鶏場を受け継いだものの、たくさんの鶏を飼っていたので維持費やエサ代がかさんで、経営難になってしまったらしいんです。そこで始めたのが、鶏を唐揚げにして売る屋台だったそうです。それが「せきとり」の始まりと聞いています。
——カレー味の半身揚げはどのようにして生まれたんでしょうか?
関さん:まず半身揚げにしたことには理由があります。戦後すぐの物が少ない時代だったので、少しでもお腹いっぱい食べてもらいたいと思ったからなのだそうです。部位ごとに細かくカットしてしまうと捨てる部分が増えてもったいないので、一羽を半分にした唐揚げを提供してみたところ、これが大ヒットしたそうです。
——半身揚げの理由がわかりました。では、カレー味になったのはどういう理由からなんでしょうか?
関さん:はい。当時の学校給食ではカレーの人気が高かったそうなんです。そんなことから、カレーが好きな人が多いんじゃないかと考え、カレー味の唐揚げにして提供したところ、評判になったそうなんです。電子レンジがない時代だったので、冷めても美味しいということで持ち帰り商品としても人気があったようですよ。
——カレー味の半身揚げはどのようにして作っているんでしょうか?
関さん:鶏の半身の表面をしっかりと拭いてから塩とカレー粉を振ります。それから片栗粉をつけ、形が崩れないように串を打ってから油で揚げます。揚げる時間は平均して12分ほどですが、大きさによって時間を調節しています。
——作るときはどんなところに気をつけていますか?
関さん:塩加減が一番むずかしいんですよ。塩が多すぎてもだめですし、かかっていない部分があってもだめなんです。半身の大きさにも個体差があるので、大きさによって塩加減も変えているんです。慣れてきた今でも気の抜けない作業ですね。
——塩加減って簡単そうでむずかしいんですね。では上手に食べるコツはあるんでしょうか?
関さん:そのままかぶりついて食べてもらってもいいんですが、食べやすくするために、大まかに分解してから食べるのもいいですね。まずは胴体とモモを分け、あとはパーツごとに細かく分けていきます。関節で分けるときは引っ張らずに、ねじってみるとかんたんに取れますよ。足、モモ、ムネ、アバラ(ササミ)の4つくらいに分けると食べやすいんじゃないでしょうか。あとはかぶりついて食べてください。ナンコツや小骨も食べることができますので、食感を楽しんでいただければと思います。テーブルに備えつけてあるガーリックパウダーをかけて、味変を楽しんでみてもいいかもしれませんね。
——関さんは「せきとり」の三代目になるんですよね?ずっと「せきとり」で働いてきたんですか?
関さん:いえ。ここで働く前は、居酒屋、鉄工所、看板屋などいろいろな仕事をしてきました。「せきとり」で働きだしたのは2008年からです。半身揚げはじめ「せきとり」の仕事は、祖父の横でサポートをしながら覚えました。でも塩振りだけはなかなかやらせてもらえず、祖父が自分でやっていました。
——やはり塩振りはむずかしい仕事なんですね。関さんは職業病のようなものって何かありますか?
関さん:他の飲食店にお客として入ったときに、どこかのお客さんが「すみません」と店員を呼ぶ声に反応してしまうんです(笑)。さすがに返事をしたことはありませんが、反射的に振り向いてしまうんですよね。あと、飲食店とは全く関係ないんですが、建築現場で大工さんが働いていると、その仕事ぶりを眺めてしまいます。大工さんの仕事を見て、店の修繕などの参考にできるんじゃないかと思って(笑)
——半身揚げのことだけではなく、店の修繕まで考えているんですね(笑)。今では新潟のソウルフードになっているカレー味の半身揚げについて、どんな思いをお持ちですか?
関さん:私の祖父が生み出したカレー味の半身揚げを、新潟のみなさんに食べてもらっていることは、とてもうれしいし、ありがたいと思ってます。おかげさまで、日本唐揚協会が主催している「全国からあげグランプリ」の半身揚げ部門で、9年連続金賞を受賞し、第4回、第5回、第9回の3回は最高金賞をいただきました。だからこそ、より気は抜けないというプレッシャーもあり、地に足をつけて続けていきたいと思っています。
——今後はカレー味の半身揚げをどのように展開していきたいですか?
関さん:今まで店での提供や販売をメインに営業してきたんですが、これからは店以外での販売も考え、PRにつなげていきたいですね。以前から県外の物産展からお誘いをいただいていたのに、なかなか腰を上げることができなかったんです。でも昨年くらいから県外の物産展にも出店し始めました。あと、スーパーへ半身揚げの卸売りも始めたんです。カレー味の半身揚げの発祥が「せきとり」というのは、下越地方では認知されているけど、上中越ではまだまだ知られていないんです。そういう意味でも、スーパーで「せきとり」の半身揚げを売ってもらうことで、広く認知していただきたいと思っています。
半身揚げがカレー味になったヒントが学校給食にあったというのは驚きでした。今までお店だけの提供や販売にとどまっていた「せきとり」の半身揚げ。今後は県内のスーパーで食べられたり、県外の物産展で販売されたりして、より多くの人たちにその魅力が伝わっていってほしいですね。