飲食店が連なる古町9番町の路地裏に、まるで隠れ家のような佇まいの「鮨はたけやま」というお寿司屋さんがあります。お寿司を握るのは、札幌や東京で修業を積んだ店主の畠山さん。シャイで寡黙な雰囲気の畠山さんに、お寿司のこだわりを聞いてきました。
鮨はたけやま
畠山 正義 Masayoshi Hatakeyama
1981年岩手県生まれ。高校卒業後、札幌や東京の寿司店で修業を重ね、2017年12月に新潟で「鮨はたけやま」を開店。趣味はロードバイクとウエイトトレーニング。自分以外の人が握ったお寿司を食べるのが好き。
——畠山さんは、いつからお寿司を握っているんですか?
畠山さん:高校を卒業してすぐに札幌のお寿司屋さんで修業をはじめました。そのお店は寿司職人だった父が、立ち上げに関わったお店だったんです。
——お父さんも寿司職人だったんですね。幼いころからその背中を見て、同じ道に進もうと思っていたんでしょうか。
畠山さん:ぼんやりとは思っていたんですけど、そこまで真剣に考えてはいなかったんです。
——どういうきっかけで本格的に寿司職人を目指すことに?
畠山さん:高校生のときに父が作ってくれたお弁当を食べて、その味に感動して涙が流れたんです。そのときに、自分も人を感動させられるような料理を作りたいと思って、本気で寿司職人を目指す決意をしました。
——ちなみにそれは、どんなお弁当だったんでしょう?
畠山さん:シンプルなお弁当なんだけど、とてもあたたかい味だったんですよね。後から聞いた話なんですけど、息子たちに対してのエールを込めて作ったお弁当だったそうなんです。
——そのお弁当が実際に畠山さんの背中を押したわけですね。でも、お寿司屋さんの修業は厳しかったんじゃないですか?
畠山さん:私が学生時代にアルバイトをしていたラーメン店に比べたら、大したことはなかったですね。
——そんなに厳しかったんですか?
畠山さん:ラーメン店の親方は父の知り合いで和食をやってきた方だったから、とにかく上下関係が厳しかったんですよ。親方が仕事をはじめる前には、使う道具を数センチのズレなくきちんと揃えておかなければならなかったり、先輩の好き嫌いや癖、吸っている煙草に至るまですべて覚えておかなければならなかったんです。それができなかったら手が飛んできましたから(笑)
——それは厳しい……。
畠山さん:父に「もう辞めたい!」って相談すると「あと1週間だけ頑張ってみろ」って言われるんです。それで1週間続けてみて「1週間頑張ったから辞めてもいい?」って訴えると「夏休みまで頑張れば、バイト代で夏休みの間思いきり遊べるじゃないか」って言われまして……。結局卒業するまでアルバイトを続けました(笑)
——まるで、お父さんの手のひらで転がされているような……(笑)
畠山さん:ラーメン店の親方は父から頼まれて厳しくしていたそうなんです。そのおかげで、いくら辛くても耐えられる根性が身につきました。アルバイトを辞めるときに親方から「今までよく頑張ったな」って言われて、とても嬉しかったですね。
——東京ではいろんなお寿司屋さんで経験を積まれたんですね。
畠山さん:お店を移るたびにステップアップしていって、最後はトップとしてお店を任されたり、お店の立ち上げに関わったりしてきました。
——それが新潟へ来て「鮨はたけやま」を開店したのはどうしてなんですか?
畠山さん:新潟は妻の出身地なんです。妻の夢はお寿司屋さんの女将になることだったので、新潟で「鮨はたけやま」をはじめました。柔らかくて親しみやすいイメージを意識して店舗を作って、帰ってきてから1か月半でスピード開店しましたね。
——こちらでは、どんなお寿司を食べることができるんでしょうか。
畠山さん:江戸前寿司の技法を使いながら、新潟近海のネタを中心に握っています。ただ旬のネタを召し上がっていただくためにも、新潟近海にこだわり過ぎないようには気をつけているんです。お寿司屋さんは季節をお伝えする場だと思っていますので。
——新潟近海にこだわってしまうと、手に入るネタに限界ができてしまうわけですね。
畠山さん:東京にいた頃は築地や豊洲に全国の魚介が集まっていたので、天候不良でも魚は手に入りやすかったんです。でも新潟に来てからは使いたい魚が手に入らないということも多くなって、最初はそれがストレスになっていたんですよ。そのうち考え方を改めて、手元にある食材を使って工夫するようになりました。おかげで自分自身のレベルアップにもつながったような気がします。
——そんなご苦労もあったんですね。ネタだけではなく、シャリにもこだわっているんでしょうか。
畠山さん:もちろんです。シャリには佐渡産コシヒカリを使っています。うちでは酒粕を熟成させて作る「赤酢」を使っているので、日本酒をはじめ、いろんなお酒との相性がいいんです。お米のうま味を酢だけで引き立てるようにしているので、砂糖や塩といった調味料はギリギリまで削っています。だから味も軽やかで食べやすいんですよ。
——握っていただいた南蛮海老の握り寿司にしても、いなり寿司にしても、いつも食べているものとは変わっているように感じます……。
畠山さん:お客様に食べることを楽しんでいただきたい、というのがうちのお店のコンセプトになっているんです。だから従来のスタイルにこだわることなく、いい意味でお客様の想像を裏切るお寿司を提供させていただいています。
——例えば、どんなふうに想像を裏切っているんでしょうか?
畠山さん:お寿司のスタイルもそうですけど、お出しする順番もセオリーを無視するようにしています。淡白な白身からはじまって重めの赤身は最後にお出しするのがセオリーですが、うちは最初にトロをお出しするんです。次に何が出てくるかわからない、ワクワクした気持ちをお客様に楽しんでいただきたいんですよ。
——最初にトロとは、皆さん驚くでしょうね。
畠山さん:とはいっても、決して奇をてらうつもりはないんです。ただ新しい発見や今までにない感動を味わっていただいて、「また来たい」と思っていただけたら嬉しいですね。
——寿司職人を目指したときの「人に感動を与えたい」という気持ちを、ブレずに持ち続けているわけですね。これからはどんなふうにお寿司屋さんを続けていきたいですか?
畠山さん:新潟に住んでいる人にとっては当たり前かもしれないんですけど、新潟には美味しい食材がたくさんあるんですよ。それをまだまだ発信できていないのはもったいないと思うので、全国どころか全世界に発信するお手伝いができたらいいですね。そんな新潟でお寿司屋さんをやれるのは幸せなことですし、自分が握るお寿司を食べてくれる人がいるのはもっと幸せだと思いますね。
鮨はたけやま
新潟市中央区古町通9番町1485 燕ビル1F
025-224-3840
17:00-21:00
月曜休