健康に敏感な消費者の心をくすぐるオーガニック食品、マニアにとっては涎が止まらない希少なアパレルなどをはじめ、店主の猪俣さんが心を惹かれたアイテムが所狭しと並ぶ雑多な空間。長岡市の「文化的商店 たつまき堂」は、店内に一歩踏み入れるとワクワク感が止まりません。様々な文化が入り乱れるこのショップの全貌と、長岡でずっと営んできたこれまでのストーリーについて、店主の猪俣さんにいろいろとお話をうかがいました。
文化的商店 たつまき堂
猪俣 雄大 Takehiro Inomata
1976年生まれ。20歳からバックパッカーとしてアジア諸国を周り、日本国内ではヒッチハイクの旅をした経験を持つ。セレクターとして趣味のレゲエDJもこなす、息子が大好きなお父さん。
――「文化的商店 たつまき堂」のことを、本日はいろいろ教えてください。スタートから直球ストレートな質問ですが、「文化的商店」とはどういうショップのことですか?
猪俣さん:気になるワードですよね(笑)。とりあえず、「文化的商店 たつまき堂」で取り扱っているアイテムジャンルを簡単に説明しますね。
――ちょっと見渡しただけでも、たくさんありそうですね。
猪俣さん:まずはオーガニック食品をはじめとした食品関係。口内炎になりにくい純国産「無添加ポテトチップス」とか、樹齢700~1000年のオリーブの木から採取したオリーブオイル。九州で獲れた「さば味噌煮」の缶詰は、鳥取の米味噌とブラジルの有機砂糖で味付けしてあって、こんなこだわったサバ缶はそう見ないと思うよ。
――このサバ缶、高級なのかと思いきや。260円で意外とお手頃価格なんですね。
猪俣さん:そう。あと、マニアックなアパレルもちょこちょこ置いているよ。アメリカ西海岸のスケートボード文化に影響を与えたスケーターブランド「POWELL PERALTA(パウエル・ペラルタ)」の復刻Tシャツなんかは、今しか買えないかな。これはストリートシーンで人気のブランド「Supreme(シュプリーム)」の定番Tシャツに使われているボックスタイプのロゴを時代に先駆けて使っていたブランドで、知る人ぞ知るマニアックなアイテム。あとはミリタリーのレプリカとか、希少なビンテージオーバーオールとか、一点モノもいろいろ揃っています。
――アパレルのラインナップ、涎が出るものばかりですね。他にはどのようなアイテムがありますか?
猪俣さん:たくさんありますよ(笑)。職人さんが作った靴下、見附ニット工業組合のニットポーチ、レゲエをはじめとしたセレクトCD…紹介しきれないくらいのアイテムがあります。ちなみにこの靴下、凄いんですよ!80歳のおじいちゃんが作っていて、ゴムを使っていないんです。それなのに30㎝も伸びて、さらにはしっかり縮んでしまう。言葉で説明するより、実際に伸ばしてみると驚くと思うので、ぜひ。あっ、立ち飲み喫茶としても営業しています。オーガニックのレモンスカッシュとか、おいしいコーヒーも。
(※ちなみにこの日は一緒に映画を作ろうと訪ねてきた常連さんと水出しコーヒーを飲みながら、1979年に公開されて一大ブームを巻き起こした香港のコメディー映画「Mr.Boo!」の話で盛り上がっていました)
――このショップはいつ頃、オープンされたんですか?
猪俣さん:2000年に妹と、Mixテープ、レコード、POLO RALPHLAURENやSupremeといったインポートブランドを取り扱うショップを開いたのが最初。たった2坪の小さなショップだったんだけど、めちゃくちゃ繁盛して。翌年には80坪、2フロアのビルを借りて、つぶれた縫製工場の跡地に引っ越したんだよね。ちなみに他のテナントには水商売とか、政治家の事務所があったりして、とにかくカオスなビルだったね(笑)。
――2坪からスタートして、翌年には80坪。アメリカンドリーム的なストーリーですね。その頃は、食品関係は取り扱っていなかったんですか?
猪俣さん:中越地震があった2004年くらいから、10年、20年先を考えはじめて、海外だけでなく日本のものも見直そうって思ったんだよね。だからオーガニック、ジャパンメイドなどのアパレルに切り替えて。フェスとかアウトドア系の。当時、フェスの流行のはしりだったから、これも人気になってさ。それからしばらくして、2014年に今の場所に移ってからオーガニック食品とか立ち飲み喫茶をスタートしたんだよね。
――今では店内の半分ほどが食品コーナーになっていますが、どうしてこんなに?
猪俣さん:息子がいるんだけど、20歳になるまでは親として食べ物をしっかりとセレクトしようと思ったんだよね。赤ちゃんが飲む粉ミルクってあるじゃないですか?大手メーカーが販売しているものを使っていたんだけど、震災後に放射能が見つかって。その粉ミルクは自分で選んだものだったからショックで…それで自分がセレクトして、実際に食べて家族はもちろん、お客さんにも提供しようって決めたんだよね。だからアパレルコーナーを1/2に縮小して。
――実際に食べているといっても、これだけある食品のすべては無理ではないんですか…?
猪俣さん:正直ね。でも70%は食べてたものを販売しているよ。食べてどうだったかって、味もそうだし、使い勝手、どんな食べ方があるか。それらを自分で体感することで、リアルな接客ができると思うんだ。だからパッケージの裏に書いてあることを伝えるのではなく、食べた情報を伝えるスタイルなんだよね。ちなみに食品全体の80%は残留農薬、放射能のチェック済み。
――食べたヒトから感想が聞けるとなれば、とてもリアルな情報ですよね。
猪俣さん:「文化的商店 たつまき堂」に並んでいる商品は、自分がセレクトしたもの。ショップを営むのもそうだけど、自分の仕事は「選ぶこと」なんだよね。食品を自分で食べて感じたことを伝えるスタイルを貫いているけれど、アパレルだって自分がいいと思ったモノをセレクトしている。お洒落なアパレルショップではないけれど、お洒落さんが来ても小ネタだって用意しているしね(笑)。
――アパレル、食品、音楽などなど。たくさんの文化を発信している「文化的商店 たつまき堂」。猪俣さんにとって、文化とはなんですか?
猪俣さん:「伝えたいコト」かな。子どもの頃ってインターネットなんてないから、モノ、コトの情報ってめちゃくちゃ少なかったの。それに物足りなさを感じていて。だから大人になってから、世の中にはこんなにたくさんの文化があるんだよって、多くの人に伝えたいんだよね。
――最後に、これから目指すショップのあり方を教えてください。
猪俣さん:「文化的商店 たつまき堂」って、誰でもが来たくなるお洒落なショップではないけど、店内にはストリート文化から、オーガニック文化までかなり感度の高いアイテムが揃っている“三枚目路線”のショップだと思っているの。だから、多くの文化を知ってもらうために、「一度は行ってみたい」と思われるような人気店になりたいな。
今回の取材で特に印象に残ったのが、80歳のおじいちゃんが作っている靴下の話。ある男性がお店に来たのは寒い冬の日のことでした。バスケットシューズにスウェットという謎めいたスタイルで現れたその男性は、「この靴下を販売して欲しい」と売り込みをはじめます。その日、猪俣さんはお店に不在でした。かわりに対応したスタッフさんが「こんなヒトが来ています」と猪俣さんに連絡すると、当然、「断ってくれ」との指示が。当たり前ですよね、怪しいですから。でも次の日、今度は猪俣さんが店番をしていると…またまたやって来た不審人物。しかたなく話を聞いてみたら、売り込んでいるのは、昭和の時代に当たり前のように売られていた「職人が作る靴下」だという話。しかもその職人の年齢は80歳で、デジタル式ではない機械を使っている…と、興味をそそる話が次から次へ。説明されるまま猪俣さんは実際に靴下を伸ばして、履いて、縮めてみて、その出来の良さに驚いたそうです。目の前の男性は鼻水を垂らしながらひとこと、「長岡って、寒いんですね…」。なんと彼は一晩、車の中で店が開くのを待っていたそうです。そんな出会いから取扱がはじまった靴下。その男性(靴下会社の社長さんだった)とは、今では酒を飲み交わす関係だとか。こんな物語も詰まった「文化的商店 たつまき堂」。文化だけでなく、なにげに人情も並んでます。
文化的商店 たつまき堂
新潟県長岡市日赤町1-4-12
0258-31-4404