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東京目黒にある名店の暖簾を受け継ぐ、新発田の「とんかつ とんき」。

「とんかつ とんき」という店名に聞き覚えのある人も多いのではないでしょうか。東京目黒にある有名なとんかつ店です。昭和14年創業の老舗で、常連客の中には作家の池波正太郎をはじめ数々の著名人が名を連ねています。ここから暖簾分けした店もたくさんあって、新発田市にある「とんかつ とんき」もそのひとつ。今回は新発田店の店主・高橋さんに、とんかつについてのこだわりをお聞きしました。

 

 

とんかつ とんき

高橋 正紀 Masanori Takahashi

1952年燕市生まれ。高校卒業後、東京の「とんかつ とんき」で修行を始め、20年勤めた後に暖簾分けしてもらい、新発田市で「とんかつ とんき」を開店する。趣味はカメラや登山。20年以上続けてきた硬式テニスは毎週楽しんでいる。

 

開店前から100人ものお客が行列する有名店で修行。

——厨房を囲んでいるカウンターが、お寿司屋さんみたいな雰囲気ですよね。

高橋さん:そうでしょう。これは私が修行してきた目黒の「とんかつ とんき」とまったく同じ作りになっているんです。カウンターは白木の一枚板になっているんですよ。厨房をお客様に見ていただくことで、安心して食べてほしいという思いもあるし、とんかつを揚げることが美味しさを盛り上げるパフォーマンスでもあるんですよ。

 

——そういうところも板前さんみたいですね。確かにとんかつが揚がるのを見ると食欲がそそられます。

高橋さん:揚げるのに20分くらい時間がかかるんですけど、見ていただいているおかげで一度も催促されたことがないんです(笑)

 

 

——ところで高橋さんは、あの有名な目黒の「とんかつ とんき」で修行をしていたんですか?

高橋さん:はい。料理人になりたかったので、高校を出てすぐに知り合いの紹介で「とんかつ とんき」に勤めました。

 

——目黒の「とんかつ とんき」はどんなお店なんですか?

高橋さん:当時から大人気のお店だったから、とにかくお客様の数が多いんですよ。16時から開店だったんですけど、シャッターが上がる前から100人くらいのお客様がもう待っているんです。地下1階、地上3階建てのビルで、1階と2階が店舗だったんですけど、40人くらいのスタッフで営業していましたね。

 

——作家の池波正太郎さんも来ていたそうですね。

高橋さん:あと俳優の高倉健さんも常連でした。自分が出入りすると他のお客様の迷惑になるからといって、従業員出入口から出入りされていましたね。目黒のお店ではお客様にサインをお願いしてはいけなかったんですが「いつもお世話になっているから」と言って、色紙に30人分のサインを書いて持ってきてくれたんです。本当に気配りしてくださる方でしたね。

 

——そんな人気店だと仕事はかなりハードだったんじゃないですか?

高橋さん:う〜ん……。辞めていった人も多かったですけど、私はあんまりきついと思ったことはなかったですねぇ。他の店で働いた経験がなかったから、比較する対象がなかったのかもしれないです。「どこの店もこんなもんなんだろう」って思っていましたね(笑)。おかげさまで最後は総料理長まで務めさせていただきました。

 

本店のこだわりを受け継いだ、大切な「とんき」の暖簾。

——高橋さんはどうして新潟に戻ってきたんですか?

高橋さん:目黒の「とんき」で20年働いてきて、そろそろ独立して自分の店をやりたいと思ったんです。そのことを社長に話したら「自分の店をやるんだったら、うちの暖簾を持っていけ」といって暖簾を作ってくれたんですよ。「とんかつ とんき」の名前は商標登録されていますから、誰でも使えるものじゃないんです。今まで頑張ってきてよかったと思いましたね。

 

 

——「暖簾分け」ということですね。ちなみに新潟市にも「とんき」がありますよね。

高橋さん:あっちは私の弟子が独立してやっているお店なんです。

 

——そうだったんですね。こちらでお店を始めたときはどんな反応でしたか?

高橋さん:新発田市にはまだ「とんかつ専門店」がなかった頃だったので、食堂だと思っているお客様から「ラーメンくれ」なんて言われたこともたまにありましたね(笑)。珍しさもあって開店してから3ヶ月くらいはとても混みました。

 

——とんかつは本店の作り方を、そのまま受け継いでいるんでしょうか?

高橋さん:とんかつに関してはそのままです。

 

——そのこだわりを聞いちゃってもいいですか?

高橋さん:一番こだわっているのは揚げ油ですね。「とんき」ではラードを使って、昔ながらの鉄鍋で揚げているから香りがいいんですよ。ラードは豚の背脂だから、豚肉との相性がいいんです。あと油はすべて取り替えずに、少しずつ継ぎ足して使います。そうすることで前に揚げたとんかつの衣のうま味が油に残るんです。

 

 

——なるほど。それでお店に入ったときにいい香りがするんですね。他にも本店から受け継いでいることはあるんでしょうか?

高橋さん:とんかつソースも本店と同じ作り方をしています。「とんき」のとんかつに合わせた自家製ソースで、いろいろな材料を使いながら1日がかりで作るんですよ。

 

 

——おすすめのとんかつは、ひれかつですか?

高橋さん:一般的にはひれかつが人気ですけど、本来はとんかつってロースを使っていたんですよ。ロースかつは脂身が多くてスタミナがつくから、夏になると注文する人が増えますね。よくとんかつを食べると胸焼けがするって話を聞きますけど、新鮮な豚肉や油を使って揚げていればそんなことはないと思います。

 

——新潟といえば「タレかつ」が人気ですけど、こちらのお店でも提供しているんですか?

高橋さん:はい。うちのタレかつ丼は、2枚〜4枚までかつの数を細かく選ぶことができるんです。さらには2段かつ丼や厚切りかつ丼まであるので、お子様や女性、年配の方まで無理なく食べていただけますし、食べ盛りの若い方にも満足していただけると思います。食べきれないときはお持ち帰りいただくこともできますよ。

 

ベテランとんかつ職人の悩みやよろこび。

——お店をやっていて大変なことはありますか?

高橋さん:私ひとりでとんかつを揚げているから、いろいろな種類のメニューができないことですね。種類が違うと揚げる時間も変わってくるわけでしょう。あと来てくださるお客様の数に対して、駐車できるスペースが少ないのも悩みです。車の中でお待ちいただいたり、よそで時間を潰してきていただいたりすることも多くて申し訳ないですね。

 

——その辺のバランスは難しそうですね。ではうれしいことは?

高橋さん:遠くからわざわざ来てくださるお客様がいることですね。一番遠いところでは兵庫県から来てくれた方がいました。私が本店で働いていたときに常連だったお客様が、年4回くらい東京から夫婦で食べにきてくれるんです。もう10年くらい通い続けてくださっています。

 

——それって「追っかけ」じゃないですか(笑)

高橋さん:本当にありがたいですよね。今後も「とんかつ とんき」の暖簾に恥じないとんかつを作り続けて、皆さんに喜んで食べていただけたら幸せです。

 

 

東京目黒の名店の暖簾を掲げ、とんかつひと筋に続けてきたベテラン職人としての腕をふるう高橋さん。こだわりのラードで揚げるとんかつは名店の味を受け継ぎつつも、高橋さんの実直な人柄も味わいになっているのだと思いました。

 

とんかつ とんき

新潟県新発田市新栄町1-2-24

0254-23-5508

11:30-14:00/17:30-21:00

月曜休

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