新潟の県花であるチューリップは4月下旬から5月上旬が見頃です。このゴールデンウィークに満開のチューリップを見に行かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんなチューリップを家族で生産している胎内市の花農家三姉妹が、チューリップの花びらを使ったフラワーボトルの販売をはじめました。このボトルに使われる花びらは、栽培の際に摘み取られ、畑の土に返されていたものなんだそうです。今回は、これまで活用されることがなかったお花を新しいかたちに生まれ変わらせた「URA mizusawa flower farm」の皆さんにお話を聞いてきました。
URA mizusawa flower farm
伊藤 愛美 Aimi Ito
1982年胎内市生まれ。高校卒業後、会社員として働いた後、20歳で実家の花農家で働きはじめる。広い人脈を持つ、頼れる三姉妹の長女。
URA mizusawa flower farm
比企 美穂 Miho Hiki
1986年胎内市生まれ。高校卒業後、医療系の専門学校へ進学。卒業後は、福祉施設や医療法人の事務職として勤務。2020年6月より実家の花農家で働きはじめる。発想力豊かな三姉妹の次女で、知絵さんの双子のお姉さん。
URA mizusawa flower farm
水澤 知絵 Chie Mizusawa
1986年胎内市生まれ。高校卒業後、歯科助手として働く。19歳から働いていた職場を2021年4月に退職し、実家の花農家の仕事をはじめる。手先が器用な三姉妹の三女。
——皆さん、どんな経緯でご実家の仕事をすることになったんですか?
愛美さん:私は高校を卒業してから、しばらくガソリンスタンドで働いていました。2年間勤めたんですが、事情があって退職して、それ以来、20歳のときから両親と一緒に花農家をしています。我が家は主にチューリップとユリの生産をしているんですよ。
美穂さん:私はずっと医療事務の仕事をしていました。最初は福祉施設に勤めて、それから医療法人に転職して10年間ほど働いていたんですけど、体調を崩して仕事を辞めたんです。療養している間に実家の仕事を手伝うようになったのがきっかけで、農業に関わるようになりました。
知絵さん:私はずっと歯科助手として働いていたんです。新発田の歯科医院で1年、そして胎内の歯科医院に19歳のときから去年の4月までずっと勤めていました。その職場には長い間お世話になったんですけど、産休・育休中に家族で過ごす時間が増えて、だんだんと「私もみんなと一緒に自然に触れながら働きたいな」と思うようになって、花農家の仕事をはじめたんです。
——今は三姉妹で揃って仕事をされていますよね。「いつかは一緒に働こう」って考えていたんですか?
愛美さん:いえいえ。まったく想像していませんでした。でも、ふたりが農業に加わってくれて、両親は助かっていると思いますよ。
美穂さん:私の場合、医療事務の仕事を続けていたら、農業とは無縁の生活を送っていたと思いますね。実家が花農家なのに、自宅に花を飾る習慣もなかったですから。
——美穂さん、知絵さんに伺います。実際に花農家の仕事をして、どんなことを感じましたか?
美穂さん:小さい頃から家の仕事を近くで見てきましたし、ある程度「こんなことをやっているんだ」と分かっているつもりでした。でもいざ仕事をしてみると、体力的にものすごく大変でしたね。両親も姉もずっとこの仕事をしてきたんだと思うと「とにかくすごい」の一言です。たぶん私、心の底から両親を尊敬したのは、家の仕事をはじめてからかもしれません(笑)。今の私の若さでも両親のような仕事をすることができないのに、60歳を過ぎてもあんなに元気に仕事をしているなんて、本当にすごいですよ。
知絵さん:美穂の言う通り、両親の偉大さがよく分かりました。朝動き出す時間がとにかく早いんですよ。それに、いつも畑の様子を気にしているから、何かあるとすぐにハウスに行くんです。植物の世話をするって細かなことまで気にしなくちゃいけない繊細な仕事でもあるんですね。両親の姿を近くで見ていると、自分たちもこんなふうに大切に育ててもらったんだな、と感じます。
——「URA」の活動についても教えてください。
美穂さん:チューリップの球根を育てるときに摘み取られた花びらを活用して、フラワーボトルの製造と販売をしています。
愛美さん:赤、白、ピンクなど、チューリップにはいろいろな種類があります。ベースとなるチューリップの色を決めてから、それに合わせてユーカリやラベンダー、センニチコウなどを詰めてボトルを作りました。
知絵さん:活動をはじめたのは去年からなので、まだまだスタートしたばかりのプロジェクトです。自分たちでできる量が限られているので、去年はそんなにたくさんの数を作ったわけではないんです。でも、ネットで販売したり、雑貨として販売したりして、想像以上の反響をいただきました。あまりの反響に、とても驚きましたね。
——使っているのは、皆さんが育てたチューリップなんですね?
知絵さん:「売り物にならないチューリップの花部分」と思ってもらうと分かりやすいと思います。チューリップの球根を育てるためには、お花の部分だけを摘み取る作業がどうしても必要なんです。4月中旬からゴールデンウィークにかけて、チューリップの花が満開になります。そしたらすぐに花だけ摘むんです。私たちの花農家では「チューリップの球根を大きく育てる」ことが目的なので、球根に栄養を届けるために花を摘まなければならないんですね。
美穂さん:今までは摘み取った花を何かに活用する仕組みがありませんでした。摘み取られた花は、残念ながら畑でそのまま枯れてしまっていたんです。放置されて土にかえるだけだったんですね。
——そうなんですか。せっかく美しい花を咲かせたのに、もったいないような気がしますが……。
美穂さん:花農家としては、花を摘み取ることはもったいないことではないんですよ。先ほどお伝えした通り、チューリップの球根を大きく育てるためのことですから。
愛美さん:それでも、花びらを捨てるしかないことには、ずっと違和感がありましたね。でも、毎シーズンたくさんの量のチューリップを育てているので、日々の仕事をこなすだけで精一杯なんです。「摘み取った花をなんとかしたい」という思いがあっても、どうすることもできずにいたんです。
知絵さん:そんなときに、美穂が農業を手伝うようになって、「使い道のなかったお花でフラワーボトルを作る」という新しいアイディアを考えてくれたんです。
——そのアイディアはどうやって生まれたんですか?
美穂さん:はじめは冬に出荷する切り花を使ってドライフラワー作りにチャレンジしたんです。でも、なぜだかうまくいきませんでした……。調べてみたら、チューリップの切り花は、茎の水分量が多くてドライフラワーには向かないことが分かったんです。それなら「チューリップの花の部分だけをドライフラワーにしてみたらどうだろう」と考えました。摘み取りの時期になれば、材料となる花が畑にたくさんあるわけですから。
——皆さんは、この活動を「アップサイクル」と表現されていますよね。
美穂さん:土にかえすしかなかったチューリップに手を加えることで、新しい価値を生み出す。この一連の流れには、「アップサイクル」という言葉がピッタリだと思いました。
——なるほど。ところで、このフラワーボトルはどんな用途で使われるんでしょう?
知絵さん:私たちとしては「観賞用のインテリア」として使っていただこうと考えていました。でも販売をしてみたら、自分たちでは想像もしなかった使い方をしてくれた人がたくさんいたんです。枕元に置いて香りを楽しむ人がいたり、手作りキャンドルの飾りとして使う人がいたり。作家さんがアクセサリーの材料として使ってくれたこともありました。単なる「雑貨」ではなく、いろいろな用途があることが発見でしたね。
——最後に、これからの活動について教えてください。
美穂さん:まだ具体的なことは決めきれていませんが、売り上げの一部を何かしらのかたちで社会にお返ししたいな、と思っています。寄付をしたり、胎内をもっと知ってもらうための素材として使ったりしたいですね。フラワーボトルの使い道や商品のアイディアは、これからまだまだいろいろな発想が出てくると思います。使える素材は山ほどあるし、チューリップの品種もたくさんあります。そう考えると、もっと可能性があるはずなんです。新たな雇用も生めるかもしれませんし、私たちだけでなく、関わる人みんながウィンウィンになれる活動を目指したいですね。
知絵さん:去年、フラワーボトルを作ってみて分かったことがたくさんあります。ひとつは想定していた以上の使い道があったということ。それとフラワーボトルの色味や質が、1年間でどんなふうに変化していくかも分かりました。なので、まだまだ新しいことができそうだな、と期待しています。
愛美さん:球根の栽培時に摘み取る花は、ものすごい量になるんです。去年フラワーボトルに使った量は、畑の花のほんのひと握りでしかありません。使える素材はたくさんあるので、今後は農福連携なども視野に入れて、もっとたくさんの数のフラワーボトルを作りたいですね。フラワーボトルを使ったワークショップにもトライしてみたいです。
URA mizusawa flower farm