五泉市にある「渡六菓子店」は、和菓子にケーキ、焼き菓子と豊富な種類のお菓子をたくさん揃えているお店です。店内にはカフェスペースもあり、ゆったりと過ごせるところも魅力。今回は「渡六菓子店」の三代目・渡辺さんに、お店の歴史やお菓子作りのこだわりなどいろいろとお話を聞いてきました。
渡六菓子店
渡辺 修 Osamu Watanabe
1968年五泉市生まれ。「渡六菓子店」三代目店主。18歳から東京のフランス菓子店や新潟の洋菓子店などで経験を積み、27歳で家業に入る。スポーツから美術鑑賞まで幅広い趣味の持ち主。
——「渡六菓子店」さんは、和菓子も洋菓子もあるんですよね。それにカフェスペースも。
渡辺さん:このお店は、祖父が和菓子屋としてはじめたんです。父の代になって、和菓子だけじゃなく洋菓子も作るようになり、僕の代で店舗をリニューアルしたり、本格的なフランス菓子も揃えるようになりました。「渡六菓子店」は、先代がやってきたことを受け継いで、そこに新たな取り組みを肉づけしてきたお店なんです。
——お店のことをひとことで表すと、どんなお店でしょう?
渡辺さん:「便利なお店」でしょうかね。ちょっとした気軽なものから、ギフトやお祝いに使えるものまでいろいろなお菓子を用意して、お客さまのご予算や目的に合わせた提案ができます。「渡六に行けばなんとかなると言われて、贈り物を買いに来たんですけど……」とお父さんがひとりで来てくれることもあるんです。そんなふうにお客さまに頼りにしてもらえるなんて、嬉しいですよね。
——特に人気があるお菓子はどれですか?
渡辺さん:昔からシュークリームは人気がありますし、野菜のロールケーキの評判も良いです。でも、人気の商品を聞かれると答えるのが難しいですね。マカロンを目当てにいらっしゃる方もいますし、贈り物を買いに来る方も、お誕生日ケーキを毎回オーダーしてくだる方もいますので。
——今の店舗は8年前にリニューアルされたそうですね。
渡辺さん:店舗を新しくしたら、カフェスペースを作りたいと思っていました。だんだんと遠方から来てくださるお客さまも増えて、「お店でくつろげたらいいのに」という声をいただくようになったんです。カフェで出すコーヒーにもこだわっていて、オリジナルブレンドのものをサイフォンで丁寧に淹れているんですよ。
——渡辺さんがお店を継ぐまでのことも教えてください。
渡辺さん:18歳で新潟を出て、約6年間、千葉と東京のフランス菓子店で働きました。それから、新潟で3年間修行をして「渡六」に入ったんです。でも、若い頃は他にやりたいことがあったし、家を継ぐことに迷いもありましたね。
——お菓子屋さんとは違う夢があったんですね。
渡辺さん:当時はファッションデザイナーになりたかったんです。自分が考えたデザインをコンテストに出して、一次審査を通過したこともありました。そのとき両親に「3年間ファッションデザイナーの道を目指したい。それがダメだったら家を継ぐから」と相談したんです。でも、父親から「お菓子屋はそんなに甘い世界じゃない」って叱られました。確かにその通りでしたね。今思うと、当時はなんとなくの気持ちで菓子職人を目指していたんだと思います。後継者としてよくあるパターンなのかもしれませんけど「家に戻れば仕事がある」と甘えていたところがあったのかな。
——そんな渡辺さんの気持ちはどんなふうに変わっていたんでしょうか?
渡辺さん:「この人と出会っていなければ今の自分はない」と思う人が、ふたりいるんです。ひとりは、銀座で働いていた頃のシェフです。その人から、技術的なことや、掃除、挨拶の仕方、物を大切にすることといった、働く上で大切なことをたくさん教えてもらいました。職場は厳しくて体調を崩しそうになったこともありましたけど、自分が30歳を過ぎて人を雇うようになってから、シェフから教えてもらったことはすべて大切なことだと実感しましたね。
——もうひとりはどなたでしょう?
渡辺さん:妻との出会いも自分が変わるきっかけになりました。妻はとにかく明るくて、何をするのも楽しめる人なんですよ。彼女と出会う前、僕はどちらかというとネガティブで、人見知りも激しい性格でした。でも、妻と一緒に過ごすうちに自分も前向きな性格になれたんですね。
——渡辺さんが働きはじめた頃の「渡六菓子店」は、どんなお店だったんですか?
渡辺さん:お菓子屋ではありましたが、店舗の両脇には自動販売機があったし、店ではタバコもスナック菓子も売っていました。今で言う「コンビニ」みたいな感じです。家に帰ってきた頃は、それが嫌でしたね。それで、当時の僕は東京で本格的なフランス菓子を学んできた自負があったから、オペラやサンマルクみたいな、まだあまり馴染みがなかったケーキを「これがフランス菓子だ」ってたくさん並べたんです。自分では「美味しいからぜひ食べて欲しい」という思いだったんですけど、お客さまの反応はいまひとつでした(笑)。当時は、自分がなにかやればやるほど空回りしていたように思います。
——新しいことが軌道に乗るまでって大変ですもんね……。
渡辺さん:空回りしているのは、「渡六菓子店」という名前のせいじゃないかと思ったこともありました。「本格的なお菓子を作っているのに、評価されないのは名前のせいだ」って。それで、知り合いにリブランディングを頼んだんですよ。自分で店名の候補も考えていたし、早速打ち合わせをして、後日、担当の方からご提案をいただいたんですけど……。その方から「せっかく長く愛された『渡六菓子店』という素晴らしい名前があるんだから、そのままいきましょう」と言われたんです。その言葉に自信を持たせてもらったんですね。「このままでも、もっとやれるんじゃないか」と気持ちを新たにすることができました。
——これからは、どんな展開を目指しているんですか?
渡辺さん:ちょっと消極的に聞こえるかもしれませんが、お店の商品を精査していきたいと思っているんです。今までは、自分が知っていることを全部出し切ろうとしてきましたが、もう少しコンパクトに展開していくことでスタッフの負担をバランス良くしたいと思っているんです。もう少しゆとりのある、より働きやすい職場を作りたいですね。
——渡辺さん、スタッフさん思いですね。
渡辺さん:僕、一度挫折しそうになった人間だけど、「あのとき、お菓子作りの道を諦めないで良かった」と思っているんですよ。だから若い皆さんには、「お菓子作りの仕事って楽しいよね」って伝えたいんです。研修に来る学生さんや新入社員には、「お菓子作りが好きだから、これを仕事にしたい」という気持ちがあるんですよね。実際に働き始めたら大変なこともたくさんあるでしょうけど、最初はお菓子作りの楽しさを感じて「この仕事が好きだ」って気持ちをどんどん伸ばして欲しいと思っています。
——なるほど。
渡辺さん:それともうひとつ考えていることがあって、カフェスペースと展示会を兼ねた「ギャラリーカフェ」をやってみたいんです。「五泉の文化サロン」みたいな感じです。作品を見に来るお客さまにも、展示会のついでに「渡六」のカフェメニューを楽しんでもらいたいですね。
渡六菓子店
五泉市伊勢の川962-2
0250-42-2667
営業時間 :10:00〜19:00
定休日:毎週月曜日・第3火曜日