数年ぶりに規制のない中で開催された、今年の「フジロックフェスティバル」。待ってましたとばかりに、全国から多くの音楽ファンが訪れました。そんなフジロックと、自然豊かな湯沢町の魅力を伝えようと、写真とイラストで作品を作っているのが、アートプロジェクト「We’ll meet again」です。3回目となる今回の作品展は、9月1日から30日まで三条市で開催されます。会場となる複合施設「TREE」にお邪魔して、「We’ll meet again」を立ち上げたアリモトさんと、メンバーのスワさんに、プロジェクトをはじめたきっかけや今回の作品展について聞いてきました。
We’ll meet again
アリモト シンヤ
1978年加茂市生まれ。アート・ディレクター。フォトグラファーとしても活動し、ライブハウスや音楽フェスで会場やアーティストを撮影。2020年にアートプロジェクト「We‘ll meet again」を立ち上げ、フジロックや湯沢町を撮影した写真とイラストをミックスした作品を制作。2021年に初の作品展を開催。
We’ll meet again
スワ サカエ
1992年上越市生まれ。上越市を拠点に「qucecke(クセッケ)」という名前でイラストレーターとして活動。2020年にSNSを通じてアリモトさんと知り合い、「We‘ll meet again」に参加。イラスト担当として共同で作品を制作。
——まずは、アリモトさんがアートプロジェクト「We’ll meet again」をはじめた経緯を教えてください。
アリモトさん:2019年の末頃からコロナウイルスが流行りはじめて、フェスやイベントがどんどん中止になって、2020年はフジロックも翌年へ延期になりました。それでも僕はフジロックが開催されるはずだった日に、現地まで行ったんですよ。
——それはどうして?
アリモトさん:誰もいない会場の風景を写真で撮っておきたくて。あとで「こういう年もあったんだよ」と、その写真をいつか、どこかで展示できたらいいなって。
——フジロックの開催延期が、「We’ll meet again」を立ち上げるきっかけになったんですか?
アリモトさん:だけど誰もいない写真だけを展示するのも寂しいなと思ったので、写真の上に絵を描いて、2020年もフジロックが開催されていたかのような作品を作ろうと考えたんです。「いいイラストレーターがいないかな」と思って毎晩SNSで探していたときに、スワちゃんを見つけて声を掛けました。それが2020年の9月ですね。
——アリモトさんから連絡が来たとき、スワさんはどう思いましたか?
スワさん:私はそれまでフジロックに行ったことがなかったんですけど、興味はあったんです。そのタイミングで声をかけてもらって、「もしかしたらフジロックと縁があるんじゃないか」と思いました。怪しむ気持ちと「面白そう」って気持ちが半分半分でした(笑)
——実際におふたりが会ったのはいつですか?
アリモトさん:その年の11月に、スワちゃんが吉田で個展をやると知って会いにいって、そこで改めて「こういう絵を描いてくれないか」ってお願いしました。
スワさん:びっくりしましたね。開期中に2回も来てくれて「このひとマジだな」って(笑)。そのあとも上越まで来てくれて、そこでプロジェクトの話を聞いて面白そうだから仲間に加わったという感じですね。
アリモトさん:俺はいつでもフジロックに対してはマジだよ。
——そうしておふたりで作った作品を、2021年に初めて発表・展示されたわけですね。
アリモトさん:最初は「東京と大阪で展示しよう」と話していたんです。だけど苗場の観光協会に話を持っていったら、「毎年やっていたワークショップが(コロナの影響で)今年はできないから、その場所を使って展示をしたらいい」と言ってもらえて、急遽フジロックの会場内で展示できることになったんです。
——じゃあ、スワさんは2021年のフジロックが初めての参加になったわけですよね。行ってみていかがでしたか?
スワさん:展示の合間に「ライブも見てきなよ」と言ってもらえたので、好きなアーティストを見に行こうとしたんですけど、道中で大道芸人がパフォーマンスをしていて、それに釘付けになっちゃったんですよね。結局アーティストのライブはほとんど見られなかったんですけど、それでも「もったいないことをした」とは思わないくらい感動したんです。みんなが本気でやっているから、何を見てもどういう過ごし方をしても思い出になる場所なんじゃないかなと思いました。
——アリモトさんは長年フジロックを見ていて、思い入れが強いと思います。フジロックのどんなところが好きですか?
アリモトさん:全部ですね。ひとことでは語れないです。といっても、ライブを見なくても、そこでつながった仲間と一緒に過ごせればそれだけでいいんです。でもみんな「音楽が好き」っていうきっかけで集まって、そういうふうにつながれるところがすごいですよね。今年はお客さんの数もほとんど戻っていて、主催者的にもよかっただろうなって思います。
——3回目となる今回の展示は、今日お邪魔している三条市の「TREE」で開催するそうですね。
アリモトさん:ワークショップが戻ったのでフジロックの会場内で展示はできなかったんですけど、作品は準備していたので、どこか展示できる場所がないかなと思っていました。「TREE」は雰囲気がとてもいいし、子ども連れの方とかも来るからいいなと。
——今回の展示のテーマってあるんでしょうか。
アリモトさん:毎回テーマを設けていて、今回は「POWER TO THE PEOPLE」。ジョン・レノンの曲のタイトルですね。毎年フジロック最終日に「グリーンステージ」といういちばん大きなステージのライブが終わると、この曲が流れるんです。
——どうしてその曲のタイトルを今年のテーマに?
アリモトさん:故・坂本龍一さんは「音楽の力」という言葉を嫌っていましたけど、僕も音楽に直接的な力はないと思うんです。だけど音楽を聴いた人間が、それをきっかけに行動を起こすことはあるじゃないですか。今回僕がスワちゃんと知り合ったのもそうだし。そうやって何かを作ったり楽しいことを考えたりできるのは、音楽があったからなんですよね。だから今年はこのテーマにしました。
——今年はどんな作品を展示されるんでしょうか。
アリモトさん:去年撮影したフジロック会場の作品と、湯沢町の風景を題材にした作品を展示します。あとは2021年、2022年に制作した作品も飾る予定です。全部で20作品くらいかな。
——作品が入っている額縁も、味があって素敵ですね。
アリモトさん:額縁は毎年、フジロックの「ピラミッド・ガーデン」というエリアを作っている燕三条の職人さんに協力してもらって一緒に手作りしているんです。苗場には雪が積もるので「ボードウォーク」が腐食してしまいます。それをボランティアの人たちが改修しているんですけど、その廃材は捨てられることもあります。だから、その廃材を再利用して「額縁を作ろう」と考えたんです。同じ廃材を使って一輪挿しも作ったので、どちらも今回の作品展で販売する予定です。売上の一部は「湯沢こころのふるさと基金」へ寄付します。
——開期中はワークショップも開催されるそうですが、どんな内容を予定しているんでしょう?
アリモトさん:過去作品の写真を台紙に、スワちゃんに来場した方の似顔絵を描いてもらって、そこにホログラムのフィルムを張って、ストラップを通してその場でお渡しします。名前も入れられるので、フェスに行くときとかに首から下げてもらって、知り合った人とこのパスを使って挨拶してもらえたらいいですね。
スワさん:フジロックの会場で作品展をやっていたときに、自分たちでこういうパスみたいなものを作って下げていたら、「それいいな」って言ってくれる人がけっこういたんですよね。「じゃあ展示を見に来てくれた人をみんな仲間にして、みんなでこのパスをつけよう」というイメージで、このワークショップを考えました。
——「We’ll meet again」の展示を見た人に、どんなことを感じて欲しいですか?
アリモトさん:ここに来る人はフジロックに行ったことない人がほとんどかもしれません。だから展示を見てもらって「フジロックに行ってみたいな」って気持ちになってくれたら嬉しいし、それだけじゃなくて「湯沢に行ってみようかな」って思ってもらえたらいいですね。
スワさん:そうですね。フジロックの他にも「また行きたい」と思える場所が湯沢町にはいっぱいあると思うので、足を運ぶきっかけになったら嬉しいです。
We’ll meet again