昨年8月、信濃川が正面に望める新潟市中央区柳島町にオープンしたヘアサロン「YA」。新潟市のヘアサロンに20年勤め、県内外でセミナー講師として登壇することも多いという人気のスタイリスト、ヤマザキケンユウさんがはじめたお店です。今回は、気になる店名の由来や美容師のお仕事をする中で大切にされていることなど、いろいろなお話を聞いてきました。
YA
ヤマザキ ケンユウ
1982年新潟市生まれ。万代にあるヘアサロン「HURRAH」とセレクトショップ「AFTER SCHOOL」を展開する「(株)LIFEKNOWLEDGE」で20年間勤める。2022年8月に独立し、新潟市中央区柳島町で「YA」をオープン。インデペンデントクリエイティブコレクティブ「GATAFORNIA」の運営メンバーでもある。
――ヤマザキさんは何をきっかけに美容師を目指されるようになったんですか?
ヤマザキさん:学生の頃はずっと陸上競技をやっていて、大学進学の予定だったのですが諸事情で断念せざる得なくなってしまって「どうしようかな」ってときに、願書が間に合ったのが美容学校だったんですよ(笑)。ずっとファッションは好きで、やるならクリエイティブなことの方がよかったし、学校に行ってみてダメだったらまた考えようかなと思って。
――小さい頃から憧れていて……とかではなかったんですね(笑)。実際に入学してみていかがでしたか?
ヤマザキさん:陸上で長距離走をやっていたので、ひとりでコツコツと没頭することは昔から好きだったんです。そういう意味で性に合っていたんですかね。やっていくうちに楽しくなっていきました。それに「やるからには」っていう気持ちがあったので、学校のコンテストとかでも絶対に負けたくなくて。負けず嫌いというか、ストイックに積み重ねるみたいなことは小さい頃から嫌いじゃなかったです。
――美容学校を卒業してからはどうされんたんですか?
ヤマザキさん:「HURRAH」で20年間ずっと働いていました。もともと東京に出ようと思っていたんですけど、当時僕が髪を切ってもらっていたスタイリストさんに「私の先輩にすっごくかっこいい美容師さんがいるから、ちょっと会いに行ってから東京行きを考えてみたら?」って言われて……。
――ふむふむ。
ヤマザキさん:その紹介していただいた方がいたのが「HURRAH」の前身である「BEANS IN THE POCKET」のオーナー白倉さんのサロンでした。実際に行ってみて18歳の僕はすごく衝撃を受けたんです。「新潟にもこんなかっこいいお店があるんだ」「このサロンを全国区にしたい」っていう思いが出てきて、ご縁があって働かせていただけることになりました。
――その「BEANS IN THE POCKET」はどんなお店だったんですか?
ヤマザキさん:人がどんどん集まってくるお店っていうか。僕、風水とかはぜんぜん分からないんですけど(笑)。とにかくポジティブな空気というか、いい気が流れる場所でしたし、働いている先輩もかっこよかった。新潟のお洒落な人はみんなそこで髪を切っていたんじゃないかなっていうくらい、素敵なお店でした。
――それだけ他とは違う、特別な場所だったんですね。
ヤマザキさん:「そんな場所を自分もいつか作ってみたい」といった気持ちは、今思えばずっとあったのかもしれないです。この店のソファは「BEANS」に置いていたものなんですよ。「BEANS」がお店を移転するときに手放すことになったので僕が実家に持って帰って、いつかこれを使う日が来るんじゃないかと思ってとっておいたんです。当時オーナーが飼っていて、サロンにずっと一緒にいた犬のココアがかじって穴が開いちゃったので、そこは今はおもちゃを刺して塞いでいます(笑)
――ところで、「YA(ヤー)」っていう店名にはどんな意味が?
ヤマザキさん:英語のスラングで「YOU」とか「YES」っていう意味の「YA」なんです。お客様に対しても、スタッフ間でも、相手を肯定して応援し合える場所になってほしいな、っていう思いでつけました。気持ちよく「YES」って言える環境って、みんなが幸せになれる気がして。
――じゃあお客さんに接するときにも「肯定する」ことを大切にされているんでしょうか。
ヤマザキさん:そうですね。美容師って髪を切って可愛くしたり綺麗にしたりすることで、お客様の背中を押してあげられる仕事だと思うんです。サロンに足を運ぶ理由って人それぞれなので、どんな心境であれ勇気づけられるのも使命ですし。僕からの提案もしつつ、お客様の「なりたい」を肯定してより素敵にしてあげるために、自分も常に努力をして鍛えていかなきゃいけないなって思います。
――無責任に肯定するわけにもいかないですもんね。
ヤマザキさん:有能な経営者の方からしたら、「それをやって何の意味があるの」っていうようなことに対して一生懸命になっている瞬間とかもあるんですよ。でもやっぱり、自信を持ってお客様の背中を押してあげるためには、それが必要なことなんだと信じて僕らはやっています。ムダを愛せる大人の背中もあっていいんじゃないかって思います。
――ヤマザキさんがカットするときに意識されていることってありますか?
ヤマザキさん:「記憶に残る、余韻を残す」です。髪を切ることはあくまでも手段で、大切なのはその人が気持ちよく毎日をおくることができるか。ライフワークの中で髪の長さや明るさなどの許容範囲のキャパだけ共有して、あとは任せてもらうような感じですかね。
――じゃあヤマザキさんのお客さんは「おまかせで」っていう方が多いんですね。
ヤマザキさん:お客様の「なりたい」を忠実に再現するスタイリストさんも今は多いと思いますけど、僕はどちらかというと新しいサプライズをプレゼントしたいので、新しい自分に出会える機会を作ってあげたいと思っています。それは決して奇をてらったアヴァンギャルドなモノという意味ではなく、オーセンティックなデザインでも新しいバランスってたくさんあるんです。ありがたいことに「変わりたい」とか「背中を押してもらいたい」っていう方に来ていただだいているサロンなのかなって思います。
――ヤマザキさんは美容師っていうお仕事のどんなところにやりがいを感じますか?
ヤマザキさん:20年美容師をやっていて20年お付き合いのあるお客様もいらっしゃいますし。中学生のときから通ってくれていた女の子が「結婚するんです」って言って旦那さんになる彼を連れて来てくれたんですけど、実は恋人や友達より長い時間髪を切るというご縁でつながりがあることで、家族や恋人が知らないような話を僕は知っているみたいなことがよくあるんですよ(笑)
――長いお付き合いだと確かにそうですよね(笑)
ヤマザキさん:それぐらい僕を友達のように必要としてくれる人もいるし、ときには息子みたいに可愛がってくれる人もいれば、お兄ちゃんとかパパみたいに慕ってくれる人もいて。僕がみんなの生活の中でハマっていなかったピースにちょっとだけなれていて、それで毎月会うのを楽しみに通ってくれていれる人が多いのかなって感じるので、それは嬉しいですね。
――なんだか家族がたくさんいるみたいで素敵ですね。
ヤマザキさん:もちろんいいデザインを作るっていうのは当たり前なんですけど、美容師ってもっともっとパーソナルな部分まで支えられる仕事だと僕は思っているんです。それは「やりがい」って言えるかもしれないですね。
――これから「YA」をどんなお店にしていきたいですか?
ヤマザキさん:独立するとき、仲間とやるか、ひとりでやるかっていうのはいちばん迷ったんですけど、前の会社のオーナーには「何を食べるかより、誰と食べるかの方が大事だ」ってよく言われていたんです。これは今も大切にしていますし、今いるスタッフにも大切にして欲しいマインドです。
――いい言葉ですね。
ヤマザキさん:会社にいた頃は、自分が未熟だったゆえに傷つけてしまった人もいたし、でも一方で救えた人たちがいたことも事実で。それはひとりだったら感じられなかったことだし、やっぱりチームでやってきたからこそ、自分は今こういう景色を見させてもらっているんですよね。だからまた仲間を作って、みんなで同じような景色が見られる、大きくはないけど個性があってみんなの夢が叶う場所になれたらいいなと。スタッフを信じていつも気持ちよく「YA!!」と認めて応援できるサロンを、みんなで少しずつかたちにできたらいいです。
YA
新潟市中央区柳島町2丁目9-14
025-365-1941