“MADE IN NIIGATA JAPAN”を打ち出し、「THE CANVET」や「WWWBAG」といったブランド鞄を展開する「スパンギャルド」。今回の工場見学では、新潟市にあるこちらの工場にお邪魔し、いったいどんなふうに鞄を作っているのか、じっくりとお話を聞いてきました。
株式会社スパンギャルド
残間 健太郎 Kentaro Zanma
1977年新潟市東区生まれ。株式会社スパンギャルド東京企画室、取締役、プランニングディレクター。幼少の頃よりものづくりに接し、現在は従来の製造工程にとらわれず新しい発想で画期的な商品開発に取組む。
――まず「スパンギャルド」を立ち上げるまでの経緯を教えてください。
残間さん:僕が2歳のときなんで、41年前ですね。今社長をやっている母が、小さな縫製工場を立ち上げたんです。縫製が好きな人を集めて、車庫の上にミシン5台とか置いて。そこから細々とスタートした感じですね。僕は文化服装学院という学校を卒業してから、アパレル会社を転々としながら生活していました。営業やったり商品管理やったり。2006年から母親の工場で働くことになって、そこで初めて法人化して、株式会社スパンギャルドになりました。オリジナル商品を作ったり、ブランドの仕事を取ってきたりするのは法人の方が動きやすいと思ったんです。このときに初めて縫製以外の仕事、自社ブランドを立ち上げることになります。
――これは残間さんがおいくつくらいのときですか?
残間さん:29歳のときですね。正確にはその1年前くらいから母の工場では働いていたんです。東京にいながら、企画だけ携わるかたちで。
――立ち上げ当初のブランドはどのようなものだったのですか?
残間さん:最初は「jamila(ジャミラ)」という、ベビー雑貨とかママグッズのブランドでした。当時はちょうどブームがあって、それにのった感じですね。大手のベビー用品の会社さんとお仕事もさせてもらいましたが、ブームが落ち着いた頃、うちはモノづくりができるので早々に撤退したんです。そして新しく「THE CANVET(ザ・キャンヴェット)」というブランドを立ち上げました。
――ベビー雑貨というのは、安全性も重要ですよね。
残間さん:そうですね。うちでしかできない、赤ちゃんに優しいノンホルマリンの素材を使って作っていました。僕が直接工場に行って、どうやったらホルマリンが出ないでPVCが貼れるのか、一緒に研究して開発しました。
――ん、PVCって何ですか?
残間さん:ポリ塩化ビニールです。薄い透明なフィルムで小物雑貨にラミネート加工するイメージですかね。PVCは商品に貼り付けてコーティングすることで、水を弾く効果があります。防水のために貼っている商品が多いんです。それをボンドで貼るときにホルマリンが出るんですけど、うちはどうやったらそれが出ないかを追求して、最終的にはノンホルマリンでPVCを貼ることに成功しました。
――そういう技術の研究ってかなり大変だったんじゃないですか?
残間さん:基準値が決まっているので、それをオーバーしちゃうともう、商品として出せないんです。できた商品を検査機関に毎回送ってテストしてもらわないといけないんですよ。作って、送って、ダメで、みたいなのを何回もやりました。実験と失敗の繰り返しでようやくできた感じです。
――ものづくりとか、開発とか、そういうことは昔からお好きなんですか?
残間さん:小学校の頃なんかは、よく母の工場で手伝いをしていました。小学4年生くらいからミシンも踏んでました。ドラムセットが欲しくてバイト感覚でしたけど(笑)
――工場通いのきっかけはドラムセットだったんですね(笑)
残間さん:その頃に「音楽」と「ものづくり」っていう自分にとっての2つの軸ができた感じです。そこから文化服装学院に入って洋服を作りたいって思うようになったんですね。アパレルの基礎知識はあったので、パターンの勉強とかそういうのをもっと学びたいと思って。そのときも音楽はずっと続けていました。CMの音楽作らせてもらったりもしましたね。
――へ~、作曲をやってたんですか?
残間さん:今でもできますよ。
――音楽の道も考えてたりとか。
残間さん:学校を卒業してからは音楽をやろうと思っていました。デザイナーになりたい気持ちはなかったですね。音楽で売れるまでは目の前の仕事で稼ぎながら、みたいな感じで。ただ、ずっと音楽をやっていたので、ファッション、カルチャー、映画、写真とかにも興味はありました。デザインのアンテナも張っていたので、デザイン感覚は自然と養われていたのかもしれないです。
――そこからものづくりに発展していったんですね。
残間さん:ものづくりは幼少期からずっとやっていたので、自然と身体に染み込んでいました。工場では当たり前のように、どうやったら鞄ができるか、どういう状態のものがどこを縫うと形になっていくのかとか、そういうことを自分なりに見て理解して学んでいました。なので鞄の構造とかは物心つく頃にはもう当たり前の知識としてありました。
――工場でのお手伝いはどのくらい続けたんですか?
残間さん:高校生になるくらいまではやっていましたね。だから、「ものづくりをしたい」とかそういうのじゃなくて、それが日常だったんですよ。あとはお小遣いをもらえるっていう(笑)
――でもお手伝いとはいえ、クオリティは求められましたよね?
残間さん:もちろん工場はお金をもらって仕事をしているので、しっかりしたものを作らないといけませんでした。社長は完璧なものを求めるかなりの職人気質なので。社長のスタンダードに合うものでなければダメで、やり直しでした。小学生ながらに、社長直々に「どうやったらもっと良くなるのか」を教えてもらいながらやっていました。そのクオリティの高さがあったからこそ、バブルが弾けた後も生き残ってこれたんだと思ってます。工場好きになったのも、子どものときの経験があるからですね。
――いろいろな工場を見て回るのがお好きだと聞きましたが、それはいつ頃からですか?
残間さん:「jamila」を立ち上げてからですかね。そこから工場さんとのコネクションが広がっていって。2014年に立ち上げた「THE CANVET」は特に、「越後亀紺屋」や「亀田縞」を使っていたり、和歌山県の紀州南高梅の種が産業廃棄物で捨てられているのでそれを炭にしてペーストとして染料で使ったり、いろんな工場を見せてもらったからこそ思いついた発想を多く取り入れています。
――「ものづくりの好きな人が工場を見て回る」って、すごい良いアイディアですね。
残間さん:そういう、工場を巡る人って他にもたくさんいると思うんですよ。でも多くはライターさんだったり。僕は自分自身が職人なので、工場の人に気に入られるんですよね(笑)。通じるものがあるんでしょうね。「僕も職人です」って行くと、全部見せてくれるんですよ。ある工場では、行ったその日に「お前、織機1台いるか?」って言われましたね(笑)
――おお(笑)。職人さんならではですね。
残間さん:知識があるので、「じゃあ糸の何番手をこう織ったらこういうものができる」とか。そういった話ができるのは大きいですね。いきなり専門的な深い話をするので、工場の人たちに驚かれます。そのまま飲みに行って5~6軒はしごしたり(笑)
――行動力と体力もすごいです。
残間さん:そこでできたつながりとか知識を「THE CANVET」っていうブランドでアウトプットしている感じですね。今まで頭の中にアーカイブしてきた工場さん達とのつながりを掘り起こしながら、あそこの工場でこんなことできるんじゃないかとか。同時に「新潟のものづくり」っていうのも改めて考えるようになりました。
――「THE CANVET」についても詳しく教えてください。
残間さん:「jamila」の次の展開を考えたときに、僕の一番得意な帆布を使った鞄で、一番ストレスなくできる商品を、素材のクオリティを追求してブランド化しようって思いました。
――帆布が得意だったというのは?
残間さん:好きだったので、前から趣味で自分用の鞄とかを作っていたんですよ。ただ、帆布バッグだったら他にもたくさんあるので、差別化するために新潟の伝統的な素材を使ったり、うちでしかできないものは何だろうって考えましたね。
――そこでさっきの工場さんとのつながりが生きてくるわけですね。最初に作った商品は何ですか?
残間さん:最初に作ったのはフラップトートっていう鞄です。これは一番最初に作って、いまだに一番売れているシリーズなんですよ。トートにフラップがついていて、横でパチっと止められるようになっています。男女ともに使えて人気ですね。実はこれ、自分用に作ってた鞄を商品化したものなんです。それはオールレザーだったんですけど、帆布に変えて作りました。
――すごいかわいいですね。色もいいです。その次の商品はどんなものだったんですか?
残間さん:「藤岡染工場」の藤岡さんと作っているバッグですね。これは「Made in Niigata Japan」をうたって売り出しています。「Made in Japan」はもう当たり前になってきたので、新潟を押していこうと。フラップトートとほぼ同時期にスタートしたんです。刺子の半纏をモチーフにして、伝統的な素材を使用したものになります。最近では「亀田縞」さんとコラボして作った商品もありますね。あとは、2019年にある特許を申請しまして。
――ある特許って?
残間さん:工場から出るゴミの量ってすごいんですよ。アパレルとか繊維関係って、だいたい15%くらいがゴミとして出るんです。このゴミに関しては小さい頃からすごい思うところがあって。僕らは、その生地の残りを使ってワークショップをしたりしてたんですけど、でもそもそものこのゴミってどうにかならないのって。それもまた研究したんです。そこで生地の端から端まで使えて一切ゴミの出ない方法を考えつきました。「このデザインから鞄を作る」じゃなくて、「この形の生地からどんな鞄ができるか」っていう逆転の発想をしました。
――おおお、なるほど!
残間さん:1枚の布をどう縫ったら鞄が作れるのか。そうすればゴミが出ないじゃないですか。この特許のすごいのは、本来縫い代をテープなどで隠さないといけないんですけど、僕のやり方だと隠す必要ないんです。折り紙みたいに織り込んでいって縫代を裏に隠しているので普通の鞄の作り方とはまったく違うんですよ。A4のコピー用紙と何日も向き合って、折り方を研究しましたね。試行錯誤を繰り返して最終的にできたものを布で試しました。そしたらなんかすごいのできたなってなって(笑)
――これは……画期的ですね。
残間さん:大手の商社さんに見せたら「特許取れる」って言われたので申請しました。
――で、これをバッグに応用したわけですね。
残間さん:しかもその鞄に使う資材も、革の廃材を使ったりしています。靴の裏とかに使われたりする革なんですけど、一般的には捨てられている部分。それをうちは2mmに整えてネームに使ったりとかしています。
――いやー、ほんとにすごい。
残間さん:この技術を使った「WWW BAG」っていうブランドをこの春に立ち上げました。WWWは、World Without Wasteの頭文字です。「ゴミをゼロでものを作れないか」っていうところで。もちろん、エコとかゴミゼロとかだけじゃなくて、しっかりしたデザインと機能性を兼ね備えたラインナップっていうのを意識しています。そうじゃないと商品価値がないと思うので。この「WWW BAG製法」を世界に広めたいですね。これは2021年2月から販売予定です。
――めちゃくちゃ楽しみです。鳥肌立ちます。
残間さん:これは全部、新潟の人と一緒に作ろうと思っています。建築家でデザインもこなす「スイカカ」の近藤さん、五泉ニットの「塚野刺繍」さん、それと、ザックさんていう、日本酒の英語訳とか考えている新潟在住のアメリカ出身の方、この3人に協力してもらって、コンセプトとか一緒に考えてもらっています。
――じゃあ今後の目標としては……
残間さん:新潟でのものづくりっていうのと、世界のゴミをゼロにして根底から変えてやろうっていうのですね。鞄を通り越して、いろんなジャンルの人たちとゴミをどうやったらなくしていけるのか、そしてそれをどうやって商品に落とし込んでみなさんに買ってもらうのか。モノづくりから仕組みづくりに変わっていっています。それが今、一番楽しくやっていることですね。
株式会社スパンギャルド
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