あれだけ積もった雪も順調に消えつつあり、だいぶ春めいてきました。春といえば、みんな大好き「イチゴ狩り」のシーズンでもあります。新潟でイチゴといえば、大粒で糖度が高くジューシーな県産ブランド品種「越後姫」が真っ先に挙げられます。県北の清流・荒川流域で農業法人を営む「夢ファームあらかわ」も、10年以上前から「越後姫」にこだわったイチゴ園を運営しています。同園の三田さんに、今期の出来や美味しいイチゴの見分け方から、県北でイチゴ園を始めたきっかけ、コロナ以後の展望などまで、いろいろとお話を聞いてきました。
夢ファームあらかわ
三田 敏志 Satoshi Santa
1978年生まれ。高校卒業後、専門学校などを経て旧荒川町長政でコメ農家を営む実家に就農。研修で赴いた秋田のハーブ園で消費者と直接ふれあう喜びに目覚めたのがきっかけで、家業で2003年に観光イチゴ園を開園。試行錯誤を経て現在に至る。趣味は野球やバスケットボールなどスポーツ全般だが、最近は多忙もありなかなか体を動かせないのが悩み。
――ハウスに入ったとたん、イチゴのかぐわしい甘い香り! いきなりですが、今期の出来はいかがでしょう?
三田さん:今期は日照不足と大雪による低温の影響で生育が少し遅れ、開園も例年より1週くらい遅くなっちゃいました。ただ、生育が後ろ倒しになった分、収量が少なくなる端境期がなくなりそうなのは良かったです。もちろん品質も問題ありません。5月下旬までの開園期間中は、美味しい越後姫を安定して提供できそうです。
――まずは園の紹介をお願いします。
三田さん:当園は広さ2000㎡のハウスに、県産ブランドの越後姫を約1万6000本栽培しています。入園は無料で、摘み取ったイチゴは量り売り(100g税込220円)で提供しています。また4月中頃からは「30分食べ放題」のサービスも提供する予定です。ウチの特徴としては、開園中は毎週のように通ってくれる常連さんもいるくらい価格がリーズナブルなところと、鉄骨ハウスで面積が広いだけでなく天井も高く、開放的な雰囲気でゆったりとイチゴ狩りを楽しんでもらえるところですかね。
――確かにこのハウス、「密」になりにくそうな広さですね。ではイチゴの特徴はいかがでしょう、品種は越後姫のみに絞っているのですか?
三田さん:そうですね、平成15年の開園以来ずっと越後姫一本です。越後姫は雪国・新潟の気候や風土に合わせて開発された県オリジナルの品種ですが、県内の他地域に比べてより気温や日照時間などの条件が厳しいここ県北でも、とても美味しく育ってくれます。また、イチゴ最大の敵といえる病害虫を防ぐためには農薬散布をする必要がありますが、それをするとどうしても風味や食味が落ちてしまいます。そこで、ウチでは苗の温湯消毒を導入し、農薬の使用を最小限に抑えることで、美味しさと安心・安全との両立を図っています。
――そうなんですね。ちなみに、美味しいイチゴを選ぶコツってあるんですか?
三田さん:ありますよ。実に付いたヘタを見てもらえれば分かります。ヘタが逆立っている、反り返っているものは実に養分がしっかり入っていっている証拠なので、美味しいです。実の大きさはあまり関係ありませんね。あと、日照時間が長いとそのぶん甘くなります。なので、晴れが何日か続くと園に来るような通の方もいますね、「甘くなってるんでしょ」って(笑)
――なるほど(笑)
――そもそもイチゴ園を始めたきっかけは?
三田さん:ウチはもともとコメ農家で、カッコ良くいえば経営多角化の一環です。……とは言いつつ実のところ、自分は就農前にブラブラしていた時期があったんですけど、20代半ばでいざ就農することになって、地元の知人の奨めで新人研修として行かせてもらった秋田のハーブ園での経験が大きいですね。
――というと?
三田さん:それまで農業っていうと何となく自然相手に黙々と作業をこなすイメージがあったんですけど、そのハーブ園(現・ハーブワールドAKITA)では農業の経営多角化で先駆的な取り組みをしていて、摘み取り園のほか直売所やレストランなど、消費者と直にコミュニケーションすることができる業務が多かったんです。単純に働いていて楽しかったし、自分も農業を仕事にするならこういうことがしたいと思いました。それで、自分のところでやるなら何がいいかと考えた結果、子どもからお年寄りまで幅広く愛されるイチゴにしよう、ってことになったんです。
――そうだったんですか。結果的に、メインのコメと作期が被らない作物になったと。
三田さん:ちょうど農家として法人化するタイミングでもあったんですが、法人として冬期の収入確保、雇用維持もできますしね。栽培・出荷だけでなく、先に述べたように消費者と直接コミュニケーションをとりたいという思いがあったので最初から観光園もやるつもりで、こんなにデカいハウスも建てちゃいました。
――実際、手応えはいかがでした?
三田さん:イチゴ園の最大の売りは、イチゴを最も美味しい状態で、つまり摘みたてで食べられることです。さっきお話しした、ヘタが逆立っている、つまり摘み取る直前まで栄養を吸い込んでいるイチゴが食べられるのは園の大きな醍醐味です。県北でイチゴ園は珍しいこともあり、美味しそうにイチゴを頬張ってくれる家族連れの姿とかを見ていると、やっていて良かったなぁとしみじみ思いますね。今ではおかげさまで、8割以上のお客様がリピーターです。ここだけの話ですが、農家の性というか、けっこう試食のサービスもしちゃいますし(笑)。……こうして取材を受けていると、何というか初心に帰れますね。始めた当初の気持ちを思い出してきちゃいました。これからも頑張らないといけませんね。
――それは光栄です(笑)
――ところで、新型コロナの影響は?
三田さん:昨年は開園期間中に全国で緊急事態宣言が発令されたので、観光イチゴ園としては正直かなり痛かったですね。園の売上げとしては例年の数分の一くらいでした。摘み取られなかったイチゴは、廃棄するのも忍びないので、地元の福祉施設に無償で提供したりしました。
――今年もコロナ禍での開園となりましたが、やっぱり作付は減らしたんですか?
三田さん:いえ、イチゴは毎年10月から栽培を始めるのですが、毎年楽しみにしてくれている方もいるし、量を減らしたことでハウス内の雰囲気が寂しくなるのもなんだかなぁと思ったので、平年並みの量にしました。地元や近隣を中心に、こういう状況下でも足を運んでくれる方は本当にありがたいです。
――今後の展望を教えてください。
三田さん:おかげさまでイチゴ園としては地元を中心に定着しつつあるので、今後は夢ファームあらかわ産のイチゴとしてのブランド力の強化、高付加価値化にさらに力を入れていければと考えているところです。
――具体的には?
三田さん:安心して食べられて、かつ美味しいイチゴを作っていくのは生産者として当然ですが、何か加工品もできたらなぁ、とは考えています。ウチはコメがメインで冬期は餅の製造もしているのですが、それ以外でも何かあればなぁと法人としては以前から考えていて。単純に考えれば「イチゴ大福」ってことになるのでしょうけど、どうかなぁ(笑)。また、この村上市荒川地区には美味しいお菓子屋さんが多くて、ウチのイチゴも使っていただいているので、そちらの方でも「夢ファームあらかわ産のイチゴを使用」が大きな売りになるくらい、頑張っていきたいですね。初心に帰らせてもらえたところですし(笑)
――であれば良かったです(笑)。本日はありがとうございました!