丸ごと一匹のお魚がじっくり焼かれる様子をカウンター席から眺められる「炉端割烹 炭なじ」。お店を営む野口さんご夫婦が釣る鮮魚が「原始焼き」で調理される様子はなんとも見応えがあります。今回はYouTubeチャンネル「釣りなじ」を運営するYouTuberでもあるおふたりに、お店をはじめたきっかけやオープンしてからの苦い経験などいろいろとお話を聞いてきました。
炉端割烹 炭なじ
野口 元気 Genki Noguchi
1988年新潟市生まれ。飲食店に数年勤めた後、営業職やサービス職を経験。2019年にYouTubeチャンネル「釣りなじ」を開設し、夫婦で釣りをする様子などを配信。2023年「炉端割烹 炭なじ」をオープン。釣り歴はなんと30年。
炉端割烹 炭なじ
野口 沙羅 Sara Noguchi
1992年新潟市生まれ。短大卒業後、新潟市内のジュエリー専門店に勤務。現在は「炉端割烹 炭なじ」の女将さん。食べ物の好き嫌いをメキメキと克服中。釣り歴は5年。
——まずは「炭なじ」さんがどんなお店なのか教えてください。
元気さん:私たちが釣った魚と粟島から直送の鮮魚を楽しんでもらえるお店です。名物はカウンター前の囲炉裏で「原始焼き」スタイルでじっくりと焼くお魚です。他にお造り、厳選した旬の野菜を使った一品料理などをコースで召し上がっていただきます。
沙羅さん:私たちは粟島の魅力をもっと伝えたいと思っています。粟島に専属の仕入れ先があるので、旬のお魚が手に入りやすいんです。
——お酒はやっぱり新潟の地酒を用意されているんでしょうか?
元気さん:江南区の「新し屋酒店」さん、中央区の「酒のよしや」さんが厳選した新潟の定番酒に季節酒、限定酒を揃えています。日本酒は一度開栓してしまうと風味が劣化するので、フレッシュな味をお届けするために一升瓶ではなく四合瓶で仕入れています。1週間出なかったら料理酒にするなど、品質管理を徹底しています。お酒が好きなお客さまからも好評です。
——おふたりはYouTuberでもあるとか。
元気さん:女将は食べ物の好き嫌いがものすごく多かったんですよね。野菜、肉、魚は食べられない。魚は煮ても焼いてもNGで、生魚なんてもってのほかで。食卓はハンバーグ、オムライス、パスタなんかのローテーションでした。でも僕は日本酒で晩酌をするのが好きだから、毎日の食事にちょっと飽きちゃって。それで女将になんとか魚を好きになってもらいたくて、5年前から一緒に釣りをはじめたんです。それがYouTubeをはじめるきっかけでした。
——好き嫌いが多い沙羅さんには、生のお魚はハードルが高かったでしょうね。
元気さん:自分で釣ったお魚だったら口に運んでくれるかなって思ったんですよ。最初はマメアジを釣りに行って。そこで釣れた大きめのアジを刺身にして食べてもらったら、「美味しい」って喜んでくれました。
——沙羅さん、そのときのアジは美味しかったですか?
沙羅さん:めちゃくちゃ美味しかったです。それまでお魚の生臭さに苦手意識があったんですけど、自分で釣ったアジには思い出もプラスされたのかまったく臭みがなくて。「こんなに美味しいの?!」って感動しました。今ではお刺身がいちばん好きです。私、初めて釣った魚は必ず食べてみるんですよ。キャッチ&イートするんです(笑)
——そんなに大きな変化があるなんて。
元気さん:新潟って美味しいお魚がたくさんあるのに、あんまり売られていないですよね。YouTubeでも「炭なじ」でも、若い世代に新潟のお魚の美味しさを伝えたい、どうやったらもっとお魚を食べてもらえるかなって考えています。
——YouTube配信をしようと思われたのはどうしてですか?
元気さん:僕はどこかのお店で料理を勉強してきたわけじゃないので、努力で追いつける自信はあるけど、スタート地点では料理修業をしてきた人には勝てないと思いました。店をはじめるとして、いったいどうやって集客すればいいのだろうかと考えたのがYouTubeチャンネルの開設だったんです。自分たちで閲覧数が見えるSNSをやってみようと。
——お店をはじめる前提で、その広報的な意味合いを込めてYouTubeをはじめたわけですね。じゃあ、お客さんの目の前でお魚を焼く炉端焼きのお店にしたのはどうして?
元気さん:たまたま囲炉裏調理をするお店のYouTubeを見たからですかね。囲炉裏だとか火鉢に興味があったので、関連動画をよく見ていたんですよ。炭火焼はしてみたいと思っていました。
——こういうお店って新潟にありそうでないのでは?
元気さん:「原始焼き」のお店は新潟に他にないと思います。鮮魚が生かせて、僕たちなりのアイデンティティになることってなんだろうっていう点も決め手になりました。
——元気さんはどうやってお料理を学んだんですか?
元気さん:飲食店経営をやりたいなって考え出した頃から、前菜、先付け、メインを組み立てるイメージでずっと女将のお弁当を作ってきました。3、4年一度もメニューをかぶらせずに。できあわせのものは使わず、いちからお出汁を取ったりして。包丁の使い方、盛り付けも含めてすべて特訓だと思っていましたね。だから女将のお弁当づくりが僕の修業です。
——随分手の込んだお弁当だったんでしょうね。
元気さん:YouTuberらしく、YouTubeでいろいろな職人さんの技術を見て参考にしました。料理は独学で、お師匠はYouTubeですね(笑)
——沙羅さんは、ご主人の「飲食店にチャレンジしたい」という夢をどう思われていたんでしょう?
沙羅さん:主人は私と出会った頃から「いつか自分のお店を持ちたい」と話していたので、「そういう気持ちがあるんだな」って頭の片隅にはありました。でも私は好き嫌いが多かったから、ちょっとだけ他人事だったっていうか……。
——でも沙羅さんのお魚嫌いが今につながっているじゃないですか。
沙羅さん:そうですね。それは貢献できたかなって思います(笑)。釣りをはじめてから「私たちが釣ったお魚を美味しいと言ってもらえたら嬉しいだろうな」って思うようになりました。いつか主人と一緒にお店に立てたらいいなって。
——趣味だった釣りが、今ではお仕事の一環になったと思います。
元気さん:遊びが仕事になって、仕事が遊びになったって感じですよね。お店を構えるってことは、釣ったお魚がお客さまの口に入るし、対価もいただくわけです。釣れなかったら「釣魚が食べられる」っていうアイデンティティがなくなっちゃうわけだから、今まで以上に真剣に釣りをするようになりました。どうやったらもっと釣れるかとか保存の仕方、焼き方、いろいろな面で日々レベルアップしている手応えはあります。
——ちょっと意地悪なことを聞きますが、予定していた釣果じゃなかったことはありませんか?
元気さん:ありました(苦笑)。今でもトラウマみたいに記憶に残っていることがあって。より一層気を引き締めるきっかけにもなったんですが……。魚が釣れなくて、焼き物を養殖魚に頼ってしまったことがありました。養殖を否定しているんじゃなくて、小手先のテクニックに逃げてしまったっていうか。技術がないのに盛り付けでごまかそうとしたり、焼き物を半身にしてしまったりして。うちらしさを忘れて逃げてしまったことがあります。
——釣れるかどうか保証はないから難しいですよね。
元気さん:そのときのお客さまはご紹介で来てくれた方なので、ありがたいことに後日、料理の感想を聞くことができました。「釣りものって聞いていたのに、それが出てこなくて残念だった」って。季節の変わり目で粟島の魚も手に入らないタイミングだったのに、備えをしていなかったんですね。甘かったです。「なんとかなるかな」って。そのことがあってから「常に前もって段取りをしよう」と決めました。より仕事に一生懸命向き合うきっかけでしたね。
——オープン後の反響はどうでしたか?
沙羅さん:最初の頃と比べると皆さんに足を運んでいただく機会が増えているかなと思います。県外から「新潟の美味しいお魚を食べたい」と旅行でいらっしゃる方や「このために新潟に来ました」という方もいます。それがすごく嬉しくて。
元気さん:恥かしながらオープン直後の7月、8月はいいスタートではありませんでした。その前の3ヶ月、プレオープン期間には、僕たちのYouTubeチャンネルの視聴者さんをお呼びしていたんですけど、その頃よりも客足は少なくて。お魚が揃わず逃げ腰になっていたんですね。8月後半からいろいろ見直し、自分自身の気持ちを引き締めて、9月の終わり頃からはほぼ満席状態で営業させてもらっています。手応えとしては十分感じていますけど、いつまで続くかは分かりませんから、やっぱり日々努力ですね。自分たちの至らぬ点を改善しながらやるしかないと思っています。
——さて、今後はどんなお店にしていきたいと思っていますか?
元気さん:「炭なじ」がある場所は繁華街ではないですけど、ここを目的に来てくださる方を増やしていきたいなと思っています。「新潟で炉端焼きを食べるなら『炭なじ』」と皆さんの頭にパッと浮かぶようなお店にしたいですね。海外のお客さまも増えているので、「Made in Niigata」として、地域と共存するグルーバルなお店していきたいと思っています。
沙羅さん:私は一生懸命主人を支えて、たくさんの方にお越しいただくお店にしたいです。
炉端割烹 炭なじ
新潟市中央区横7番町通1-4524-1
Tel/025-211-8508
営業時間/17:00〜23:00
定休日/月曜日
※要予約、コース料理での提供のみ