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関西で修行、各地の旅館で経験を積んだ店主の味。魚沼市「旬食や香秀」。

魚沼市旧小出町の南本町商店街にある「旬食や 香秀(かしゅう)」。ご主人は宮崎出身、女将さんは佐賀出身という「九州もん」ご夫婦が営むお店です。関西、九州、島根、長野と各地の旅館で料理人としてのキャリアを積んだご主人は、スノーボードの聖地を求めて魚沼市にやって来ました。独立し「香秀」をオープンしたきっかけや、魚沼ならではの食文化についてなど、いろいろとお話を聞いて来ました。

 

旬食や 香秀

金丸 秀彦 Hidehiko Kanemaru

1965年宮崎県生まれ。高校の調理科を卒業後、関西、佐賀などの料理店や旅館で経験を積む。島根県で旅館の料理長を任されていた頃、スノーボードにハマり長野県内の旅館に転職。その後、魚沼市大湯温泉の旅館を経て、2013年に独立。「旬食や 香秀」をオープン。怪我の不安があるのでスノーボードは引退したものの、ゴルフは大好き。

 

ゲレンデが目の前。スノーボード好きにはたまらない、山の中の職場。

――金丸さんは、宮崎県ご出身です。どういう経緯で魚沼市にいらしたんですか?

金丸さん:30代前半の頃、島根県の温泉旅館で働いていたんです。はじめて料理長を任された職場でした。そこでスノーボードにハマったんですね(笑)。職場を変える機会があったら「スノーボードの本場がいい」と、次は長野で働いて。それから、魚沼市の大湯温泉の旅館に移ったんです。

 

――スノーボードの環境が整っているかどうかが肝心なんですね(笑)

金丸さん:間違いなく、それがいちばん大事なポイントでした(笑)。当時は「うちに来てくれないか」って仕事のお誘いがけっこうあったんですよ。そのとき大湯温泉で働く話をもらって、地図を見たらびっくり。すぐ目の前がスキー場ですから(笑)。毎日スノーボードをしていたので、旅館の従業員さんには「新しく赴任した料理長さんは仕事をしに来たんだか、スノーボードをしに来たんだか」と不思議がられました。

 

 

――それから自然な流れで、「香秀」さんをオープンされたんでしょうか?

金丸さん:大湯温泉の旅館を辞めることになり、次は全国各地の旅館に出向いて、料理指導をする仕事に就こうと思っていたんです。でも子どもたちに「これからお父さんは単身赴任をするかもしれない」と伝えたら、「絶対に嫌だ」と言われまして。それであればと、これまでの経験を生かして、自分の店をはじめることにしたんです。

 

――もしかして、独立したいお気持ちは以前からあったのでは?

金丸さん:「いつかは」という気持ちは多少はありましたけど、まだまだ旅館で料理を作り続けるつもりでいたんです。というのは、お師匠さんを真似てみたくて。お師匠さんはひとつの旅館に長く勤めていながら、ちょっとずつ料理の趣向を変えてお客さまを喜ばせる人だったんですよ。

 

飾り付け用にもらった「木の芽」にびっくり。

――旅館のお料理って特別ですよね。普段なら食べられない量をペロリと完食しちゃいます。

金丸さん:「流れ」が大事なんだと思いますよ。味にメリハリをつけて、濃くしすぎないことも意識していました。私は関西で修業してきたので、薄味が得意なんですよ。

 

 

――金丸さんのお料理のベースは、関西なんですね。

金丸さん:関西で料理を教わりましたからね。他の地域でも料理人として働いてきましたけど、習ってきたわけではないので。山菜は、長野と新潟に来て扱えるようになりました。それまでは使ったことがなかったんです。

 

――へぇ~。そういうものですか。

金丸さん:山菜の「木の芽」を知りませんでした。関西で木の芽といえば、手でポンと叩いて香りを立たせる山椒の若葉。知人が「木の芽をくれる」というので、飾り付け用にぴったりだとありがたくもらったのに「なんだこれは」と驚いたことがあります(笑)

 

食文化の違いは、至るところに。

――このあたりで関西風の味付けは珍しいでしょうから、「香秀」さんは重宝されているんじゃないですか?

金丸さん:近隣のお店とは味がまったく違うと思います。でもそれだから、最初はものすごく苦労しました。不思議なもので、ひと口食べる前に料理にお醤油をかけるお客さまが多かったんですよ。「なぜ醤油をかけるのか」と聞いてみたら、「だって、ここに醤油があるから」って(笑)。それを聞いて、テーブルには調味料を置かないことにしたんです。

 

――お店の雰囲気は、落ち着いた和食料理店って感じですね。

金丸さん:本当は旅館のようにコース料理を出す和食店にしたかったんですよ。でも魚沼市では、それがなかなか受け入れられなくて。今もコース料理の予約はお受けしているんですけど、それだけじゃなくて、アラカルトメニューや当日でも注文していただける軽めのコースメニューも用意しています。

 

 

――旅館で料理長をされていた腕を生かそうと思われたんですね。

金丸さん:1品ずつ料理を出していくスタイルは、たぶんこの地域に合っていなかったんですね。他のお店で宴会をすると、オードブルの盛り合わせとメイン料理がはじめから用意されている場合が多いんですよね。かなりのボリュームがあって、食べきれない分はあらかじめ用意してある折箱に入れて持ち帰る風習があって。うちはそうではないので、「量が少ない」「持ち帰れる食事がない」とお客さまによく言われたものです。

 

――確かに私の地元でも、そういうスタイルの宴席が多いです。

金丸さん:食文化が違うんですね。コースの最後にご飯とデザートを用意していたのに「居酒屋なんだからご飯なんてつけなくていい」と叱られたこともありました。当時は「絶対、居酒屋とだけは呼ばれなくたい」と足掻いていましたが、もう力尽きました(笑)。今は、ご飯を召し上がるかどうか選んでいただいています。

 

関西風も新潟の食材も。美味しさを存分に引き出す。

――「香秀」さんで人気のお料理はなんでしょう?

金丸さん:だし巻きは、関西で修行した人間でないと作れない一品だと思います。お出汁がたっぷりだから、巻くのに技術がいるんですよ。

 

――ちょっと高級というか、本格的な日本料理みたいなものもあるのでは?

金丸さん:ハモ、スッポン、ふぐ、うなぎなんかもお出ししています。6月半ばからは、ハモの時期ですね。

 

――ハモは、関西のイメージがありますよ。

金丸さん:新潟市内でもハモ料理のお店があるみたいですよね。一緒に白菜を出しているようでしたけど、関西では野菜はほとんど入れません。「魚沼から本場のハモを発信してやる」と赤字覚悟で提供してきた甲斐があり、毎年ご注文くださるお客さまが増えてきました。

 

 

――栃尾の油揚げや八色しいたけを使ったメニューもあるんですね。

金丸さん:新潟の食材は、やっぱり美味しいですよ。農家さんから直接仕入れています。

 

――新潟のものが美味しいだなんて、嬉しいです。

金丸さん:米と水がうまいから、ここに残ってもいいなと思ったんです。軟水だからか、すごくいいお出汁がとれるんですね。出汁がきちんととれると、ほんの少しのお塩を少し入れるだけで十分美味しいんですよ。

 

 

 

旬食や 香秀

魚沼市小出島124-69

025-792-6901

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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