焼鳥をつまみに風呂上がりのビール。
よみがえった「小松湯亀田」
その他
2026.03.19
時代の流れで失われていくもののなかに「銭湯」があります。昭和初期には多くの人にとって生活の一部だった銭湯も、ほとんどの家庭にお風呂がある現代では需要が減ってきています。加えて経営者の高齢化や施設の老朽化などの問題で、多くの銭湯が廃業を余儀なくされているのが現状です。「小松湯亀田(こまつゆかめだ)」もそうした銭湯のひとつで、前経営者が亡くなってから休業していましたが、飲食業界で働いてきた森山さんによって受け継がれ、ちょっと変わった銭湯としてよみがえったのでした。
森山 章
Akira Moriyama(小松湯亀田)
1974年新潟市東区生まれ。30年間飲食業界で焼鳥に携わり、2024年より「小松湯亀田」を承継する。趣味はマラソンだが、最近は走る時間がない。
消えゆく銭湯を守るため、
焼鳥職人が休業中の銭湯を受け継ぐ。
――新潟市東区にある「小松湯」の神田さんに取材した際、森山さんと同級生だとお聞きしました。
森山さん:そうなんですよ。彼から「休業中の『小松湯亀田』を経営してみる気はないか」と勧められたんです。それで「新潟市から銭湯を失くしたくない」という彼の思いに共感して、「小松湯亀田」を受け継ぐことにしました。
――それまでは、どんな仕事をされてきたんですか?
森山さん:焼鳥をはじめとした飲食業に30年間携わってきました。
――それで銭湯と一緒に焼鳥もはじめたんですね。
森山さん:銭湯一本でやっていくのは難しいかもしれないと思ったので、焼鳥店を一緒にはじめることにしたんです。前職で新店立ち上げに関わってきた経験が、このたびの焼鳥店開業にも役立ちましたね。
――風呂上がりに冷たいビールと焼き鳥なんて、最高じゃないですか(笑)。ところで、銭湯って家業として受け継がれることがほとんどのように思うのですが、他の人が受け継ぐことってできるんですね。
森山さん:前オーナーのご親族との交渉や役所への手続きなど、やらなければならないことが山積みでしたね。特に保健所への営業許可申請は、最新基準での設備検査が適用されるんですが、「小松湯亀田」は昭和時代につくられた設備だから基準に満たない部分があるわけですよ。かといって、配管設備の修繕にはとんでもない額のお金がかかるので、どうしようかと思いました。
――大ピンチじゃないですか。
森山さん:でもちょうどその頃に「公衆浴場法」が改定されて、承継手続きをおこなうだけで許可申請なく、事業を譲り受けることができるようになったんです。それによって設備もそのまま使えることになりました。ほっとしましたね(笑)

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薪不足や窯の不調と戦いつつ、
薪窯で沸かすお湯へのこだわり。
――森山さんが受け継いで、改修した部分はあるんでしょうか?
森山さん:銭湯ならではの雰囲気は残したかったので、番台やロッカー、ペンキ絵はそのまま残しましたが、男湯と女湯を仕切っている壁が2メートルもなくて低過ぎたので改修して高くしたんです。棟続きになっている住居スペースも改修して、飲食スペースと厨房を設けました。
――以前はペンキ絵の富士山がちゃんと見えていたことを考えると、かなり壁が低かったことがわかりますね(笑)。ところで、薪窯を使ってお風呂を沸かすのって難しいんじゃないですか?
森山さん:そうですね。同じく薪窯で銭湯をやっている東区の「小松湯」で研修を受けたんですが、窯がまったく違うので出張してもらいました(笑)。なにしろかなり多くの薪を使うので、業者さんが長期休暇に入ったりすると薪が足りなくなることがあるんです。そうなると、あちこち薪を探し回ったり、場合によってはサウナが営業できなくなったりします。
――薪がこちらの銭湯の命なんですね。ちなみに窯はどのくらい使っているでしょうか?
森山さん:60年以上使っているので不具合も出てきていて、直し直し使っているんですよ。もしも窯を入れ替えるとなると建物を壊さなければならないんです(笑)
――うわ〜、それは大掛かりですね。
森山さん:薪窯を使うのは大変なことも多いんだけど、お湯が柔らかくて入りやすいと評判がいいですね。


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幅広い世代が集まって交流する、
地域のコミュニティスペースを目指す。
――「銭湯」って、近所のおじいちゃんやおばあちゃんが入りにくるイメージでしたけど、学校帰りの小学生がめちゃめちゃ多いですね(笑)
森山さん:地元小学校の校外学習がきっかけで、小学生達が入りにきてくれるようになりました。お風呂に入った後は焼鳥を食べながら遊んで、夕方5時半頃になるとそれぞれ帰っていくんです。
――へぇ〜、ちょっとした学童保育や子ども食堂みたいですね。
森山さん:僕が子どもの頃には駄菓子屋がそんな場所だったんですよ。現代ではほとんどの家にお風呂があって、銭湯を利用する機会が減っているので、子どもの頃から銭湯に慣れ親しんでもらいたいと思っています。部活動返りの中高生にも利用していただいて、汗を流して帰ってもらいたいですね。
――銭湯利用者の若返りも図っているわけですね。
森山さん:週末になるとご家族で来てくれて、親同士がここで知り合って仲良くなるなんてことも多いんです。昔の銭湯が社交の中心だったように、この「小松湯亀田」が地域のコミュニティスペースとして、老若男女問わず地元の皆さまに親しんでいただけたら嬉しいですね。
――銭湯にもいろいろな可能性がありそうですね。
森山さん:いつか銭湯の2階を改築して、宿泊できる施設もつくりたいんです。お風呂の後に焼鳥でビールを楽しんで、そのまま泊まれたら完璧じゃないですか?(笑)

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