ものづくりのまちの箱屋として昭和7年に創業して以来、ニーズに合わせて様々な箱を製造してきた「相場紙器製作所」。令和2年に販売を開始した素朴でレトロな風合いの箱「アイバコ」は、「ガッチャン箱」と呼ばれるようになり地元・三条市を中心にファンが増えています。今日は相場紙器製作所の3代目代表取締役の相場さんに、自社ブランド立ち上げの経緯などいろいろお話をお聞きしてきました。
株式会社相場紙器製作所/アイバコ
相場 浩 Hiroshi Aiba
1968年三条市生まれ。3代目 代表取締役。株式会社相場紙器製作所は今年で創業90周年。
――相場紙器さんでは昔から箱を作っていたんですか?
相場さん:相場紙器は創業90周年で、初代である祖父は元々ハサミを作っていました。当時、世の中では「商売」そのものが大きく動き始めていたタイミングだったみたいで、「商品」を出荷するには「箱」が必要になってくるんじゃないかと思って、箱屋を始めたと聞いています。製造業は設備投資が必要で初期費用がかかるから、今では製造業をいちから始めるってなかなか考えられないですよね。どうゆうメンタルだったんだろうって思います(笑)。時代がそうだったのかもしれないですけどね。
――相場さんが小さい頃のお爺様の記憶はありますか?
相場さん:じいちゃんは俺が大学生1年生になるまで生きていたので全然記憶はあります。すぐ近くに住んでいたので子どもの頃はよく遊びに行ってました。紙の端材を入れている倉庫があったので、友達とそこに入って遊んでたりとか(笑)
――3代目として継ぐことを意識したのはいつくらいから?
相場さん:6歳上の兄が大学進学を決めたときに「俺は会社継がないからな」って言ったんです。それを聞いて「あ、じゃあ俺が継ぐんだな」って思ったんです。それだけなんですよ。昔よくここで遊んでいたのもあるのかもしれないけど、そこに葛藤とか嫌だって気持ちとかはまったくなかったんですよね。
――早い段階から決められていたんですね。
相場さん:進路を決めるときは、「家業は機械を使っているかえら機械工学科に行けばいいんだ」と思って理系を選びました。ただ、卒業して会社に戻ってきて気づいたのは、会社を継ぐ人はみんな経営学部に行っていましたね(笑)。おかげで機械は自分で直せますけど(笑)
――無駄にならなくてよかった(笑)
相場さん:こういう町工場なので経営だけやっているというよりはまずは現場でしたね。父も機械使ったり配達したりもしていましたし、あとを継ぐとはいえ現場のことも一通りできないといけないです。
――お父様とやり方でぶつかることはなかったですか?
相場さん:俺はまったくなかったんですよね。時代の違いもあるしぶつかるのって理解できるんですけど、俺の場合は先代がやってきたこともしっかりあるわけだし大切にしないといけないなっていう思いがありました。配達とかに行くと「せがれ帰ってきたんだか。おめんちには世話になってなずっと」って言ってもらえるとやっぱ嬉しかったし、こうやってじいちゃんも父ちゃんも可愛がってもらってきたんだなって感じました。そう思うとこれはしっかり守っていかなきゃいけないなって思ったんです。
――お若いうちにその気づきはすごいですね。
相場さん:1回だけすごい大喧嘩しましたけど、内容は大したことなくて単純にお互いキレるタイミングが一緒だったってだけでした(笑)。現場仕事がメインでしたし、機械使っている分にはぶつかりようもないんですよね。やり方に対してどうもこうもないんで。あるとしても「早くやれ」「分かってるて」ぐらいなもんで(笑)。「会社をこうしていきたい」とか「こういう業界に手をだしたい」とか経営の話はほぼしなかったですね。それが良くも悪くもあったんでしょうけどね。
――代替わりはいつのタイミングで?
相場さん:親父は80過ぎで亡くなるまでずっと社長でした。会社のことをいちばん愛していたのは親父で、想いもかなり強かったと思います。俺は親父が社長としていたいならずっといればいいよってくらいの感覚でした。ただ歳も歳だったしほんとそろそろなのかなって思ったタイミングで脳梗塞で倒れてバタバタと代替わりしました。亡くなったのが平成31年1月で、そのあとすぐにコロナでしたね。親父がなくなるまで経営はすべて親父が管理していたので焦りました。
――アイバコはお父様が亡くなられてから?
相場さん:昔から見るとうちの事業規模は下降気味ですし、それに合わせて従業員も減ってきています。これではいけないということで「アイバコ」を作ったっていうのもあるんです。親父がいる頃は目の前の仕事が忙しくて新しい企画を進めることができなかったですね。
――アイバコはどうやって生まれた企画なんですか?
相場さん:たまたま知り合いのデザイナーから「相場さん自社ブランドとかって考えてないですか?」っていう話がありました。こちらとしてはなくはないけど高くて手がでないと話したら、「試しに品物が売れたら何%っていうマージン制でどうですか」っていう提案をしてくれました。それならこちらも進めやすいからということでお願いすることになるんです。
――デザイナーさんと一緒に考えられた商品なんですね。
相場さん:うちはホチキスを得意としてやってるので、なんかこの素朴感残しておきたいなと思ったんです。「ホチキス止めの箱って可愛いよね」って思ってくれるような方たちをターゲットにした商品を作ろうかなっていうのがコンセプトで販売開始したのが令和2年頃ですね。アイバコは一般の方向けですが、それを見た企業さんとかが「じゃあこんなのも作れる?」っていう感じでB to CからB to Bにもつながればいいなっていう狙いもありました。
――販売はどのようにされているんですか?
相場さん:商品ができてからもコロナ禍で展示会も開かれていませんでした。バイヤー見つけて取り扱ってくれるショップを見つけるようなこともできなかったので、ECサイトで販売することにして今に至ってます。初めて自社製品を販売するっていうことをして、売るのってすごいお金もかかるし大変なんだということを知りましたね。
――お客さんの反応はどうですか?
相場さん:「ネットでホチキスの箱調べたら見つけました」って言って連絡くれる方も増えてきました。そもそも「ホチキス箱」っていうのが正式な検索ワードなのかも分からず始めたんです。業界的には「ステッチ式」「機械箱」とか言うんですけど、一般の人が探したいときに「いったい何て呼ぶんだろう?」って悩みました。「ホチキス」なのか「ホッチキス」なのかからはじまり……(笑)
――確かに。人によって呼び方違いそう(笑)
相場さん:今ではこの辺で「ガッチャン箱」って呼んでもらえるようになりました。ホチキスを止めるときにガッチャンガッチャンと音がするところからきています。全国区では呼ばれていないんですけど、三条付近ではおおむね通じるようになってきました。なのでこれを世界に広げたいなと思っています。SNSなどの投稿のタグには必ず「#ガッチャン箱」ってつけるようにしています。
――呼び方も徐々に広がっているんですね。
相場さん:このあいだある女性からカフェをやりたいから箱が欲しいっていう依頼を受けて、そのとき彼女が「ガッチャン箱でお願いしたいんですけど」って言われたときに「よしっ!」って思いましたね(笑)。あとはチーズケーキ屋さんから何個か入れるのにちょっと素朴な感じの箱が欲しいっていう感じで依頼もらったり、ショップのギフトボックスとして使ってもらったりしています。これをいいと思って使ってくれる人がいるっていうのは嬉しいですね。
――今後の展開としてはどうですか?
相場さん:アイバコきっかけでの発注も増えてきているので、もっとシンプルな定番商品も作ろうかなと考えています。あとは自分でホチキス止められるような箱とか。そうすると展開したまま送れるので数量も多く送れるし送料も安くすみます。家業としてホチキス止めをやってきたので、どんなかたちでもこれを残していきたいですね。こういうのが好きと言ってくれる人たちの生活の中に寄り添っていけるような素朴な製品を作っていけたら良いなというのがアイバコの目標です。相場紙器としてはもう本当にお客さんあっての仕事なので、全力で頑張ります(笑)! ずっとお世話になってきたお客様が多いので、これからも箱で不便がないように全力でサポートしていければと思っています。
株式会社相場紙器製作所/アイバコ
0256-33-3561