旬の山の幸が楽しめるアットホームなカフェ「あかたにヒュッゲ」。
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2022.04.22
これから新緑のシーズンを迎え、アウトドアを楽しもうとワクワクしている方も多いのではないでしょうか。新発田の赤谷地区にも、キャンプをはじめ山菜採りや釣りを楽しむ人が多く訪れます。そんな自然豊かな赤谷地区に、都会からやってきた女性がはじめた「あかたにヒュッゲ」というカフェがあるのをご存知でしょうか。自家製パンと山の幸を使ったメニューが楽しめ、地元の方々から憩いの場としても利用されています。今回は桜が満開のなか「あかたにヒュッゲ」を訪ね、オーナーの川邊さんにお話を聞いてきました。


あかたにヒュッゲ
川邊 直子 Naoko Kawabe
1970年神奈川県生まれ。短大で保育士、幼稚園教諭の資格を取得。卒業後は幼稚園で働いていたが結婚を機に退職し、育児が落ち着いてからは小さなパン教室を開く。2016年より地域おこし協力隊として新発田市の赤谷地区に移住し、「趣味の会」「パン作り教室」を開催。2019年に「あかたにヒュッゲ」をオープンする。
都会暮らしの女性が、山中の集落に移住するまで。
——川邊さんは、いつ頃新発田に移住してきたんですか?
川邊さん:2012年の春に地域おこし協力隊として新発田に来ました。その前は地元の神奈川で、主に友人たちに教える小さなパン教室を開いていたんです。
——どうして新発田の地域おこし協力隊に応募を?
川邊さん:私が暮らしてきた川崎という街は、コンクリートばかりで緑がほとんどないんです。父が郊外に借りていた畑の仕事を手伝っているうちに、いつの間にか田舎暮らしへの憧れが生まれていました。子どもたちが大学進学や就職で親離れしたことと、2011年に起こった東北大震災を経験したことで「自分のやりたいこと」をやってみようと思ったんです。
——それが田舎で暮らすことだったわけですね。
川邊さん:はい。ある日、東京ビッグサイトで開催された「JOIN移住フェア」に行ってみたんです。その会場に新発田市のブースも出ていたんですが、「新発田」の読み方がわからない上に、どこにある場所なのかも知らなくて、逆に興味を持ちました。そしたら、新発田市の担当の方が丁寧に説明してくださったので、それを聞くうちに行ってみたいと思うようになったんです。

——確かに県外の方は「新発田」って読めないですよね(笑)。それで協力隊に志願したんですか?
川邊さん:その前に現地を見学したんです。移住先は新発田市の赤谷地区ということで、雪深い山の中とは聞いていたんですが、1月に来たのにそれほど雪が積もってなかったんですね。ところが翌日から大雪が降りまして……(笑)。駅まで車で送ってもらったはいいものの、新潟行きの電車が手前の加治川駅で足止めになって何時間待っても来ないんですよ。親切な人から教えてもらって、なんとか別ルートで帰ることができました。
——そんな経験をしたら、もうこりごりだと思うんじゃないですか?
川邊さん:そこで逃げたら負ける気がしたんです(笑)。あと見学で訪れたときに、赤谷のおばあちゃんから「冬は雪が多くて大変だけど、その分春が来たときの喜びは大きい」って聞かされて、その気持ちを体験してみたいと思ったので赤谷地区の協力隊に参加しました。再び赤谷を訪れたのは5月だったので、ずっと外にいたいと思えるほど綺麗な新緑の風景が広がっていました。

集落の人たちの「仲間」になるために奮闘。
——地域おこし協力隊として、どんな活動をしていたんですか?
川邊さん:ミッションのなかに「あかたにの家」という青少年宿泊施設の有効活用というものがあったので、得意なパン作りを生かして教室をやってみようと思ったんです。そこで地域のお母さんたちに声を掛けてみたんですが、「おらたちは、そんなことやらんたってもいい」と断られてしまいました(笑)。その後もいろんなお誘いをするものの、ことごとく断られ続けたんです。
——なかなか心を開いてもらえなかったんですね。
川邊さん:はい。そのうち行事や卓球の集まりに誘ってもらえる機会は増えたものの、お邪魔してみると私にはほとんど話しかけてくれないんです(笑)。赤谷の方は人見知りが多い上に、よそから来た私にどう接したらいいのか迷っていたんでしょうね。お父さんたちは市の職員さんから協力隊の説明を聞いていたようですけど、お母さんたちまで伝わっていなかったみたいで、「得体の知れない人」と思われていたようです(笑)
——それでもめげずにコミュニケーションを取り続けたんですね。
川邊さん:地域の集まりやイベントにはできるだけ参加して、少しずつ心を開いてもらえるようになりました。あるとき、お母さんたちの集まりに紙で作ったゴミ箱を持っていったんです。そうしたら「こんなの作れるんだ? おらにも作り方教えて」って言われて、それ以来、軍手で作るうさぎのマスコット、手編みの靴下、鉛筆立て、廃材で作るイスを一緒に作るようになって、そのメンバーで「趣味の会」を立ち上げました。

——「趣味の会」って?
川邊さん:40〜80代のお母さん10人で、毎週月曜日に集まってものづくりを楽しむ会なんです。米袋の紐に使われているクラフトバンドで編んだカゴは、月岡温泉「白玉の湯 泉慶」の客室に置いていただいて、浴衣で温泉街を歩くお客様にも使っていただいているんですよ。
——へ〜、趣味がいろいろなことに広がっていったんですね。
川邊さん:あと地元のばあちゃんたちは意外とパン食の人が多いんです。だから私が焼いたパンを食べてもらったら「これあんたが焼いたんだかね? おらも作ってみたいわ」って言ってもらえて、念願のパン作り教室を開くことになったんです。押しつけるんじゃなくて、こういうふうにさりげなく薦めれば良かったんだって気づきましたね(笑)。それと同時に、ようやく「仲間」になれた気がしました。

「あかたにヒュッゲ」をオープンした理由。
——地域おこし協力隊は何年続けていたんですか?
川邊さん:1年ごとに更新があって、最大で3年まで続けることができるんです。3年目を迎える頃、これから先どうしようかと考えるようになりました。地元の人たちからは就職先をいろいろと勧めていただきましたけど、自分がやりたいのはそういうことじゃないと思っていたんです。
——それでカフェをはじめたんですか?
川邊さん:最初は今までやってきたことを生かして「ものづくり教室」をやってみようと思っていたんだけど、「商売でやるんだったら食に関わることをやった方がいい」というアドバイスをいただいたんです。飲食業の経験なんてなかったんですけど、パン作りを生かせばいけるかもしれない考えて「あかたにヒュッゲ」をはじめることにしました。
——じゃあメニューはパンを使ったものが多いんでしょうか?
川邊さん:そうですね。手作りのパンと旬の地元食材を合わせたものが多いです。食べていただいたのはキノコとコシアブラをトッピングしたピザですけど、これからの季節はワラビやタケノコを使ったものも登場します。あと最近のイチ推しはクマさんアイスの乗ったコーヒーゼリーです。


——山の幸を使ったメニューって食べられるところが少ないので、なんだか新鮮に感じますね。店内も想像していた以上にお洒落じゃないですか。
川邊さん:ありがとうございます。リフォームには知り合いの大工さんや壁紙屋さんが協力してくれて、自分でできることは自分でやりました。趣味の会のお母さんたちが全員で大掃除に来てくれたりして、地元の皆さんの協力でオープンすることができたんだと思います。

——今度は地域の人たちが「協力隊」になってくれているんですね。お客さんはやっぱり地元の人が多いんですか?
川邊さん:地元のアクティブなばあちゃんがクチコミで周りに声をかけてくれたおかげで、すっかりばあちゃん天国になりました(笑)。ここで昔の知り合いに偶然再会しているばあちゃんもいるんですよ。赤谷にはひとり暮らしのじいちゃん、ばあちゃんも多いし、友達が集落から出て行って話し相手がいなくなるばあちゃんもいるから、そういう人たちの「居場所」になれたらいいなって思うんですよ。
——もちろん、お年寄り以外のお客さんも来るんですよね。
川邊さん:最近はテレビや雑誌で紹介される機会もあるので、若いお客さんも来られますね。あと預かっている孫を連れてくるじいちゃん、ばあちゃんも増えました。私は幼稚園の先生をやっていた経験もあるので、おもちゃを自作して遊んでもらっています。子どもや若い人が赤谷に来てくれるのは、集落も活気が出て元気になると思うんです。

——今まで赤谷で生活してきて、いかがでしたか?
川邊さん:はじめて来たときに聞いた「冬は雪が多くて大変だけど、その分春が来たときの喜びは大きい」という言葉を、身をもって理解できるようになりましたね。この集落では、四季の移り変わりを体験しながら自然の恵みを受けて生活できる反面、サルやイノシシによる獣害や過疎化といった問題も抱えています。仲良くしている地元の方々も、いつかは集落を離れてしまうかもしれないという不安はありますけど、それまでは楽しく生活していきたいですね。


あかたにヒュッゲ
新発田市上赤谷2683
050-5359-1887
10:00-17:00(16:30L.O)
火水木曜休
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