モノづくりの街である燕三条地域。2014年に閉校した小学校を新しい産業拠点としてスタートさせた「三条ものづくり学校」は有名ですよね。その一角にある「0256 bistro&meals(ゼロニゴウロクビストロアンドミールズ)」では、料理の既成概念にとらわれず、のびのびとボーダーを飛び越えた新しい発想の料理を提供しています。オーナーシェフを務める汐見さんに、料理をはじめた動機、お店のこだわり、働き方に対する考えなどをうかがいました。
0256 bistro&meals
汐見健 Ken Shiomi
1982年神奈川県生まれ。1歳のときに燕市へと移り住む。高校卒業後はファッションビジネス専門学校へと進学し、さまざまな飲食店や渡欧先での経験、個人事業での料理教室の経歴を経て、「0256 bistro&meals」をオープン。
――汐見さんはおいくつから料理をされているのですか?
汐見さん:学生時代は、ファッションビジネス専門学校に通っていました。卒業後に、友人が勤めていたカフェ「アフタヌーンティー・ティールーム」でアルバイトをはじめたんです。そのカフェが料理の道へどっぷりとハマったキッカケですね。
――ファッションビジネス専門学校に通われていたのに、働く道を路線変更されたんですね。
汐見さん:そうですね。正直、専門学校を選んだ理由もファッション関係なら“モテる”だろうと思ったからなんです。単なる下心ですね(笑)。まぁファッション関係の学校に通っているからといってモテるわけもなく、それなら料理…料理が作れる男子はモテそう!そう思ったんですよ。
――基本的に“モテたい”が先行した考えなんですね。
汐見さん:はい(笑)。その後は新潟のレストランなどで働き、もっと料理が上手くなりたくて(下心ではなく)、東京のイタリアンレストランで修業させてもらうことになりました。ただ、思っていたより数倍、仕事が厳しくて、いろいろと疲れているときに、不運な交通事故に巻き込まれまして…。
――え?事故ですか?大丈夫だったんですか?
汐見さん:身体はどうにか大丈夫だったんですが、仕事が厳しいのと交通事故が重なってしまい、心が折れて新潟に帰ることにしたんです。それに、料理が作れてもモテないとも気がついたので。
――ちなみにどうしたら“モテる”かは、分かりましたか?(モテる方法を知っているのであれば、ぜひ教えてください)
汐見さん:いや、未だにどうしたらモテるのかなんて、わかりません。きっと、一生をかけてその謎を究明していくのでしょうね(笑)。
――新潟に戻られてからは、何か(モテるために)仕事をされたのですか?
汐見さん:料理はモテないと分かったので、Webデザインの職業訓練校に通いました。モテそうじゃないですか(笑)。訓練校に通っていた時代は就職氷河期で、卒業したのに仕事は一切なく…先生!働き口はあるっていったじゃないかー!って、感じでしたね。どうしようかなと途方に暮れていたら、以前働いていた寺泊のカフェ「Banana Winds(バナナウィンズ)」のオーナーから新店舗を出すからと声をかけてもらい、モテないと分かっていながらも料理の道へ戻ってきました。
――戻るの早いですね(笑)。
汐見さん:結局、料理が好きなんでしょうね。新しく働きはじめたお店は燕市にあるイタリアンバル「MATTANZZA(マッタンツァ)」。昼はここで働き、夜は長岡市のインテリアショップ「S.H.S NAGAOKA」内にあるイタリアンレストラン「A alla Z 長岡店(アーラゼータ)」でと、料理漬けの日々がはじまりました。その後は新潟市内に拠点を移し、自分で料理教室もスタートしましたが…。
――おっと、含みがありますね(笑)。もしかして、またモテなくて…みたいな…。
汐見さん:いやいや、もう仕事でモテようとは。真面目な話ですよ(笑)。
――これはとんだ失礼を。続きをお願いします。
汐見さん:料理教室なので、もちろん料理を教えるわけじゃないですか。ちなみにイタリア料理を教えていたんですけど…よく考えたら、イタリア料理のことって全然知らなかったんです。イタリアに行ったこともないし、イタリア料理を教えてくれたのは日本人シェフだし。教える立場なのにこれではいけないと思って、全部ストップしてとりあえずイタリアに行きました。
――これまた大胆な行動にでましたね!イタリアでは何を?
汐見さん:とにかく食べ歩きをしました。毎日、ホテルから出発してふらふらと何かを食べて、何かを食べて…の繰り返しです。数日経ってみると、あれ?日本人の作った、日本で食べるイタリア料理の方が好きだなって思ったんです。あの悩みはどこへやら(笑)。ということで帰国し、料理教室を再開して事業化しました。
――汐見さんのやられている料理教室はどんな教室なんですか?
汐見さん:作っている様子を見て、完成した料理を食べるデモンストレーション型の料理教室です。目の前で説明しながら調理をしてくれる料理本みたいな感じですかね。イタリア料理を中心に、出張教室なんかも展開していました。この料理教室がビシッと型にハマってくれて、とても多くの方にご参加いただき嬉しかったですね。
――料理教室を事業化されていたのに、どうして「0256 bistro&meals」を開いたのですか?
汐見さん:毎晩数字の計算ばかりしているほど昔から「Excel(表計算ソフト)」が好きなんですよ。お店を任されているときなんかは、売上、原価、人件費…など、とにかく計算ばかりしていました。それであるとき思ったんです。料理人は料理を学んできているけれども、経営(数字)は学んできていない、って。ちゃんと経営を学べば、飲食業界の長時間労働&低賃金という悪循環は変えられるのではと。実証の意味も込めて、自分で飲食店をやってみようとはじめたんです。
――なんかすごい考え方ですね!実現できたら凄いじゃないですか!
汐見さん:それに近年、飲食業界へやってくる若者の人工が激減しているのをどうにかしたいという思いもあります。きっと、働く時間が短くなって、休みも取れて、しっかりとした給料がもらえるシステムになれば、辛い思いをしなくても(料理の修業以外で)、若い人たちはまっとうできるのではないかと思うんです。
――実際に「0256 bistro&meals」では、どのような働き方を?
汐見さん:「飲食店を再発明する」をミッションに掲げ、コンパクトな働き方、時代に合わせた稼ぎ方をアップデートしています。実際にスタッフは週休2日ですし、とにかく残業とかしないで、スムーズに業務を終わらせ帰宅する。そうやって業務時間の短縮を図っています。こうやって働く時間を短くして、従来通りの賃金が稼げるようになれば、家族ができたり、子どもができたりといったライフステージの変化にも飲食業はついていけるようになり、一般企業と同等レベルの雇用が可能になると考えます。
――モテたい系の話から、めちゃくちゃ真面目な話になりましたね(笑)。
――「0256 bistro&meals」について教えてください。どんなお店ですか?
汐見さん:イタリア料理をメインにしてきましたが、特に特化しているわけではないんです。そもそも日本の食材も好きだし、日本人の作るイタリア料理も好きだし。それで行き着いた料理が“オールミックス”だったんです。以前にスパイスを学ぶ機会があったのでその経験も組み合わせたりと、ジャンルレスな料理を提供しています。
――無国籍ってことですね。食材もいろいろなものを?
汐見さん:オーガニック野菜を作っている農園をはじめ、下田の山では山菜が採れたり、西蒲区の豊富な野菜があったりと、いろいろな食材に恵まれた環境にお店があります。農園に足を運ぶことによって、どんな料理を作ろうかとインスピレーションも湧きます。もちろん、四季の瞬間も見られます。東京ベースでの四季ではなく、ちょっと寒かったなどのリアルな四季の訪れや、出荷状況が感じられるの環境なので、食材は周辺のモノをなるべく使うようにしています。
――最後に、店名に「0256」と三条地域の市外局番が使われていますが、どうしてですか?
汐見さん:誰もがわかるような言葉を使いたい。そんな思いがあったので、ユニバーサルな数字というものを起用しました。それとトラットリアとか、ビストロとか、多く存在するキーワードを店名に盛り込んでしまうと、同じような情報が多いかなって。誰でもわかりやすく、頭から抜けていかない数字で、さらには自分が暮らしているこの地域で…と考え「0256」と名付けました。
男なら誰しもが抱く“モテたい”という欲望。その気持ちは、スポーツや勉学、あるいは自身の容姿を含めた自分磨きなどに向けられます。汐見さんにとっての“モテたい”気持ちは、将来を決めるキッカケへとつながりました。モテたくてはじめた料理。モノづくりの街・燕三条でオールミックスという新しいジャンルの料理を作り上げた経験。そこから考えるようになった飲食業の未来。もちろん、料理もおいしく、空間もお洒落で誰かに教えたくなるようなお店だけれども、その歩んできた道のりも知って欲しい。そんなお店が「0256 bistro&meals」でした。ぜひ、ランチにディナーに足を運んでみてくださいね。
0256 bistro&meals
新潟県三条市桜木町12-38 三条ものづくり学校 106号室
0256-34-6725