実りの秋を迎えて、田んぼでは稲刈り、果樹園ではぶどうや梨の収穫がおこなわれ、農作業をする農家の方々の姿を目にする機会が増えてきました。みなさんは「農業」についてどんなイメージを持っているでしょうか? ほとんどの人は、あまりお洒落ではないイメージを持っているのではないでしょうか。新潟市南区にある梨農家「FARM GENTS(ファーム ジェンツ)」の山田さんは、そんな農業のイメージをカッコよく変えようとしている青年です。今回は「FARM GENTS」のオフィスで山田さんの挑戦についてお話を聞いてきました。
FARM GENTS
山田 烈矢 Retsuya Yamada
1994年新潟市南区生まれ。高校卒業後、新潟県農業大学校で果樹栽培について学び、母方の実家が運営している果樹園で働き始める。やがて小売を任されるようになり「スイート果樹園」として梨の販売を始め、方向性を変えるためイメージを一新し「FARM GENTS」を立ち上げる。ファッションと、サスペンスやホラーなどの映画鑑賞が好き。
——おじゃましま〜す。えっ?ここが「FARM GENTS」のオフィスなんですか? どう見てもカフェバーなんですけど…(笑)
山田さん:ありがとうございます(笑)。以前は田植機や農機具をしまっておく、埃まみれの小屋だったんですよ。田んぼを委託することになって農機具を売りに出したので、空いた小屋をリノベーションして「FARM GENTS」のオフィスとして使うことにしたんです。大工さんにはヨーロッパにあるバーの写真を見てもらって、自分のイメージを伝えながら作ってもらいました。
——じゃあ、イメージ通りのオフィスなんですね(笑)。どうしてこういうイメージにしようと思ったんですか?
山田さん:農家に梨を受け取りにいくと、だいたい作業場みたいなとこで渡されることが多いと思うんです。でも自分はそれがイヤで、販売する場所に農作業の雰囲気を出したくなかったんです。一般的に思われている「農家ってこういうもんでしょ?」っていうイメージを壊したかったんですよね。
——ピアノまで置いてあるし、ここでちょっとした会合やイベントもできそうですね。
山田さん:ピアノは奥さんのものなんですけど、インテリアがてらここに置いてあるんです(笑)。もちろん、会合やイベントができるスペースとしても使えたらいいなっていうのは作ってるときから考えてましたね。
——山田さんは以前から農業に興味があったんですか?
山田さん:いいえ、まったく…(笑)。高校卒業前の進路を決めるときに、母方の実家が農家をやっていることを思い出して「なんとなく楽そうだしやってみようかな〜」って感じで決めたんですよ。新潟県農業大学校に2年間通って果樹栽培について勉強しました。
——学校で勉強するうちに農業にのめりんこでいったと。
山田さん:それが、そうでもないんです(笑)。元々興味がなかったので授業もほとんど聞いてなくって、アルバイトばっかりして過ごしてました。だから学校を卒業して、農園で働くようになってから初めて農業に触れたようなものでしたね。
——じゃあ農園で働き始めて、だんだんと農業が好きになっていったんですね!
山田さん:いやぁ…。授業もあまり聞いてなかったから、農作業もじいちゃんに指示されるまま、よくわからずにやってたんですよ。その作業がどんな意味を持っていて、何のためにやるのか、まったく理解してないから面白くないんですよね。当然、理解しないでやってるから失敗ばっかりして、じいちゃんに叱られるとますます面白くなくなっちゃって…。
——…それじゃあ、いつから農業が好きになったんですか?
山田さん:農園の仕事を始めてから2〜3年経った頃に、じいちゃんから梨の一部を好きなように売ってもいいって小売を任されたんです。そこで地元スーパーにある地場産コーナーの一角を借りて「スイート果樹園」という名で梨の販売を始めました。納品に行った際にお客さんと直接話す機会も増えて、「おたくの梨は美味しい」って言ってもらえたのが嬉しかったんですよね。農家ってJAに納めるばかりだとなかなかお客さんの反応を直接知ることがないから、とてもいい経験になったんです。自分が育てた梨を喜んでもらえるのっていいなって思えて、それからは前向きに梨作りに取り組むようになりましたね。
——以前は「スイート果樹園」だったんですね。どういういきさつで「FARM GENTS」に変わったんですか?
山田さん:農業を始めて5年経った頃、知り合いの若手農家と自分がやりたい農業の話をしたんです。そのときにもっと梨の販売単価を上げたいと話したら「今のままのブランドイメージじゃ高く売ることは難しんじゃないの?」って言われたんです。たしかに「スイート果樹園」のままでは、自分が一番買ってほしいと思うターゲットに思いが届かないと思って、ブランドイメージを一新する決心をしたんです。
——それで「FARM GENTS」を立ち上げたんですね。この名前にはどんな意味が込められてるんですか?
山田さん:お洒落な居酒屋で飲んでいたとき、トイレに行ったら男性用トイレのドアに「GENTS」というプレートがついていたんです。私は「ジェントルマン」を略した「紳士」という意味だと思って、その単語をいただいて「FARM GENTS」とつけたんですが、後で「GENTS」っていう言葉はイギリスで「男性用トイレ」っていう意味があることを知ったんです(笑)
——あらら(笑)。やらかしちゃいましたね。でも、どうして「紳士」っていう意味の言葉を使おうと思ったんですか?
山田さん:お客さんに対しても、育てる梨に対しても、誠実で礼儀正しい紳士的な気持ちで接したいという思いで「FARM GENTS」と名付けました。新潟でも有名なデザイン事務所にロゴのデザインもお願いしました。そのとき、デザイナーの方からロゴを作るにあたって農園のコンセプトを聞かれ、今まであまりしっかり考えたことがなかったので、自分なりにいろいろ考えてみたんですよ。
——ブランドイメージを変える作業で方向性も見えてきたんでしょうか?
山田さん:はい。自分のやりたいことがしっかりと見えてきました。安い梨ではなく、質のいい梨だけを作って、ギフトに通用するものを売っていこうと決めたんです。そういう方向性が周囲にも伝わって、いろいろな方を紹介していただくことができたのは本当にありがたいです。
——「FARM GENTS」ではどんな梨を作っているんですか?
山田さん:「豊水」や「幸水」をはじめとする5種類の和梨、洋梨の「ル・レクチェ」。最近では「シャインマスカット」も作り始めました。そのほかに、周辺では作られていないようなスタンダードじゃない梨も植え始めたんです。市場では需要がない梨なので、直販農家だからこそできることですね。
——では梨を作るときにこだわっていることはありますか?
山田さん:まず「大玉」「完熟」「高糖度」っていう梨作りの大きな3本柱があります。そうした梨を作るために土壌の成分分析を欠かさずにおこなって、できる限り調整するようにしてますね。グラフや数値で成分の過不足をチェックして、足りない成分を補ったり、多過ぎる成分を減らしたりしてるんです。
——なるほど。やっぱり土の善し悪しが一番大事なんですね。
山田さん:ただ、どんなに土作りにこだわっていても天候には逆らえないんですよ。天候って毎年違うからその都度対応しなければならないんです。とくに毎年の収穫シーズン直前には台風が来るんですよね。「大玉」にこだわって作っているので、小さい実は収穫しないようにしているんですが、台風で落ちたら元も子もない訳です。小さくても収穫して市場に出荷すればお金にはなるから、その時期は本当に葛藤しますね。でも、なんとか耐えて大玉になってから収穫して、食べたお客さんから「美味しい」っていってもらえると、ギリギリまで踏ん張ってよかったって思います。
——今後はどんなことをやっていきたいですか?
山田さん:白根地域の農業を活性化するために少しでも力になりたいと思っています。農業人口を上げることはもちろんなんですが、直接従事する人だけじゃなく、消費者、飲食店、ただの知り合いにいたるまで、もっと農業に関係する人を増やしていくことで、農業に興味を持ってもらったり、やってみたいって思ってもらえるんじゃないかって思うんです。そのためにも新しいことや変わったことをしていって、いろんな人に興味を持ってもらえたらって思っています。
カフェバーみたいにお洒落なオフィスで梨を販売している「FARM GENTS」。農業のイメージをファッショナブルに変えていきたいという山田さんの思いは、白根地域の農業を活性化したいという気持ちにもつながっているようです。大切な方への贈り物に、「FARM GENTS」のみずみずしい梨を選んでみてはいかがでしょうか。相手にもこだわりが伝わって、きっと喜んでもらえると思いますよ。
FARM GENTS
〒950-1411 新潟県新潟市南区赤渋522-3
025-311-1455