胎内市の乙(きのと)という土地に「乙宝寺(おっぽうじ)」という真言宗のお寺があります。美しい三重塔が国の重要文化財に指定され、また数々の伝説が残されているお寺なんだとか。なかでも裏山にいた猿が和尚さんから書いてもらったお経の功徳で人間に生まれ変わったという伝説は「今昔物語集」にも載っていて、そのときの写経も残されているんです。そんな「乙宝寺」のそばに「乙(きのと)まんじゅうや」というお店があります。長い間、酒まんじゅうひと筋のお店でしたが、このたび新しく「JYUKICHI(ジューキチ)」というブランドを立ち上げました。いったいどんなブランドなんでしょうか? 担当者の久世さんにお話を聞いてきました。
乙まんじゅうや
久世 圭介 Keisuke Kuse
1994年胎内市生まれ。スポーツ系の専門学校を卒業し、大阪にある飲食店グループ企業に就職。その後、家業を継いだ兄に誘われ「乙まんじゅうや」に就業。2021年より新ブランド「JYUKICHI」を立ち上げる。子どもの頃から続けてきた野球が趣味。
——「乙まんじゅうや」の歴史は古いんですか?
久世さん:けっこう古いと思います。福島の伊達郡でまんじゅう職人だった萬屋重吉(よろずやじゅうきち)が、乙宝寺の祐範(ゆうはん)様という住職を慕ってこの乙に移り住み、1804年に「乙まんじゅうや」として創業したのがはじまりなので、もう200年以上もこの場所で商売を続けてきたことになるんです。今では兄が11代目として店を継いでいます。
——じゅ……11代も続いてるってすごいですね!
久世さん:ありがとうございます。初代の重吉は祐範様から酒まんじゅうの作り方を教わって、それ以来ほとんど変わらない材料や製法で「乙まんじゅう」を作り続けてきました。兄の代になるまでは「乙まんじゅう」だけで続けてきたんです。
——「乙まんじゅう」って、どんな特長があるんですか?
久世さん:保存料や添加物を一切使わずに、伝統的な製法で天然糀菌を育てて手作りしたまんじゅうです。保存料が入っていないので日持ちはしませんけど、その分安心してお召し上がりいただけると思います。ちなみに「酒まんじゅう」といってもお酒は使っていません。
——お兄さんの代になって「乙まんじゅう」の他にも商品が増えたんですか?
久世さん:はい、胎内市特産品の米粉をまぶして油で揚げた「米粉揚げまんじゅう」を開発して、2014年の「国際ご当地グルメグランプリ」で「米粉グルメ部門賞」を受賞しました。そのときは地元の人から「乙まんじゅうの伝統を壊す気か」って怒られたそうです。でも今では地元の方々からも受け入れられています。
——「乙まんじゅう」だけで200年以上も続けてきたって、すごいことですよね……。
久世さん:これも乙宝寺様のご加護と参拝客の方々のおかげですよね。だからこそ、真心込めて参拝客の皆様をおもてなしして、「乙に来てよかった」と思ってもらえるよう努めています。
——そんな「乙まんじゅうや」の新ブランドとして「JYUKICHI」をはじめたんですよね。きっかけは何だったんですか?
久世さん:きっかけはコロナ禍ですね。新型コロナが蔓延する前は、観光バスで来た参拝客が、お土産に「乙まんじゅう」をたくさん買っていってくれたんです。ところが自粛などの影響で観光バスが来なくなり、参拝のお客様も減ってしまいました。そうした世の中の変化で、改めてお店のことを見つめ直す機会ができたんです。
——なるほど。どんなふうに見つめ直したんでしょう?
久世さん:時代に寄り添いながら、よりお客様に楽しんでいただくにはどうしたらいいか考えました。とはいっても、200年以上の伝統がある「乙まんじゅう」を変えることはできないので、まんじゅうに使っている糀やあんこの知識、技術を深掘りすることで、新たな魅力をお客様に伝えていこう、と。それで「乙まんじゅうや」の新ブランド「JYUKICHI」を立ち上げたんです。
——今までのノウハウを生かしながら、新しい商品を作り出すということですね。ちなみに、どんな商品があるんですか?
久世さん:まず「おってぎぷりん」があります。「乙まんじゅう」に使われている糀をベースに、胎内市特産の米粉を使って作ったスイーツなんです。甘酒みたいな食感や風味を楽しめるプリンで「糀」と「茶」の2種類があります。「茶」には村上の老舗「九重園(ここのえん)」さんの抹茶を使わせていただいているんです。
——ちょっと変わった食感がくせになるプリンですね。他にはどんな商品がありますか?
久世さん:「乙まんじゅう」のあんこをベースに作った「おってぎさんでぇ」は「糀」「茶」の2種類、「おってぎアイス」は「糀」「茶」「芋」の3種類をご用意しています。
——さっきから気になっていたんですけど「おってぎ」っていう言葉には、どんな意味があるんですか?
久世さん:「おってぎ」っていうのは、このあたりの方言で「お疲れさま」っていう意味なんですよ。乙宝寺参拝のお客様に「お疲れさまでした」というねぎらいの気持ちを込めて商品名に使わせてもらいました。お店にはちょっとしたイートインスペースもありますし、暖かい季節には表のテラスで商品をお召し上がりいただくこともできますので、そこで参拝や観光の疲れをとっていっていただきたいですね。
——そういった思いにも、代々続いてきた「乙まんじゅう」のDNAが受け継がれているんですね。
久世さん:ブランド名の「JYUKICHI」が「乙まんじゅうや」創業者の萬屋重吉の名前に由来しているように、創業から変わらずに続いてきた製法や思いを忘れずに守りながら、新しい時代にも対応していきたいです。そして、いつか胎内市や新潟県の新しいお土産品として「JYUKICHI」の商品が広まっていってくれたらうれしいですね。
乙まんじゅうや
胎内市乙1235
0254-46-2008
8:00-18:00
不定休