かつて港町として栄えた新潟市の下町(しもまち)には、歴史ある建物がたくさん残されています。今回紹介する「魚や片桐寅吉」もそのひとつ。築116年の古民家を利用してお食事処とカフェを始めた「魚や片桐寅吉」を運営する「新潟中央水産市場株式会社」の藤田さんに、いったいどんな歴史のある建物なのか、そしてどんなお店なのかを聞いてきました。
魚や片桐寅吉/港茶屋
藤田 晋 Hiroshi Fujita
1948年新潟市中央区生まれ。1997年、新潟中央水産市場株式会社の5代目代表取締役社長に就任。ピアBandai内の万代島鮮魚センター、港食堂、新潟ふるさと村内の鮮魚センター マリーンなどを経営。ロックバンドでドラムを担当していて、旧片桐邸にある土蔵のスタジオで演奏の練習している。
——この建物は元々どんな場所だったんですか?
藤田さん:明治37年に「新潟中央水産市場株式会社」の前身「新潟鮮魚問屋」を立ち上げた初代社長の片桐寅吉が暮らしていた住宅だったんです。築116年経っている木造住宅で、今年の11月には母屋と土蔵が国の有形文化財として正式に決定される予定なんです。
——どうしてその建物で「魚や片桐寅吉」や「港茶屋」を始めることになったんですか?
藤田さん:せっかくの歴史ある建物をそのままにしておくのはもったいないので、どうしたら有効利用できるかっていうのを若い頃から考え続けてきたんです。私の中では、お食事処やカフェにしようという構想は前からあったんですよ。ただずっと自分のものになるものだと思っていたんだけど、残念ながら私のものにはならなかったので、息子に建物を買い受けてもらって「魚や片桐寅吉」と「港茶屋」をオープンすることになったんです。
——歴史ある建物を生かしたいという思いは以前からあったわけですね。
藤田さん:鮮魚問屋の社長だった片桐寅吉の邸宅で始めるお店だから、「魚を美味しく食べてもらえる場所にしたい」という思いはありました。それから、私が社長を務めている「新潟中央水産市場株式会社」は「ピアBandai」や「新潟ふるさと村」といった県外のお客様が多く集まる場所で鮮魚店を続けてきたんですね。それもあって、観光に訪れたお客様方に新潟の美味しい魚を召し上がっていただきたいと思って、海鮮料理のお店をやろうと思ったんですよ。
——海鮮料理のこだわりについて教えてください。
藤田さん:水産市場の直営店だから、新鮮な魚介類を使っているのはもちろんですけど、「漁師の母ちゃん定食」をテーマにして、気取らない料理を出すようにしてるんですよ。
——漁師の母ちゃん定食?
藤田さん:納品で山形に行くことが多くて、その帰り道にある食堂でよく「刺身定食」を食べるんです。そこは普通の母ちゃんがやっている食堂で気取りも特別な味付けもないんだけど、とにかく美味しくて、しょっちゅう寄ってるんですよ。うちの料理も料亭や割烹の高級料理じゃなくて、その食堂みたいに気軽に食べることができる、飾りのないものにしようということで「漁師の母ちゃん定食」をテーマにしました。凝った味付けがない分、新鮮な素材の味を楽しんでもらえます。
——なるほど。ところで「魚や片桐寅吉」は予約制と聞きました。
藤田さん:食品ロスがないように、「魚や片桐寅吉」は予約制にしたんです。でも、わざわざ足を運んでくださったお客様を、予約がないからとお断りするのも申し訳ないので、席の空き具合を見てお受けするようにしつつあります。特に観光の方なんかはめったに来られるわけじゃないですからね。「港茶屋」は営業時間内だったらいつでもご利用いただけます。
——「港茶屋」ではどんなメニューが楽しめるんですか?
藤田さん:「雪室珈琲」をメインにした喫茶メニューですね。「雪室珈琲」っていうのは、天然の雪を貯めて作った「雪室」の安定した温度でじっくり寝かせることで、マイルドな味わいに仕上たコーヒーなんですよ。そのほかに「白玉ぜんざい」を楽しみながら、お庭を眺めてゆっくりした時間を楽しんでいただけます。
——古い白黒写真がたくさん飾られてますね。
藤田さん:あれは昔の新潟市の写真です。新潟の港町としての歴史を感じてほしくて「新潟市歴史博物館」からいただいたデータをプリントして展示したんです。このお店の横を流れていた堀の写真も展示してあるから、今と比べてみて歴史を感じてもらいたいですね。
——どうして昔の新潟の写真を展示しているんですか?
藤田さん:せっかく歴史ある建物で食事をしていただくんだから、新潟の歴史にも触れていただけたらと思ったんです。あと、私どもの会社は「ピアBandai」や「新潟ふるさと村」で観光に来られるお客様と触れる機会が多いので、新潟市の観光に少しでも協力できたらいいなという思いもあります。
——ただの飲食店ではなくて観光スポットとしての側面もあるんですね。写真の他に見どころってありますか?
藤田さん:まず庭ですね。庭石の中には瀬戸内産の石もあるんですよ。尾道で造船された船を新潟まで運んでくるとき、ついでに乗せてきたそうです。夜は庭園をライトアップしてるから、これからの季節は見応えがあると思います。
——広くて立派なお庭ですよね。このテーブルもちょっと変わってて面白いですね。
藤田さん:これは襖を使って作ったんですよ。ガラスの下に挟んである書や絵画は土蔵から出てきたものです。
——へ〜。なんか、立派な書や絵ばかりで、その上で食事するのは悪いような気持ちになりますね(笑)
藤田さん:額装して飾ってあるものも土蔵にしまってあったものです。とくに入口の上にかけてある書は、福澤諭吉直筆の本物ですよ。ちなみに「自由は不自由の中に在る」って書かれてます。
——おお、いろいろと見どころが多いですね。新潟の歴史にも触れられるし。
藤田さん:地元の方はもちろん、県外から来たお客様をおもてなしする場所としてもお使いいただけると思ってます。
——これから、この場所を使ってやってみたいことってありますか?
藤田さん:せっかく広い庭があるんだから、いつかはステージを作って催しができたらいいですね。港町新潟らしく古町芸妓に舞を踊ってもらうとかね。あとメニューも様子を見ながら増やしていけたらとは思ってます。
港町新潟の歴史や風情を感じられる「魚や片桐寅吉」。歴史ある古民家で新鮮な海鮮料理を楽しめて、併設する「港茶屋」ではゆったりとコーヒーや甘味を楽しむことができます。県外の方はもちろん、市内に住んでいる方も立ち寄ってみてください。今以上に地元のことが好きになるかもしれませんよ。
魚や片桐寅吉/港茶屋
〒951-8068 新潟県新潟市中央区上大川前通12-2742
025-201-8082
11:00-15:00/17:00-21:00