文化財で楽しむ、焼き芋とコーヒー。
加茂市の「KIDORI」
カフェ
2025.11.15
加茂川のすぐ近くに「KIDORI」というカフェがあります。加茂市の有形文化財に指定されている建物をリノベーションしたこのお店では、こだわりの焼き芋を使ったスイーツとコーヒーを楽しむことができます。オーナーは以前Thingsで取材した「難波食肉店」の難波さん。お店をはじめたきっかけや建物のこと、コーヒーと焼き芋のことなど、いろいろお話を聞いてきました。
難波 泰弘
Yasuhiro Nanba(KIDORI)
1989年加茂市生まれ。群馬県の食肉学校で学んだ後、加茂市内の飲食店で修業し、2011年より家業の「難波食肉店」に就職。2024年に文化財をリノベーションし「KIDORI」をはじめる。写真を撮るのが好きで、SNSに載せている写真はほとんど難波さんが撮影したものなんだとか。
文化財をカフェに。きっかけは、
できたてを食べてほしいという思い。
――以前は「難波食肉店」でお話を聞かせていただきました。今度は、カフェをはじめられたんですね。
難波さん:新潟の飲食店で働いていたとき、飲食の仕事がすごく好きになったんです。ただ、実家を継ぐために食肉のことを学んだので、まずは実家の「難波食肉店」で働きました。そこで飲食店での経験を活かしてメンチカツやコロッケ以外のお惣菜のメニューを増やしていったんですけど、「できたてを提供したい」っていう思いが強くなって。
――あたたかいものはあたたかいうちに、ですね。
難波さん:本当だったら、お店の中にイートインスペースをつくって、そこで飲食できたらいいなって思ってたんです。でもそれもなかなか難しくて。何かいい方法がないか考えているときに、偶然この建物の中を見せてもらえることになったんです。
――こちらの建物は、加茂市の文化財にも指定されています。
難波さん:桐のタンスをはじめとして、木工のものづくりを支えていた製材会社の事務所だったと聞いています。建物の中に入って、雰囲気とか間取りをみて「飲食をやるにはちょうどよさそう」って思ったのが、このお店をつくるきっかけでしたね。この建物が使われていないのはすごくもったいないと、以前から思ってはいたんです。ここで何かをはじめれば、加茂市のPRにもなると思って、ここにお店をつくることを決めました。
――そして「KIDORI」というカフェになったんですね。
難波さん:「木取り」という製材の言葉から、お店の名前をつけました。これは「丸太から建築材や家具材として使えるように、材料を無駄なく切り取る」という意味なんです。ちょうどいいなと思って。内装も元の雰囲気を壊さないよう、傷んでいるところだけを補修して、天井や壁、床は当時のまま残しています。あと実は、「KIDORI」にはもうひとつ意味があるんです。
――もうひとつの意味、ぜひ聞きたいです。
難波さん:料理をしているとき、食材を無駄なく使うことを「気取り」というんです。このお店では、地元の農産物やB品も無駄なく使うことをテーマにしているので、この言葉はぴったりでした。

Advertisement
「難波食肉店」からはじまった、
焼き芋とコーヒーの組み合わせ。
――難波さんはこのお店を「焼き芋とコーヒーのお店」と呼んでいますが、どうしてこの組み合わせにしたのでしょう。
難波さん:焼き芋をここで出そうと思ったのは、「難波食肉店」で焼き芋を提供していたからなんです。お店に大きなスチームコンベクションがあったんですけど、あまり使う機会がなくて。「使わないのはもったいない」と思って、焼き芋をはじめたんです。
――いろんな使い道の中から、焼き芋にしようと思ったのは?
難波さん:お肉を使って何かをつくろうと思うと、その日に売り切らなきゃいけなくて。焼き芋だったらまとめて焼いて、冷凍で保存できるなと思ったんです。冷凍しても美味しく食べられるところもいいなと思って。お肉屋さんのときは、焼き芋をブリュレにしたものをカップに入れて、バニラアイスを添えて出していました。
――「焼き芋ブリュレ」の原型となるものを、すでにつくられていたんですね。お芋にも何かこだわりがあるのでしょうか。
難波さん:最低でも2ヶ月以上熟成させた、蜜が多くて甘いお芋を使っています。お芋のよさを最大限に引き出せるように、焼き方も工夫しているんです。よかったらコーヒーと一緒に、食べてみてください。
――お芋の濃厚な甘さに、コーヒーがスッと入ってきて、すごく合います。
難波さん:コーヒーは新津の「COFFEE CITEN」さんにオリジナルのブレンドをつくってもらいました。焼き芋のねっとりとした甘さに合うように、深みがあるけどまろやかで、丸みのある味わいにしてもらっています。豆と粉はお持ち帰りもできるので、ご自宅でもお楽しみいただけますよ。
――お芋の他にも楽しめるメニューもありますね。
難波さん:ランチの時間帯にはカレーをお出ししています。ここにもお芋を入れていて、カレーのスパイシーさがマイルドになって食べやすくなっていると思います。最近は、バスクチーズケーキも人気ですね。季節ごとに使う食材を変えているので、いつ来ても楽しんでいただけますよ。


Advertisement
1階はカフェ、2階はギャラリー。
文化財が歩みはじめた、第二の人生。
――「喫茶室」はどこをとっても絵になります。
難波さん:僕が写真を取るのが好きなのもあって、どの席に座ってもいい写真が撮れるような空間を意識してつくっています。歴史のある建物なので、ここに置く机や椅子も古いものがいいなと思って、県外の古道具屋さんを回って集めてきました。大きな窓に使われているガラスも当時のまま、ひとつひとつ模様の違いを楽しんでもらえたら嬉しいです。
――2階には、ハンドメイドの作品が販売されているんですね。
難波さん:涼しくなってきたので、ハンドメイド作家さんの作品の展示・販売をはじめました。県内の古道具屋さんとコラボしてイベントを開いたり、作家さんのポップアップも開催したりできたらいいな、と思います。
――「KIDORI」をオープンしてみて、いかがですか?
難波さん:近所の方に「この建物がまた使われるようになって嬉しい」ってお声をいただけて。ここではじめてよかったな、と思っています。1年前は誰もいない場所だったのに、今では市外からもたくさんの人に来ていただけるようになって。嬉しくもあり、ちょっと不思議な感じです。
――最後に、このお店のこれからのこと、教えてください。
難波さん:まずは1年間やってみないと、っていう感じです。これから来る冬に向けて、雪や寒さをどう乗り越えていこうか考えています。どんな季節でもお客さまに楽しんでもらえるように、2階の使い方を含めて、お店をやっていきたいです。


KIDORI
Advertisement


