今年9月、新潟市東区にオープンした惣菜店「北前屋」。オリジナルのからあげ、焼鳥、和洋惣菜、お弁当など、ちょっと懐かしさも感じられるような商品がずらりと並んでいます。特に注目したいのは店長さん。お店のテーマにもなっている「北前船」に関係する新潟の歴史にとにかく詳しくて、専用のコーナーを設けてしまったとか。今回は「北前船」など新潟の歴史について、店長の片桐さんにたっぷり語ってもらいました。
北前屋
片桐 誠司 Seiji Katagiri
1982年新潟市生まれ。運輸業など異業種で活躍した後、飲食業へと転身。2020年9月「北前屋」をオープン。新潟を盛り上げたいという思いから、地域活性イベントなどの企画運営にも携わる。
――「北前屋」は、どんな経緯ではじまったんですか?
片桐さん:今から5年ぐらい前に、僕が勤務していた飲食店のある新潟駅前商店街で「新潟をどうやって盛り上げていくか」という議題で話し合ったことがありました。それで、江戸から明治時代にかけて日本海で活躍した買積みの廻船「北前船」をヒントにイベントを開催しようと企画したんです。
――「北前屋」のはじまりは、イベントだったんですね。
片桐さん:そう思うじゃないですか。それが、「北前船」の歴史を伝えることをテーマにしたイベントのはずが、店舗がないと誰も話を聞いてくれないし、動いてくれなかったんです。つまり、伝える場所がないと、自分はただの「歴史を伝えたい人」で終わってしまうんです。結局イベントは開催することができなくて……モヤモヤと3年が過ぎました。
――あっ……イベントはできなかったんですね……。3年が過ぎたということは、それから何かがあったんですか?
片桐さん:そうなんです。今、大流行中の新型コロナウイルスの到来です(笑)。ご存じの通り、飲食店は営業活動自体がままならなくなり、僕が勤めている飲食店では、支店を休業することにしました。まずは1ヵ月と思って休みはじめたものの、収束しそうもなくて、結果、1年間の休業を決定したんです。
――そうだったんですね……。
片桐さん:それでテイクアウトや今までと違った営業形態を生み出して、支店で働いてくれていたスタッフの新しい働き場所を作ろうと思ったんです。それがずっとあたため続けた「北前船」という惣菜屋なんです。看板商品のからあげ(醤油・塩・カレー味)、オリジナルのプリン、甘口・辛口が選べる手羽先唐揚げ、和洋惣菜、お弁当、そういった商品や新潟県内のいろんな土地から仕入れた味噌や醤油などの調味料をラインナップしてようやく誕生しました。
――今更な質問なんですけど……「北前船」って、なんて読むんですか?
片桐さん:あ~、ちょくちょく間違っている人がいるんだけど、「北前船」と書いて「きたまえぶね」って読むんですよ。「きたまえせん」って読みがちなんです(笑)
―― もうひとついいですか? そもそも「北前船」って、何をしていた船なんですか?
片桐さん:いい質問ですね。「北前船」は、江戸時代中期~明治30年代にかけて、北海道から大阪間の日本海側を航行しながら、各寄港地で積み荷を売買していた買積み船の通称です。ポイントは「売り買いをしながら」という点で、単純に荷物を運んでいたわけではなくて、寄港地で良い品を仕入れ、それを高く売れる地に運ぶ。商人らしい船なんですよ。
――なんか、歴史の話になったら生き生きしていますね(笑)
片桐さん:はい(笑)。だって面白くないですか? この「北前船」には、もっといろんな歴史が絡んでいて……港といっても、新潟は川港というのがあったり、河村瑞賢という「北前船」の立役者が現れたり、いろんな物語が詰まっているんですよ。僕は「北前船」をテーマにした「北前屋」で、新潟の歴史に触れる機会を作っていきたいんです!
――もう歴史の伝道者ですね(笑)。もしかして、お客さんにも熱弁しているんですか??
片桐さん:熱弁かはわからないけど、1~2時間も話をしてしまうときはありますね……。「北前船」や新潟の歴史を知ってもらうために、店内には専用のコーナーを作りました。そこに興味を持ってくれた人には、いろいろと説明しちゃいます。
――じゃ、もうちょっとだけ歴史について聞かせてください。さっき話に登場した河村瑞賢という人物は、一体、何者ですか?
片桐さん:ちょっとでいいんですか? まだまだ話せますよ(笑)。
――とりあえず河村瑞賢を。その人物が新潟の港を栄えさせたんですか?
片桐さん:河村瑞賢によって寛文12(1672)年に西回り航路が開かれて、「北前船」の寄港地となった新潟湊は大いに栄えました。元禄期には、日本全国から年間3,500艘もやってくるほどで、入ってきた商品は新潟だけじゃなくて信濃川や阿賀野川を通って、越後各地や会津方面へと川船で運ばれたんです。この人がいたからこそ、新潟を軸に流通が盛んになったといっても過言ではないですね。
――すごい人なんですね。なるほど。
片桐さん:今の流作場(新潟市中央区)の近くには川が流れていて、そこにあったのは沼垂港といって……。
――片桐さん、とりあえずその話は今は大丈夫です(笑)。そろそろお店についての話に戻りましょう。ここまで新潟の歴史について熱くなれる、その思いは、どのように店舗にいかされていますか?
片桐さん:まずは、「北前屋」を通して「新潟にはこんな歴史があったんだ」と、ちょっとだけでもいいから感じてもらえたら嬉しいです。そのために、「北前船」で主に運んでいた米や大豆に関連した商品を、お店でも楽しんでもらえるようにしています。
――それで惣菜やお弁当などのテイクアウト商品以外にも、味噌なども並んでいるんですね。最後に、これからチャレンジしたいことを教えてください。
片桐さん:「北前屋」は、「食べて美味しい」からはじまる提案をしています。下町のお土産屋さんみたいに、「ちょっと食べてみて。美味しいでしょ?」といった試食から美味しさを体感してもらって、そして購買につなげる。そんなコミュニケーションを行っています。イベントなどに参加して、新潟の美味しいを届けるのはもちろんだけど……、やっぱりお店を通して「新潟って、こんな歴史があったんだね」って、頭の片隅にでもいいから残して帰ってもらえる場所にしていきたいですね。
北前屋
新潟県新潟市東区山木戸4-7-8
025-288-6382