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僕らの工場。#31 伝統と革新の刃物を世界に「藤次郎株式会社」。

ドイツで行われる調理器具の見本市「アンビエンテ」への出展をはじめ、日本の包丁や調理文化を世界に広げてきた「藤次郎株式会社」という会社が燕市にあります。いったどんなものづくりをしているのでしょうか。今回は入社当時より「藤次郎」の商品開発やブランディングに携わってきた小川さんに、いろいろとお話しを聞いてきました。

 

藤次郎株式会社

小川 眞登 Masato Ogawa

藤次郎ナイフギャラリー責任者。ネット事業部 システム管理責任者。約20年前にプロダクトデザイナーとして入社。プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、営業、HP制作・管理などの業務に従事。

 

農機具販売の会社から、包丁メーカーへ。

――今日はよろしくお願いします。「藤次郎株式会社」の創業はいつになりますか?

小川さん:昭和28年5月に農機具を販売する会社として創業しました。除草機、脱穀機のワイヤー部分の加工や部品製造をする会社だったんです。ただ冬場は農機具がまったく売れないので仕事がなくなるんですよ。なので冬場の副業として果物ナイフを作り始めて、その果物ナイフが農機具より売れるようになったことから、包丁メーカーへシフトしていったと聞いています。

 

――そうだったんですか。包丁メーカーの成り立ちとしてはとても珍しそうですね。

小川さん:一般的な包丁メーカーさんはだいたい日本刀の刀匠の方が始めるのが多いんですけど、こういったかたちで包丁メーカーになったのは珍しいと思います。包丁メーカーさんの歴史を辿ると室町時代や鎌倉時代の創業なんて会社がいっぱいあります。なのでうちは包丁メーカーの業界ではまだまだひよっこの部類になります。

 

業界では「若い」と分類されるからこそ、挑戦できる。

――創業から70年近いのにまだまだ「若い」と。

小川さん:その分しがらみがないので、いろんなことに挑戦できました。「こういうふうにしなければいけない」みたいな縛りがないっていうのが、うちの会社の特長でもあります。なので包丁メーカーになってかなり早い段階から、利器材(りきざい)という刃物用の材料をいろいろと組み合わせた複合材で使って包丁を作るのを得意としていました。

 

 

――小川さんはいつ頃入社されたんですか?

小川さん:20年ほど前に入社しました。ここに来る前は鍋やキッチンツールを作る会社でプロダクトデザイナーとして5年くらい働いていました。プロダクトだけでなくグラフィックデザインも勉強したいなと思っていたタイミングで藤次郎から声がかかって、入社させてもらいました。

 

――当時はどんな会社でしたか?

小川さん:私が入社した当初は、まだ藤次郎株式会社という社名ではなくて藤寅工業株式会社という名前で、基本的に委託製造を行っていました。一般的な家庭用の包丁を、地元の燕三条の問屋さんから依頼を受けて、その発注先のブランドの包丁を作る、というのがメインでした。

 

――小川さんはどんな仕事を任されたんですか?

小川さん:まずはプロダクトデザインを担当させてもらいました。その他にもそれまでは外注で行っていたグラフィックデザイン、HP関係の管理も任されるようになりましたね。HPは某印刷会社さんに数百万円で発注して作ってあったものを、僕が自分で作ったものに変えました(笑)。そっちの方が更新もしやすかったので。

 

 

――じゃあ小川さんが加わってから自社ブランド「藤次郎」が徐々に確立されていくわけですね。

小川さん:そうですね。会社全体でもOEMではなくて自社ブランドをもっと売っていこうという流れで、ブランディングチームが立ち上がるなどしていきました。

 

――小川さんの立ち位置は?

小川さん:私は企画開発としてブランディングの統括を任せてもらっていました。デザインは若手のデザイナーに任せながら、まとめる方をやっていた感じですね。

 

プロ向け包丁のブランドとして確立していく。

――ブランディングの上で、どんなことを意識していましたか?

小川さん:うちの包丁自体が業務用のプロ向けっていうのが主体なので、そこを大事にしました。プロの方はまだ男性の方が多い時代だったので、男性にいかに訴えかけていくかっていうのが重要な部分でしたね。

 

――プロ向けと一般向けとの違いはどんなところですか?

小川さん:実は業務用の包丁と家庭用の包丁の刃っていうのは切れ味でいうと変わらないんです。じゃあ何が違うのかっていうとハンドルの耐久性とか素材の選定とか、そういう部分でプロが長く使える仕様にしています。業務用の包丁を家庭で使ってももちろん問題はありません。まずはプロの方に使っていただいて、それからその良さを一般家庭に伝えていくっていう手法をひとつの流れとして考えています。

 

――ちなみに、どういったプロの方が使われるんですか?

小川さん:特に得意としているのがフレンチの世界です。フランス料理を日本に普及させる目的で活動されている「フランス料理文化センター」さんという団体があるんですけど、うちは15年以上サポートをさせていただいています。コンクールとか講習会とか、フレンチシェフやサービスマンの方をサポートしています。

 

――サービスマンっていうのは?

小川さん:給仕さんのことです。お客様の目の前で料理をさばいてお皿に盛りつけてその場でお渡しするようなサービスをする方ですね。うちは世界的にもまだ少ないサービスマン専用の方のサービスナイフシリーズの展開もしています。

 

プロが使う、機能性と実用性を重視した包丁。

――デザインの発想はどこから?

小川さん:「プロが使う」っていう部分は商品開発に大きく関わっていて、実用性や機能性をしっかり兼ね備えているっていうのをまず大事にしています。その上にデザインがあるっていう発想ですね。例えばサービスマンはお客様の前で優雅にオレンジの皮を剥いてそこにブランデーかけて火をつけたりするので、やっぱそういった動きに見合った形とか綺麗な見え方をするっていう部分をすごくこだわっています。

 

――実際に使っているところをイメージしながらデザインするんですね。

小川さん:最近は海外のお客様からの発注もとても増えてきて、海外向けのシリーズ展開もしています。海外は包丁の使い方が日本とちょっと違っていて、例えば日本人はまな板を使って下に押して切りますよね。でもヨーロッパではまな板を使う文化がなく、手の上で切っていくんです。根本的な切り方の考え方がちょっと違うんです。そうすると日本の包丁みたいに「あご」部分があると邪魔になってくるので、丸めなければいけなくなってきたりとか、形にも違いがでてくるんです。

 

 

――それじゃあデザインのアプローチも変わりますね。

小川さん:ただ世界的に見て、日本の包丁は切れ味も機能性もトップクラスに優れているので、逆に海外のお客様が日本の包丁に合わせるっていうのが最近の流れになっています。例えば、三徳包丁は海外でも「SANTOKU」として販売しているんです。日本発祥の形なので海外でもその名前が通用するんですね。他にも出刃包丁や柳刃包丁なんかもそのまま通じますし、それくらい日本の包丁は海外でも認められています。包丁を通して日本の文化が海外に広がっているような感じですよね。

 

――海外の市場にはどうやって売り出しているんですか?

小川さん:ドイツで行われている「アンビエンテ」という世界一の調理器具の見本市があって、うちの会社も15年くらい前から出ているんです。そこに世界中からバイヤーさん来られるので、そういったところで認知してもらえるようになっていきました。徐々に認知度を上げていって、ここ5年くらいは急激に売り上げも伸びてきているような状況です。

 

簡単に真似ができる技術ではないから、オープンファクトリーができる。

――今後の目標は?

小川さん:経営理念には「日本の刃物文化を世界に広げる」というのに加えて「世界の食文化の交流と伝承に貢献」とあります。世界との交流や技術の伝承っていう部分は今後もこだわって活動していければと思っています。包丁は工業製品なんですけど、工場で行っている作業は日本刀と同様にほとんどが手作業なんです。なので職人の技術を継承していくっていうことをやらないとモノづくり自体が途絶えてしまうような分野なんです。職人の勘や経験で商品が成り立っているので、その技術をいかに若い子に教えて次世代に受け継いでいくのかっていうのも目標でもあり義務でもありますね。

 

 

――まさにモノづくりの職人の世界という感じですね。

小川さん:最新鋭の機械を導入して作っている部分もありますが、職人が作った包丁の質に匹敵するかというとまだまだなんです。刃を磨いていくと磨いている機械や砥石も擦り減っていくので、そのときそのときで条件がどんどん変わりながらの作業になります。それを機械だけで100%管理するのは難しいので、最終的な仕上げの部分はやっぱり熟練した職人の腕に頼る部分が大きいです。うちはオープンファクトリーというかたちで誰でも見学できるようになっていて、海外からも視察に来られます。これができるのは機械を真似すれば誰でもできるようになることではないからなんですね。何十年も修行した職人の技でしか作れない包丁です。裏を返せば職人さんありきで商売を行えているということなので、やはり技術の継承はとても大事だと考えています。

 

 

藤次郎株式会社(藤次郎オープンファクトリー)

TEL : 0256-93-4195

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