グラフィックデザイナーがつくる「くみ木の森」の組み木絵本。
ものづくり
2024.04.02
皆さんは「組み木」をご存知でしょうか? いろいろな形の木を積み重ねて遊ぶ「積み木」に対して、パズルのように組み合わせて遊ぶのが「組み木」です。今回紹介するデザイナーのたかいさんは、組み木と組み合わせて遊べる絵本を制作しています。できたばかりの工房にお邪魔して、たかいさんから組み木と関わることになったいきさつや、絵本についてのこだわりを聞いてきました。


Ibiza
たかい ゆきえ Yukie Takai
1985年燕市生まれ。「新潟デザイン専門学校」卒業後、「株式会社フレーム」に入社しグラフィックデザインやアートディレクションに携わる。2012年より「にいがた組み木の会」とのコラボで数々の組み木おもちゃを開発。2020年に独立してデザイン事務所「Ibiza(イビサ)」を設立し、2021年に組み木のおもちゃブランド「くみ木の森」を立ち上げる。「新潟ADC賞」「iFデザイン賞」など受賞多数。
デザイン事務所でアプローチやブランディングを学ぶ。
——たかいさんが「くみ木」と出会ったのはいつ頃なんですか?
たかいさん:私がデザイン事務所でアートディレクターとして働いていたときに、「全国組み木フェスティバル」というイベントのチラシを手がけたことがきっかけで、組み木に興味を持つようになりました。
——たかいさんはグラフィックデザインのお仕事をしていたんですね。
たかいさん:私はもともと「ファイナルファンタジー」や「バイオハザード」といったロールプレイングゲームが好きだったんです。それでゲーム中に流れるムービーの素晴らしさに感動して、コンピュータグラフィックに興味を持ちはじめたんですよ。ゲームのムービーやPIXARのCGアニメーションに携わるような仕事がしたいと思って「新潟デザイン専門学校」に入学したんです。
——それでゲームやアニメの仕事に就いたんでしょうか?
たかいさん:新潟にいながらゲームやアニメの仕事に携わるのは、なかなか難しいと思ったので諦めました。そこで「フレーム」というデザイン事務所に採用してもらうことになったんです。社長の石川さんにいろいろなことを教わりながら、デザインからアートディレクションまで幅広い仕事をさせてもらいました。

——デザイン事務所の仕事で、印象に残っているものがあったら教えてください。
たかいさん:ロゴマークの仕事があると、社員それぞれがデザイン案を考えてきて、社内でプレゼンをするんです。そうした経験を通して、アプローチやブランディングの方法を身に付けることができました。
——じゃあそのお仕事でいろいろ鍛えられたんですね。
たかいさん:石川さんから「これからはアートディレクターとしての自覚を持って仕事に取り組んでね」と言われたことがあったんです。アートディレクターとして認めてもらえたことが嬉しくて、自分の仕事に自信が持てるようになりました。そのおかげで、燕市にある日本料理店のロゴマークデザインで「新潟アートディレクタークラブ」2015年審査会の準グランプリに選ばれ、期待に応えることができました。

組み木絵本はこうして生まれた。
——組み木と出会うきっかけになったチラシの仕事って、どういうものだったんでしょうか?
たかいさん:「にいがた組み木の会」からの依頼で制作した「全国組み木フェスティバル」というイベントのチラシで、組み木で縁取りをしたデザインにしたんです。それを見た会長の平山さんが大変喜んでくれて、そのデザインで組み木を作ってきてくれたんですよ。平面が立体化したことで、さらに可愛さが際立って感動しました。
——それで組み木に関わるように?
たかいさん:それをきっかけに平山さんから組み木のデザインをご依頼いただくようになって、ますます組み木の魅力にハマっていきました。その打ち合わせのときに「動物たちを組み合わせることで、お家の形ができたら可愛いな」と思いついたことが、絵本を制作するきっかけになったんですよ。
——それが組み木絵本の「おかえりどうぶつはうす」になったんですね。
たかいさん:そうなんです。グラフィックデザインの仕事をしてきたなかで「いつかは絵本を作ってみたい」という夢を思い描いていたので、組み木と絵本を組み合わせれば素敵なものができるんじゃないかと思ったんです。そこで絵本を制作するために独立して「Ibiza」というデザイン事務所を立ち上げました。

——絵本のために独立したんですか?
たかいさん:それもありましたけど、憧れている石川さんのようになりたいという気持ちも強かったんです。会社員のままではいつまでも追いつくことはできないので、まずは自分の足で立たなければダメだと思いました。
——なるほど。「おかえりどうぶつはうす」を作る上で苦労したことはあったんでしょうか?
たかいさん:動物達が組み合わさったときに、ちゃんと家の形ができるようデザインすることが大変でした。それもただ組み合わせるだけじゃなくて、動物たちがまっすぐ立っているように組み合わせることにこだわったんです。動物のパーツひとつひとつが、きちんと自立するようにバランスをとることにも苦労しましたね。
——細やかにこだわりながら作られているんですね。絵本には日本語だけじゃなくて、英語のテキストも入っているんですね。
たかいさん:「子どもたちが英語に興味を持つきっかけになってくれたら」という思いがありました。あと、積み木は知っていても組み木を知らない人は多いので、世界中の人に組み木の魅力を伝えたいという思いも込めて英語表記を入れてあるんです。

——いろいろな思いが込められているんですね。出産祝いとして贈るのに、ぴったりな商品だと思います。
たかいさん:そういうお客様は多いですね。この組み木絵本を贈られた赤ちゃんが3歳になっても、小学生に入っても、ずっとそばに置いてもらえたら嬉しいし、その子が大人になって結婚したら、自分の子どもに受け継いでもらえたらいいなと思います。
——立派な表彰盾が飾ってありますけど、あれはどうしたんですか?
たかいさん:この組み木絵本を色々なコンペに応募しまくった結果、8つの賞をいただくことができたんです。そのなかのひとつが「世界三大デザイン賞」といわれる「iF デザインアワード」だったんですよ。AppleやSONYといった錚々たる企業と肩を並べて受賞できたことが嬉しかったです。おかげで全国ネットのワイドショーでも紹介してもらいました。

子どもと共に森も育てる組み木絵本を目指す。
——組み木にはどんな木材を使っているんですか?
たかいさん:魚沼市大白川集落の森林に生えている、ブナの間伐材を使っているんです。昔は木炭や薪として利用されていたブナも、現在ではその機会も減ってしまいました。100年かけて成長した森の木々を守るために、間引きをして一本一本に日光が当たるようにするのですが、その間伐材を組み木おもちゃとして利用することで、森の保護に還元しながらサポートを続けていけたらと考えています。
——子どもたちがおもちゃとして木に触れることも、「木育」に繋がる気がします。
たかいさん:そうですね。子どもの頃から木を身近に感じることで自然への親しみを持つと共に、環境を守ることの大切さを知ってもらうきっかけになってくれたらと思っています。
——実は大きな取り組みにもつながっているんですね。今後も組み木絵本の新作は予定しているんでしょうか?
たかいさん:実は第二弾も近々登場する予定なんです。にゃんこの兄弟が集まって、ラストはお母さんにゃんこが出てくるっていうストーリーになっていて、家族愛をテーマにしています。お花もたくさん出てくるので、いろいろなお花があることを知ってほしいですね。

——動物や植物への愛情が生まれて、自然への関心につながったらいいですね。
たかいさん:そうですね。これからも組み木絵本を作り続けていくことで知名度を上げて、いつかは「組み木」が燕市を代表する産業のひとつになればいいなと思っています。
——ところで木工機械がたくさん並んでいますけど、このスペースはどういった目的で作ったんでしょうか?
たかいさん:ワークショップも開催できるような工房として作りました。組み木づくりに興味を持ってくれて、製作のお手伝いをしてくれる人が増えたらいいなと思っています。ものづくりだけじゃなく場所づくりにも力を入れていきたいと思っているので、お年寄りから子どもまで誰もが気軽に集まれるコミュニティが生まれることで、この小さな地域が盛り上がってくれたらいいなと思っているんです。

くみ木の森
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