新潟で100年以上カステラを作り続ける老舗「はり糸」。
食べる
2019.12.01
「はり糸」の社長に、お店の歴史やカステラについて聞く。
ふわっとした食感と卵の風味や甘さを楽しむことができるお菓子、カステラ。ポルトガルから長崎県に伝わったとされていますが、正確な起源は定かではありません(ただ、長崎県が発祥の地ということは間違いないようです)。あるお菓子屋さんから聞いた話では、長崎県の気候だから作れるお菓子で、新潟県で作るのはむずかしく、だから作っているところも少ないのだとか。そんなカステラを新潟で初めて販売し、かれこれ100年以上も作り続けている「はり糸」。今回は社長の池さんに「はり糸」の歴史やカステラについてのお話を聞いてきました。

はり糸
池 一樹 Kazuki Ike
1959年新潟市生まれ。株式会社はり糸代表。東京の大学を卒業後、神奈川県と長野県の菓子店で約2年ずつ修行した後、新潟県に帰り「はり糸」に入店。1990年新潟市川端町に洋菓子専門店「クレーシェル」をオープンする。古町通五番町商店街振興組合の理事長も務める。趣味は映画鑑賞で、1日に2本はしごすることも。
最初は「春花堂」という店名だった「はり糸」。
——今日はよろしくお願いします。「はり糸」さんはいつ創業したんですか?
池さん:明治6年10月に池糸蔵が「春花堂」という菓子店を創業しました。「春花堂」というのは家紋の梅鉢にちなんだ屋号だったんです。ところが、お客さんは「春花堂」の名を呼ばずに、「播磨屋(はりまや)の糸蔵」の通り名だった「はり糸」と呼んでいたそうです。そのうち「春花堂」の名は忘れられてしまい「はり糸」が屋号になっちゃったんです。
——「春花堂」もかっこいい名前ですけどね。「播磨屋」っていうのは何の名前ですか?
池さん:「はり糸」の先祖は元々「播磨屋」っていう屋号で雑貨屋をやっていたんです。江戸時代末期に播磨の国(現在の兵庫県)から北前船で新潟に来て、移り住んだんだそうです。「はり糸」の船のマークは、先祖が乗ってきた北前船を表しています。その播磨屋の婿養子になった糸蔵が「はり糸」を創業するんです。
——糸蔵さんはお菓子職人だったんですか?
池さん:婿養子に来てから古町にあった菓子店で奉公していたそうです。ある日、主人がお茶すら飲めない大病にかかって、糸蔵が小粒のあられにしそと砂糖をかけたお菓子をお湯に浮かべて飲ませたら、とてもよろこばれたんだそうです。これが現在も売っている「柚香里(ゆかり)」の元祖です。こうして腕に自信をつけていった糸蔵は「春花堂」として独立することになったわけですね。

当たり前のことを、当たり前にやる。それが大事。
——カステラはいつ頃から作っているんでしょうか?
池さん:糸蔵が職人時代に知り合った長崎のカステラ職人から、カステラの作り方を教わって、ひそかに材料や製法の改良を重ねて独自の味を作り上げたんだそうです。そして明治20年に新潟で初めて「はり糸」がカステラの販売を始めたんです。ところが、最初のうちはめずらしさで買っていく人だったり、病人に食べさせるために買っていく人だったりするだけで、好評とまではいかなかったようですね。
——しだいに人気が出てきたということですね。カステラってどんな風に作っているんでしょうか?
池さん:原料は白砂糖、白双目糖、糯飴(もちあめ)、ハチミツ、鶏卵、小麦粉、みりんです。さらに風味を増すため、卵黄だけをたっぷり加えて木枠に流し込みじっくり焼き上げるんです。付き合いの長い業者さんが、生まれたての鶏卵を卸してくれているので、新鮮なものを使っています。
——新鮮な鶏卵を使うと、どのようなカステラができるんでしょうか?
池さん:鶏卵のおかげかはわかりませんが、他のお店に比べるとしっとりした食感のカステラなんじゃないでしょうか。作るときのこだわりとしては、当たり前のことを当たり前にやるということを大切にして作っています。ちゃんとした材料を使ってちゃんと作れば、ちゃんとした製品ができると思うんです。基本をちゃんとやることが大事なんじゃないでしょうか。
——なるほど。そのようにして作ったカステラは何種類あるんですか?
池さん:スタンダードなカステラの他、「抹茶」「チョコ」「あずき」の4種類があって、「カステラ四姉妹」と呼んでます。それぞれのキャラクターまであるんですよ(笑)。最近、そこに新潟名物ぽっぽ焼き味の「ぽっぽカステラ」が加わりました。あと「地酒カステラ」もあります。カステラを焼いた後、「越乃寒梅 別撰」をおちょこ5杯分かけて仕上げたもので、R20指定のカステラです(笑)。他に季節限定カステラもありますね。
——季節限定カステラっていうと、どんなものがあるんですか?
池さん:春は「しょうが」、夏は「よもぎ」、秋は「ほうじ茶」、冬は「越後みそ」とか作ってきました。思いついてもカステラに合う味かどうかはわからないので、作ってみてもお蔵入りになったものもありますよ。「コーヒー」も試してみましたが、なかなかしっくりこなくてお蔵入りになってしまいました。やはり、美味いと思えないものを出すわけにいかないですからね。

古町本店のみ残しカステラにしぼって販売を始める。
——カステラ以外にはどんなお菓子を作っているんでしょうか?
池さん:「ありの実」といって、新潟名産の新興梨をジャム状にして水飴や寒天を加えたものです。昭和22年に天皇陛下が新潟を訪れた際に献上した光栄ある銘菓なんですよ。梨を使っているので本当は「なしの実」なんですけど、縁起がよくないので「ありの実」という洒落のような品名になっています。あと「純栗ようかん」も人気があります。90%以上も栗を使って作ったお菓子で、ようかんというより栗きんとんに近いかもしれないですね。他にもいくつかお菓子を作っていますけど、カステラの比率が80%を占めていて、他のお菓子は20%程度なんですよ。

——カステラ以外のお菓子って、そんなに少ないんですね。ちょっと意外でした。
池さん:以前は逆にカステラの比率が20%しかなかったんです。和菓子の他に洋菓子もやってましたし、あんまんなんかも作ってた時期もありました。テナント出店もたくさんあって、デパートやスーパー、駅ビルなんかに20件以上あったんですよ。でも、多店舗展開することに違和感を感じていたんです。
——それで経営の方向転換をしたんですか?
池さん:テナント出店はやめてしまって、古町の本店のみ残したんです。お客さんの顔を見ながら地元でお菓子を売っていきたいと思ったんですね。それからお菓子の種類もしぼって、「はり糸」の象徴ともいえるカステラを中心に販売していくことにしたんです。

古町五番町を想像力ある人々が集う街にしたい。
——お店のある古町五番町にはやはり思い入れがあるんでしょうか?
池さん:こんな小さな通りだけどオーバーアーケードを作ったり、以前あった映画館「松竹」を誘致したりとエネルギッシュな人がいる街ですよね。平成14年にオーバーアーケードを改修した際、街にシンボルがほしいと思ったんです。新潟から世界に発信できるようなものはないかと考えたら、漫画やアニメが浮かんできたんですよ。
——新潟市出身の漫画家やアニメ関係者が多いっていうことですよね?
池さん:そうなんです。漫画やアニメの登場キャラクターで銅像を作って設置したいと思って、いろんな漫画家とかに当たってみたんですよ。「ドカベン」や「あぶさん」で有名な水島新司先生も新潟市出身で白山小学校、白新中学校卒業生なんです。当時水島先生のマネージャーだった方も新潟市の白新中学校卒業生で、その相談をしてみたら快諾してくれたんですよ。
——それで水島漫画のキャラクター銅像が古町五番町に建ったわけですね。
池さん:はい。新しい街に生まれ変わるという期待がありましたね。ちょうどその頃、日本でも数少ない漫画やアニメの専門学校が古町五番町に開校したんです。古町で「がたふぇす」という漫画アニメのイベントが開催された際、専門学校の学生と相談して古町五番町にある各店舗をイメージした萌えキャラをデザインしてもらい、キャラクターカードを作ってスタンプラリーをやったんですよ。
——学校と商店街がコラボして街の活性化に取り組んだわけですね。それでは今後、古町をどのように盛り上げていきたいですか?
池さん:漫画アニメの専門学校や映像製作の専門学校があるし、水島キャラの銅像もある街ですから、そういう部分をもっと活かしていけるといいですよね。想像力や研究心が溢れていて、訪れたお客様から常に何かを感じてもらえるような、そんな街にしていきたいです。

カステラの魅力は何にでも合う素朴な味わい。
——最後にカステラの魅力を教えてください。
池さん:日本茶と一緒に和風にも、コーヒーや紅茶と洋風にも楽しめるお菓子ですよね。夏は冷たく冷やしたミルク、冬はホットミルク、大人っぽくブランデーやワインをかけたりしても楽しめます。それもシンプルな美味しさだからこそできるんだと思います。素朴な味わいだからこそ、長く愛され続けているんじゃないでしょうかね。

一時期は新潟県内のデパートやスーパーなどに20軒以上のテナントがあったものの、明治22年から作り続けているカステラを中心に、古町本店のみで販売するスタイルに方向転換した「はり糸」。その話を聞きカステラや地元の古町に対する思いの強さを感じたような気もします。今後も変わらないカステラの味を守り続け、古町五番町をクリエイターの街として盛り上げていただきたいです。
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