栃尾が生んだ、油揚げ職人による特撮ヒーロー「トチオンガーセブン」

テレビドラマ&映画化までされた「トチオンガーセブン」の秘話。

幼い頃、夢中になってテレビで見ていた特撮ヒーローへの憧れ。それをずっと持ち続けていた栃尾のある油揚げ職人が、特撮ヒーローを生み出しました。その名も「トチオンガーセブン」。それも、ただ作っただけではありません。「トチオンガーセブン」はテレビドラマとして放送され、ついには映画化まで実現。本当に夢を叶えたのです。栃尾の油揚げ店「毘沙門堂本舗」の店主にして「トチオンガーセブン」の生みの親・星知弘さんに熱い思いをお聞きしました。

 

毘沙門堂

星知弘 Tomohiro Hoshi

1970年長岡市(旧栃尾市)生まれ。高校卒業後、海上自衛隊に入隊し横須賀第一護衛艦に配属。その後、東京で求人広告会社に勤務し、23歳で地元に戻り油揚げ職人として「毘沙門堂本舗」を継ぐ。特撮ヒーローを自分で作りたいという夢を実現し「毘プロダクション」を立ち上げ。「とちおそうじ」のペンネームでオリジナルヒーロー「トチオンガーセブン」のテレビドラマ、映画を製作。

 

本物の「栃尾の油揚げ」を広めたくて、地元に帰ってくる。

まずは東京で仕事をしていた星さんが、地元・栃尾に帰ってきたところからはじめましょう。星さんが油揚げ職人として実家を継いだのは、東京で生活していたときに居酒屋で食べた「栃尾の油揚げ」が、それまで慣れ親しんできたものとまったく違うものだったことがきっかけでした。中身がスカスカで皮だけの油揚げ。これは全然違う。ガッカリした星さんは、本当の「栃尾の油揚げ」を全国に広めたいという思いを胸に、勤めていた会社を辞めて栃尾に帰ってきます。

 

実家の「毘沙門堂本舗」で油揚げ職人としての日々をスタートしたものの、分厚くて大きい栃尾の油揚げは思っていたほど簡単に作れるものではありませんでした。薄皮だけど崩れにくく、しっかりしてるけど固すぎない、その加減がとても難しく、試行錯誤を繰り返す毎日。でもそんな苦労の末に生まれた油揚げは、さっくりした衣の中に豆腐がぎっしり詰まった、しっかりと味わえる逸品になりました。

 

「値段を安くするだけでは、製造に関わる業者さんが苦労する一方です。少し値段が高くなっても、お客さんが満足してくれればいいと思います。この油揚げに見合う、正当な価格で提供することが大事なんです」と語る星さん。それだけ自信のある油揚げができたということ。同じく、油揚げと並ぶ看板商品「おぼろ豆腐」もこだわりの自信作です。特にこだわったのは“濃厚な豆の味”で、青臭さを感じさせないギリギリのところまで豆乳を絞り、しっかりと“大豆”を感じさせる豆腐を作っています。

 

戦うことの痛みを知る、そんな往年の特撮ヒーローへの憧れ。

さて、いよいよ特撮ヒーローのお話です。特撮ヒーローの黄金期ともいえる昭和の時代に幼少時代を過ごした星さん。3歳の頃から特撮ドラマにハマっていたというから筋金入りの特撮マニアです。「特撮ドラマの質が良かった時代だと思いますね。子供ながらに作品を通じて、世の中の厳しさ、残酷さなどを学びました。現代の子どもたちにも、そういう作品をしっかり見せてあげたいと思います。」当時、テレビにかじりつくようにして見ていた作品のことを振り返る星さん。では、最近の特撮ヒーローはどうなんでしょう?「現代の特撮ヒーローはきれいでスマートですよね。それもかっこいいと思うんです。でも昔のヒーローは戦い方がスマートじゃない分、見ていて、痛みみたいものを感じることができたと思うんです。戦うことは痛みを伴うということが伝わってきました。」なるほど。けっして戦うことを美化するわけではなく、できることなら戦いたくない…と思いつつ、愛するもののために仕方なく戦うヒーロー。それこそが星さんの望むヒーロー像です。「ヒーローは子どもの憧れであってほしいんです。大人になったらこんな風になりたいって思ってもらえるような。」そんな熱い思いが、のちに自分自身で特撮ヒーローを生み出すことになるのです。

 

トチオンガーセブン、誕生。手作りだから伝わる想い。

「1970年代の特撮ヒーローが持っていた熱いメッセージを子どもたちに伝えたい。」その想いが高じて、星さんは「毘沙門堂本舗」を経営するかたわらヒーロー活動をはじめます。最初は思い入れのある人気特撮ヒーローのコスチュームを模作し、地元幼稚園などを回ってヒーローショーをやっていました。でもやがて「オリジナルキャラターでやってみたい」と思うようになります。そこで「毘プロダクション」を立ち上げ、以前から企画をあたためていた「トチオンガーセブン」という、鎧兜に身を固めた狐の姿のヒーローの製作を開始しました。「毘沙門堂本舗」の油揚げ職人・星狐太郎が、油揚げを使って変身する狐神という、半分は事実でもあるこの設定。かかるコストはお店の宣伝費として経費にすることも考えたとか。

 

「トチオンガーセブン」のマスクやコスチュームは、制作会社に外注するのではなく、星さん自身が作っています。油揚げにしても、特撮ヒーローにしても、作り手の思いは作品から伝わると信じている星さんは、ヒーローのコスチュームも自ら作るべきだと思ったそうです。「自分でコスチュームを作り、自分で演じるから話題にもなるし価値があるんだと思います。」しかしマスク作りにはかなり苦労があったようで、「狐に見えなきゃダメなんですが、かっこいいヒーローにも見えなきゃダメなんです。とくに目がむずかしかった」のだとか。星さんの手によって完成した新しいヒーローは、雑誌やテレビ出演で紹介され、少しずつ認知されるようになりました。交通安全運動などで各幼稚園を回るといった活動もはじまります。

 

大変だったテレビドラマ製作

SNSなどで「トチオンガーセブン」の発信を続けていた星さんのもとに、突如、テレビドラマ制作の話が飛び込んできます。UX新潟テレビ21の深夜枠が急遽空いたという理由で、星さんに白羽の矢が立ったのでした。放送枠は無料で使うことができるものの、制作費はすべて星さんが負担しなければならないという条件でしたが、ケーブルテレビではなく地上波の番組に強いこだわりのあった星さんは、自ら制作費を出して「トチオンガーセブン」のドラマ作りに乗り出したのでした。

 

制作にあたってプロデューサーサイドより、主役の星狐太郎役を若いタレントに演じさせたいという要望がありましたが、星さんは自分が演じることにこだわりました。番組の準備は過酷なもので、2ヶ月間で台本や造形物などをすべて準備しなければなりませんでした。しかも、10分番組だった予定が30分番組に延長されることになり、さらに大変なことに。でも、その甲斐があって、番組は好評。話題を呼ぶことになったのでした。

 

特撮への愛と共感が呼んだ映画化。「相棒」の監督とのタッグ。

テレビシリーズが終わった後、制作費を回収する目的もあり、「トチオンガーセブン」は映画化に向けて動き出します。ただ一番大事な監督探しが難航。引き受けてくれる人がなかなか見つからず困っていたところ、「にいがた映画塾」の知り合いから「もし誰も見つからないようだったら、橋本くんに頼んでみるけど?」と声をかけられました。「橋本くん」というのが誰なのかよくわからなかった星さんは「にいがた映画塾」のメンバーだとばかり思っていたそう。「橋本くんってどんな人?」と聞いたところ、人気ドラマ「相棒」シリーズなどの監督・橋本一さんだと知ってビックリ。「トチオンガーセブン」にかける自分の思いの丈を伝え、ダメもとでお願いしてみると意外にも引き受けてもらえることになったのでした。実は橋本監督もまた、70年代の特撮番組に対する思いを胸に秘めていたのです。橋本監督の呼びかけに賛同し、スタッフやキャストが集まり、ついに映画の撮影にこぎつけたのでした。

 

撮影は5日間というタイトなものでした。1日でも雨が降ったら間に合わない。そんな状況で2日間も雨の予報が出ていましたが、奇跡的に晴れたまま撮影を終えることができました。こうして完成した「劇場版 炎の天狐トチオンガーセブン 閻魔堂!地獄の大決戦!」は、2018年11月18日に新潟と長岡のT・ジョイでイベント上映されました。

 

栃尾から全世界に特撮ヒーローを発信したい。

特撮への一途な思いで「トチオンガーセブン」の映画まで作ってしまった星さん。これからどんな展開を考えているのでしょうか。今後の夢を聞いてみました。「トチオンガーセブンにとどまらず、新しいヒーローを次々に作り出していきたいと思っています。新潟から全世界に向けてヒーロー番組を発信し、栃尾という小さな土地が特撮ヒーローの聖地になればいいなと思います。」次の夢も実現に向けて動き出しています。「トチオンガーセブン」のテレビシリーズは、ケーブルテレビで国外に配信される予定。油揚げにも特撮ヒーローにも、妥協のないこだわりを注ぐ星さんの活躍。まだまだ目が離せません。

 

 

毘沙門堂本舗

長岡市北荷頃1121-5

0258-53-2825

10:00-18:00 水曜休

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