もういくつか寝るとお正月ですね。お正月の行事といえば初詣。皆さんはどこの神社で初詣をしますか? 弥彦神社に行くという新潟県民はけっこう多いのではないでしょうか。弥彦神社のお土産といえばこんにゃく、カレー豆、パンダ焼といろいろありますが、忘れてはならないのが兎の形をしたお菓子「玉兎」です。今回は「玉兎」を作り続けている老舗「糸屋菓子店」の五十嵐さんにいろいろなお話を聞いてきました。
糸屋菓子店
五十嵐 重幸 Shigeyuki Ikarashi
1962年弥彦村生まれ。新潟市の老舗菓子店「はり糸」で5年半修行した後、弥彦村に戻って家業の「糸屋菓子店」で働き始め、現在は7代目店主。趣味は日帰り温泉巡り。
——今年もあとわずかですね。毎年お正月は忙しいんじゃないですか?
五十嵐さん:毎年1月5日までは忙しいですね。でも来年のお正月は新型ウィルス感染症の影響もあって、人出がまったく読めないですよね。
——確かに例年とは違いますよね。糸屋菓子店さんは「玉兎」が商品のメインになっていますよね。いつ頃から「玉兎」を作っているんですか?
五十嵐さん:5代目に当たる私のじいちゃんのときにはもう「玉兎」を作っていましたね。「玉兎」を作り始めたのが4代目の頃なのか5代目になってからなのか、実はよくわかりません。元々うちの先祖は、弥彦神社の宮司の家に勤めていたようなんです。明治維新の後に宮司さんからこの土地を与えられて、糸車で糸をつむいで売り始めたそうです。それが「糸屋」っていう屋号になっているんですね。
——「玉兎」を考え出したのも糸屋菓子店さんですか?
五十嵐さん:いいえ、文政4年に本間貞作っていう畳屋さんが考え出したと史実にありますね。最初は兎の形をした饅頭だったようですが、だんだんと小さい粉菓子に変わっていったんです。その「玉兎」を商売として売り出したのは、どうやらうちが最初だったみたいなんですよね。
——そもそも「玉兎」にはどんな由来があるんでしょう。
五十嵐さん:大昔、弥彦山に住んでいた兎たちが、毎日里に降りて田畑を荒らしていたそうなんです。困った里人が神様に相談すると、神様は兎たちを集めて田畑を荒らさないように諭したんですね。そうしたら兎たちはかしこまってしまって、二度といたずらしないと誓ったそうです。それ以来被害がなくなったので、感謝した里人は、兎がかしこまった姿を米粉で作って神様に捧げたそうなんです。まあ、そんな由来があるんですよ。
——なるほど。「玉兎」の形は兎のかしこまった姿なんですね(笑)
——五十嵐さんは7代目にあたるんですよね。最初からお店を継ぐつもりだったんですか?
五十嵐さん:いずれは「糸屋菓子店」を継ぐつもりでしたが、新潟市の「はり糸」で5年半修行させてもらいました。家の仕事だけでは井の中の蛙になってしまうので、外の世界も勉強して来いっていうことで。「はり糸」は一番景気のいい頃だったから、とても忙しかったですね。和菓子だけじゃなくて洋菓子も作らせてもらったので、チョコレート作りの知識とかは今の仕事でも役に立っていますね。
——そのチョコレートを使った「ちょこっ兎」っていう商品が人気ですよね。
五十嵐さん:弥彦の旅館組合から、若い人にもうけるお菓子を作りたいっていうことで、チョコを使った「玉兎」を作ってほしいっていう依頼がきたんです。
——「糸屋菓子店」に白羽の矢が立ったんですね。
五十嵐さん:でも、変なお菓子を作って、弥彦の人たちに恥をかかすわけにはいかないっていうプレッシャーがすごかったですね。その反面、もちろん「玉兎」を作り続けてきた店としてのプライドや意地もありました。
——「ちょこっ兎」を生み出すのは大変だったんですか?
五十嵐さん:いやあ、大変でしたね。「テンパリング」っていうチョコレートを固まらせるための作業では、温度管理がなかなかうまくいかなかったんです。完成披露の日時が決められていたので本当に焦りました。でも前日くらいにギリギリひらめいた方法を試してみたら、うまくいってなんとか完成したんですよ。ちなみにこの商品は、スイスの「クーベルチュール」っていう、日本で初めて輸入されたチョコレートを使っています。
——チョコレートは作るときの温度管理が難しいって、よく聞きます。
五十嵐さん:そうなんです。だから10月〜5月いっぱいまでしか作ることができない期間限定商品なんです。
——「玉兎」や「ちょこっ兎」作るときにこだわっていることってありますか?
五十嵐さん:作るときは原価のことをまったく考えません。たとえば和三盆を使った「玉兎」は、日本三大銘菓のひとつといわれている、金沢の「長生殿(ちょうせいでん)」と同じ高級な和三盆を使っているんです。値段は作った後で計算すればいいと思ってますね。
——ところで、弥彦の魅力ってどんなところだと思いますか?
五十嵐さん:1時間くらいで登れるちょうどいい高さの弥彦山があるし、海も近いし、自然に恵まれていますよね。自然だけじゃなくて格式ある神社もありますしね。最近は弥彦公園が整備されて「おもてなし広場」もできたし、観光地らしくなってきたように思います。
——五十嵐さんがおすすめする弥彦の観光スポットってどこですか?
五十嵐さん:弥彦公園は金沢の兼六園に負けてないと思いますよ。四季折々にきれいな景色が見られておすすめです。イベントではやっぱり「やひこ菊まつり」ですね。今はお正月の初詣より「菊まつり」の方が忙しいですよ。
——これから力を入れていきたいお菓子ってあるんですか?
五十嵐さん:弥彦神社にある「おもかる石」をテーマにした「弥彦おもかる石」っていうお菓子を、6軒のお店がそれぞれのアレンジで競作したんです。うちは越後姫をホワイトチョコレートで包んだ「弥彦おもかる石」を作りました。これからはこのお菓子にも力を入れていこうと思っています。
代々作り続けてきた「玉兎」、そして弥彦の新しい名物として苦心の末に生み出した「ちょこっ兎」。どちらにも弥彦でお菓子を作り続けてきた老舗としての意地や誇りを感じます。皆さんも弥彦神社に初詣の際は、弥彦名物の「玉兎」や「ちょこっ兎」「弥彦おもかる石」をお土産にいかがですか?
糸屋菓子店
〒959-0323 新潟県西蒲原郡弥彦村弥彦1281
0256-94-2072
9:00-17:00