ぼ~っと聴くのが、ちょうどいい。
りゅーとぴあ専属オルガニスト濵野芳純
カルチャー
2026.07.05
りゅーとぴあ第5代専属オルガニストとして活動する濵野芳純さん。オランダとフランスで研鑽を積み、数々の国際コンクールで受賞経験がある実力の持ち主です。濵野さんいわく「オルガンはぼ~っと聴くくらいがちょうどいい」のだとか。その理由やオルガニストになったきっかけ、海外暮らしのエピソードなど、いろいろとお話を聞いてきました。
濵野 芳純
Kasumi Hamano
1996年京都府生まれ。関西学院大学在学中にパイプオルガンと出会い、オルガニストを志す。卒業後、オランダへ渡り「アムステルダム音楽院」で学ぶ。その後フランスの「トゥールーズ音楽院」を修了。2021年フランス・パリの「J.L.フローレンツ国際コンクール」で2位および聴衆賞、2022年フランス・リヨンの「メシアンコンクール」にて4位および聴衆賞、2023年「第9回武蔵野国際オルガンコンクール」では3位入賞。2024年にりゅーとぴあ第5代専属オルガニストに就任。新潟での暮らしをきっかけに登山や釣りなど、アウトドアを楽しんでいる。
片道2時間の通学が、
オルガニストを育てる。
――まずは濵野さんの音楽歴を教えてください。
濵野さん:4歳か5歳のときにピアノをはじめました。それから大学に進学するまで、だらだらと長いことピアノを続けていました。僕の通っていた関西学院大学にはチャペルがあって、そこでプロの講師がパイプオルガンを教えてくれていたんです。その先生の影響で「オルガニストになろう」と決めました。
――進学先でオルガンと出会ったんですね。
濵野さん:自宅から大学までは片道2時間。授業が終わると早めに帰らなくちゃいけなかったので、大学では友達付き合いがほとんどなくて。空きコマにパイプオルガンの練習ばかりしていたおかげで、いつの間にか上達していました(笑)
――遠距離通学が思いがけないところで功を奏しましたね(笑)
濵野さん:僕たちの先生が、社会人になってからオランダへ留学してオルガンを学んだと聞いて、「自分も行けるかもしれない」と思ったんです。それで大学2年生の頃から留学の準備をはじめて、大学4年生の4月だったかな、「アムステルダム音楽院」を受験したんです。
――大学入学時にはまったく想像していなかった進学だと思うんですが、周りはどんな反応でしたか?
濵野さん:いつも遊んでいた地元の友達に、「『アムステルダム音楽院』ってところに入学する」って話したら、「あ、そう」って妙にリアクションが薄かったんですよ。地元の専門学校と勘違いしたみたいで(笑)
――ふふふ(笑)。それくらい突拍子もないことだったんですね。でも当時、就職やその後のキャリアについては、どう思っていたんですか?
濵野さん:就活はなんとなくしていました。説明会に参加してみたり。でも「普通に就職してもなぁ……」と思っていて。オルガニストとしてプロになれるかどうかは別として、留学はしようと決めたんです。

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オランダ、そしてフランスへ。
ひたすら練習と向き合う日々。
――オランダでの暮らしについても知りたいです。
濵野さん:オランダの人は英語がとても上手なので、英語で生活していました。入国後しばらくは住まいが見つからなくて、ホテルを転々としたり、知人の家に居候したりして。ようやく見つけたところも、いろいろあって出ていかなくてはならず……。オランダで暮らした5年間の間に、7回も引越しをしました。
――なんだか落ち着かないですね。
濵野さん:アムステルダムはとても美しいところで、街の一部が世界遺産に登録されています。それもあって、住宅不足が課題となっているんですね。ひとり暮らしなんて簡単にはできません。
――肝心な音楽の勉強は順調でしたか?
濵野さん:朝起きて学校へ行って、授業の合間に練習をして、授業を終えてまた練習をして、一旦帰宅しバイトへ行く。もう練習するか、バイトするかの毎日でした。たぶん僕、日本でいちばんバイト経験が豊富なオルガニストだと思います(笑)
――周りも熱量の高い人が多かったと思います。
濵野さん:生活は大変だったけど、学生生活は楽しめました。でも3年目にコロナ禍となって、数ヶ月何もできない期間があったんですよ。それで気持ちが冷めちゃった。「卒業するまでにどこかのコンクールで賞を獲れたらオルガンを続けよう」と思っていたのに、そもそもコンクール自体が開催されないなんて。「もういいかな」って、4年目は廃人みたいな生活を送っていました。
――転機は訪れたんでしょうか……。
濵野さん:それでも練習はちゃんと続けていて、唯一「中止ではなく延期」になっていたコンクールに出場したんです。「アムステルダム音楽院」を卒業したのは6月で、そのコンクールは9月に開催されたので、もうオランダにいる必要はないから、結果がどうあれ日本に帰って就職でもしようかな、と思っていたんです。
――そのコンクールというのは?
濵野さん:パリのサントゥシュタッシュ教会で行われた「J.L.フローレンツ国際コンクール」です。
――何としても結果を出さねば、という気持ちですよね。
濵野さん:というよりも最後の思い出づくりみたいな(笑)。でもそこで2位となり、嬉しいことに聴衆賞(※観客や視聴者の投票によって、最も支持を集めた出場者に贈られる賞)を獲得できました。これで後腐れなくオルガンをやめられる、と思ったんです。でもそのときの審査員から「教会で1時間のリサイタルをしてくれ」と頼まれたんですよ。1時間の演奏なんて試験でしか経験したことがなかったので、「ぜひやってみたい」と帰国予定を延期して、オルガンを弾きました。そしたら、「やっぱりもう少し続けたい」と思えたんです。
――なぜ心境の変化があったんでしょう?
濵野さん:オランダに渡って4年経った頃から、思うように弾ける気がしたんです。技術や表現がようやく自分の理想に近づいてきて、「まだまだ上手くなれる気がする」って。ただオルガンを続ける気持ちが再燃しても、毎日練習できる場所はありませんでした。それで違う音大に入り直そう、と思ったんです。
――それがフランスの「トゥールーズ音楽院」ですね。
濵野さん:とても有名な学校なんですが、教授が交代し、新しくコースが設けられたタイミングだったんですよ。それで入学試験が必要なかったんですね。あのときはラッキーでした(笑)


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繊細で穏やか。
その場に馴染む音色。
――では、今度はフランスでの思い出を教えてください。
濵野さん:オルガン科の生徒が同じ家にホームステイしていて、一緒に食事の準備をしたり、出かけたり、家族みたいで楽しかったですね。その頃から「日本で仕事があったらいいな」という思いが強くなりました。でも僕は日本の音大を出ているわけじゃないので、コンクールの経歴で自分を飾るしかなくって。フランスでの1年間は、日本のコンクールのために備えていました。
――帰国されたのは、2023年でしたね。
濵野さん:確か「りゅーとぴあ専属オルガニスト」オーディションの1週間くらい前に帰国したんですよ。同時期に東京のコンクールにも参加しました。日本での仕事は何も決まっていない状態だったので、「どちらでもいいから今後につながればいいな」と期待を持っていました。
――オーディションは演奏のほかに、MCや面接もあったそうですね。濵野さんはのびのびトークしていた、とりゅーとぴあの関係者さんが教えてくれました。
濵野さん:「しっかり演奏しなくちゃ」というプレッシャーはありましたけど、それ以外のところは自分ではどうしようもできません。なので自然体に思われたのかもしれないです。
――そして、見事に5代目の専属オルガニストに就任されました。プロとして活動できるようになった喜びは大きいですよね。
濵野さん:合格通知が届いたときは、すごく嬉しかったですよ。ごく普通の封書で通知が届いたので、母親と「きっとダメだったね」と諦めていたんですが(笑)。でもずっとアルバイトで長く我慢して生活していたので、お金を使うことにものすごくためらいがあるんです。いまだにお金の使い道がよくわからないんですよ。
――そういうお話をしてくださるところも濵野さんの魅力ですね(笑)。ちなみに濵野さんのオルガンは、どんな音色がするんですか?
濵野さん:その場に馴染むように弾くことを心がけています。パイプオルガンは力強い音に聞こえがちなんですが、僕は繊細で穏やかな感じが好きなので。

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遠くの街にも、
パイプオルガンの響きを。
――専属オルガニストの任期はいつまでですか?
濵野さん:2028年の3月までです。2024年の春から務めているので、今ちょうど任期の半分くらいです。
――後半に向けて、どう活動したいですか?
濵野さん:定期的にりゅーとぴあでリサイタルを開いているので、「また聴きたい」と思っていただける演奏を続けたいです。あとは実現するかどうかは別として、いつもの2時間のリサイタルよりも気軽に楽しめるコンパクトなコンサートも開いてみたいです。パイプオルガンの音色を、もっと身近に感じてもらいたいので。
――ではひとりのオルガニストとしては、これからどんな活動をしていきたいですか?
濵野さん:いろいろな場所で演奏したいですね。この仕事を続ける限り、遠い場所まで足を運んでパイプオルガンの音色を届けたいです。
――そういえば先日、コンサートホールで練習中の濵野さんの様子を見学させてもらったんです。照明の具合も相まって、とても神々しい姿でした。
濵野さん:「神々しい」はある意味、正解だと思います。ピアノやバイオリンなど、オーケストラの演奏には超絶技巧の華やかさがあります。でもパイプオルガンは、どちらかというと淡々とした「お祈りするための曲」が多いんです。だから「音楽に圧倒されたい」と思って聴くと、少し物足りなく感じるかもしれません。むしろフラッと気軽に聴きに来てもらって、「なんだか心地よいな」と感じてもらえたら、それがちょうどいいと思います。ぜひ、ぼけ~っと聴いてください(笑)

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