お客さんに寄り添う、「中善酒店」3代目店主の中川さん。
その他
2024.09.16
新潟市中央区の「中善酒店(なかぜんさけてん)」は創業46年の酒屋さん。3代目の中川さんがお店を継いでからは無料試飲会を開いたり、角打ちスペースを作ったりと、地域の人が集う場所にもなっているんだそう。中川さんが家業の酒屋さんに入るまでのことや、試飲会を開く理由など、いろいろなお話を聞いてきました。


株式会社 中善酒店
中川 美和 Miwa Nakagawa
1989年新潟市生まれ。高校卒業後、埼玉県の大学に進学しリハビリについて学ぶ。卒業後は東京で就職し作業療法士として働く。26歳のときに新潟へ戻り、市内の病院に勤める。3年前に家業である「株式会社中善酒店」を手伝いはじめ、今年5月より代表に就任。釣りが大好きで、釣った魚を試飲会で振る舞うこともある。
大好きなお酒を、お客さんと同じ目線で売る。
――中川さんは3代目だそうですが、お店をはじめられたのはどなたなんですか?
中川さん:祖父です。この店が入っている建物はうちが所有していて、建物が建つときに店も一緒にできたんです。大昔はお米とか食品とかも売っていたんですけど、時代とともに酒屋になりました。
――中川さんはいつからこちらで働くように?
中川さん:ちょうど3年前からです。
――どうしてこのタイミングで家業に入ることにされたんでしょうか。
中川さん:以前は作業療法士の仕事をしていたんです。人の役に立つ仕事をしたいと思って、埼玉の大学でリハビリの勉強をしました。卒業してからも東京で働いて、そのまま骨をうずめようと考えていたんですけど、私が26歳ぐらいのときに母が病気になってしまって。
――あらら……。
中川さん:将来を考えたときに、新潟に帰ることにしたんです。そのとき兄が一瞬店を継いだんですけど、いろいろとあってやっぱり私が店を継ぐかもしれないってことになって。それで、残っていた有給を使って全国の日本酒を飲み歩く旅をしたんですよ(笑)

――日本酒の旅をして、お店を継ぐかどうか考えようと(笑)
中川さん:リュックをしょって、バスを乗り継いで、地域ごとの日本酒を飲みながら1ヶ月で20都道府県、30軒以上の居酒屋さんをまわりました。で、最終的に気づいたのは、酒は「飲むこと」が好きだと。「売ること」は違うと思ったんですね。
――1ヶ月飲み歩いたことで気付いたわけですね。
中川さん:それで家族に「私は、自分が好きなリハビリの仕事を続けます」と言って、新潟に戻ってからも病院で働いていました。でも3年ぐらい前に、母を看病しなきゃいけないことになったんです。仕事を辞めてぐうたらするよりは、ちょっと店を手伝おうかなと思って店に入りました。そしたら父が「店を辞める」と言って、じゃあ私がやらなきゃいけないな、みたいな(笑)
――もともとはお母さんの看病のためにお店に入られたんですね。
中川さん:私、去年の1月に結婚したんですけど、旦那がバーテンダーで。それもほんとたまたま(笑)。「いろいろフォローできるし、応援するよ」という旦那のプッシュもあって、継ぐことを決めたって感じですね。
――それは心強いサポートですね!
中川さん:酒屋になって3年目なので、まだまだ素人なんですよ。でもお酒は大好きですし、お客さんの気持ちに寄り添える酒屋として、「みなさん仲良く和気あいあいとお酒を楽しみましょう」っていうスタイルでやっています。

お店に関わるみんなで作り上げる酒屋さん。
――中川さんがお店を引き継いでから新しくはじめたことってありますか?
中川さん:洋酒の取り扱いをはじめたことと、あとはいろいろDIYしましたね。
――DIYですか……?
中川さん:もともと物置だった場所を棚にしたり、店内でお酒が飲めるようにテーブルを作ったりしました。夜な夜なのこぎりで板を切ったり、ニスを塗ったり。解体作業とかは飲み友達を呼んで手伝ってもらいましたし、お客さんからもアドバイスをもらいました。だから、みなさんと作り上げている酒屋ですね。

――みんなで一緒に作り上げる酒屋さん、素敵ですね。
中川さん:あと新しくはじめたことというと、ウイスキーの量り売りかな。量り売りをやっている酒屋さんって市内には少ないと思います。うちは特に、「ボトラーズ」っていうジャンルのウイスキーを多く置いているんです。
――ボトラーズってどういうものなんですか?
中川さん:蔵で瓶詰めして売られているウイスキーはよく見るじゃないですか。でもボトラーズは、瓶詰めをする業者が蔵元から樽ごと買って販売しているものなんです。ウイスキー好きの中でも、熟知した人しか買わないものみたいで。いろんな方に飲んでもらいたい、知ってもらいたいっていう考えがあって、量り売りをしています。ちなみに旦那のチョイスです。
――コアなウイスキー好きにはたまらないでしょうね。
中川さん:うちにはウイスキー用のグラスがないんですけど、家から専用のグラスを持ってきて飲んでいく方もいらっしゃいますね。あとは有料で試飲ができるので、ウイスキーって高いですし、試飲してから気に入ったものをボトルで買っていかれる方もいます。

――毎週土曜には角打ちと無料試飲会をされていると聞きました。
中川さん:無料試飲会をやっていると「無料で飲むなんて悪い」「居づらい」っていう方がいらっしゃったので、「じゃあ角打ちをやるんで、1缶買ってチェイサーにしてください」って。だから希望制で、飲みたい方は買って飲んでください。でも試飲できるものは無料で飲んでいってくださいね、っていうスタイルに変わってきていますね。
――試飲会といってもかなりの種類が飲めるみたいですけど、試飲会をやっているいちばんの目的ってなんなんでしょう……?
中川さん:私が飲みたいからです。
――なるほど(笑)
中川さん:中善に入って1年過ぎた頃に「日本酒の勉強しなきゃ」と思って、店の商品をちょっとずつ飲んでいたんですね。でも一度にたくさんは飲めないし、開けたまま悪くしてしまうのももったいないなと思って。じゃあ私が開けたお酒を置いて、お客さんにも飲んでもらおうかなっていうところからはじめたんです。

――それでこんなにたくさん種類があるわけですね。
中川さん:去年のゴールデンウィークに初めてやってみたら、お客さんがけっこう喜んでくださって。私も楽しくなってきて、レジもあるから15時くらいまでは我慢しているんですけど、16時くらいになったら「いいんですか?」って注いでもらったりしています(笑)
――中川さんも楽しんでいるんですね。試飲会があると、初めてお店に来るきっかけにもなりそうですね。
中川さん: SNSをはじめたのが3年前なので、近所の方が「こんな近くに飲めるところがあるなんて知らなかった」と言って歩いてきてくださるようになりましたね。新潟駅から歩いてきてくださる方とか、東京から定期的に来てくださる方もいらっしゃるんですよ。

必要とされる酒屋になれるのかもしれない。
――酒屋さんで働いていて、どんなときにお仕事のやりがいを感じますか?
中川さん:もちろんお酒をいっぱい飲めることは楽しいですけど(笑)。今までは年配の方にリハビリをする仕事をしていたので、いつも「ありがとう」って言ってもらう側だったんですね。反対に酒屋の仕事は、ものを売って「ありがとうございます」って言う側なんだろうなって最初は思っていたんです。
――でも実際に働いてみたらそうではなかったと。
中川さん:「この前おすすめしてくれたお酒、すごい美味しかったよ、ありがとう」って、お礼を言われることがすごく多くって。人に求められているんだな、こういう意味で人の役に立てているんだなって。こちらが感謝するだけじゃなくて、自分のやりようでお客さんも喜んで気持ちを伝えてくださることを知って、「あ、必要とされる酒屋になれるのかもしれない」って思いました。最初はそのことが嬉しかったですね。
――今はまた違う嬉しさもあるんでしょうか。
中川さん:今はお客さんと一緒にいろいろ考えて、新しいことをやったら「ここがよくなったね」とか「次はこうしてみようか」みたいな話をシェアしていて。お客さんが私の成長を見てくださって、その成長を喜んでくださっていることが嬉しいです。まあ、お客さんが楽しんでくれることがいちばんですね。
――今後、新しくはじめてみたいことはありますか?
中川さん:駐車場を使って、キッチンカーとかお店をやっている方とかを呼んで、みんなでイベントがしたいですね。お酒も食事も人もふれあうような企画をしたいなって考えています。

中善酒店
新潟市中央区本馬越2丁目13-2 中善ハイツ
TEL:025-245-6769
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