まずは、餃子と一杯から。
東青山の「ぎょうざとつまみ 里酒家」
食べる
2026.08.19
駅南で「家庭料理とワインの店 kuwabara」を営んでいた桑原さんご夫婦。Thingsでお話を聞いてから6年、今年の春にお店を青山へと移転し、「ぎょうざとつまみ 里酒家(さとしゅか)」として新たなスタートを切りました。今回はお店にお邪魔して、取材後の変化や移転のきっかけ、おつまみとお酒のことなど、桑原さんにいろいろお話を聞いてきました。
桑原 敬
Satoshi Kuwabara(里酒家)
1979年新潟市中央区生まれ。新潟市内のホテルでレストランサービスを経験する。その後リゾート施設に勤務し、支配人として働く。2020年に「家庭料理とワインの店 Kuwabara」をオープン。今年、店舗を東青山に移転し「里酒家」として再スタートを切る。最近は営業終わりの焼酎が美味しいんだとか。
移転のきっかけは、
かつての休日の思い出。
――前回桑原さんにお話を聞いたのは2020年、お店がオープンしてすぐでしたね。
桑原さん:右も左もわからないままお店をはじめてすぐ、コロナ禍に入ったときでしたね。あの頃は、なかなか宣伝もできなくて、「このお店はどんなお店なんだ」って思われながら、お弁当を作っていました。その中でいろんな飲食店の方とつながることができて、情報交換がたくさんできました。そのおかげで自分の考え方がどんどんアップデートされていったんです。
――例えば、どんなふうに?
桑原さん:大きなものはお酒ですかね。最初はナチュラルワイン一辺倒でしたけど、クラフトビールやジンのよさを知っていったんです。それを仲間同士で情報共有していくうちに、お店で扱うお酒の幅が自然と増えていきました。みんなで情報共有していたあの時間で、自分のお店の方向性はどんどん固まっていったと思います。
――駅南のお店を続ける中で、移転を考えたきっかけがあったのでしょうか。
桑原さん:3年目くらいで考えはじめました。お店をはじめる前、休みの日にマニアックなワインを集めて同僚や知り合いと一緒によく飲んでいたんです。ご飯は僕が作って出していました。自分の家に人を呼んで、みんなで食卓を囲んで、自分が作った料理を食べるのがすごく楽しくて。そんなふうにできる場所を作りたいなと思っていたんです。それで、店舗つき住宅を探しはじめましたね。
――自宅でやっていたことを、お店としてやりたいと思っていたんですね。
桑原さん:理想の物件を3年くらいかけて探して、ようやくここを見つけました。見つけてすぐ内見して、すぐ契約しました。こっちに移転するとき、人並みに不安はありましたけど、今まで駅南でやってきた経験があったから大丈夫かな、とも思っていました。今思えば、最初に駅南でやっていてよかったなって本当に思うんです。


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ふたりだから作れる、
ぎょうざとおつまみのお店。
――移転後、お店の名前が「里酒家」に変わりました。どうして店名を変えることにしたのでしょう。
桑原さん:駅南ではじめるときも今と同じで、自分の家に人を呼んで料理を振る舞う延長線のようなお店を作りたくて「家庭料理」って言葉を入れていました。作る料理のジャンルは気にしていなかったし、温かみのある感じにしたかったので、ちょうどよかったんです。でも、6年間お店を続ける中で、お店の個性みたいなものが少しずつ見えてきて。「家庭料理」という言葉では、今のお店の雰囲気を伝えきれなくなってきたと感じるようになったんです。
――お店を続けていく中で生まれた変化が名前を変えるきっかけになったんですね。
桑原さん:あと「家庭料理」と一緒に「ナチュラルワイン」という言葉も使っていたけど、ワイン以外にもよいお酒に出会うことができていたので、移転を機に名前を変えることにしたんです。僕の名前と奥さんの名前を合わせた「さとしゆか」から、「里酒家」と名付けました。
――おふたりでやっているからこそのお名前、素敵です。
桑原さん:僕がひとりで料理を作ってお酒を選んでいたら、このお店の雰囲気は絶対出ていないと思うんです。接客に関しては奥さんにほとんどお任せしていて。そのおかげでお店の空気感ができ上がっていると思っています。僕らふたりだったから作れるお店という意味でも、この名前はぴったりだったなと思います。
――そんな「里酒家」の前には「ぎょうざとつまみ」という言葉もつけられました。
桑原さん:駅南のときも「ナチュラルワインと餃子」を名前と一緒にうたっていて、ここでも「餃子」を入れているんですけど、僕はお酒を飲むときの入口として餃子を位置づけていて。餃子はナイフやフォークを使わなくていいし、馴染みがあるから気軽に頼んでもらえるような気がして。餃子とナチュラルワインをセットにしたら、きっとワインに対するハードルは下がるだろうし、「里酒家」で置いているジンや焼酎みたいなお酒も気軽に頼んでもらえるかなって。
――何を食べようか、と迷っているときに餃子があると、迷わず選んでしまいます(笑)
桑原さん:きっとそういう方は多いと思いますよ。とはいえ、一皿目から餃子はちょっと重いと思って、うちでは前菜の盛り合わせをいちばん最初に出しています。その日によって変わるおつまみを5種類くらい、少しずつ入れて。食べる前の準備運動をしてもらいつつ、「うちのおつまみってこんな感じだよ」っていうのが伝わればいいな、と思っています。


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説明するよりも、
まずは飲んで、体験してほしい。
――桑原さんにはワインのお話もぜひ聞かせてもらいたいんです。ワインを選ぶとき、どんなことを大切にしていますか?
桑原さん:作り手さんの価値観や考え方をすごく大事にするようになりました。駅南のお店をはじめたときは、とにかく経験値を上げて説得力を持たせたくて、いろんなワインを手当たり次第に買っていたんです。それを続けていったら、自分の好みやお店にあうワインが分かってきて。ワインの産地や味ではなく、ワインに対する考え方や、何を大切にしているかに共感できる作り手さんのワインを選ぶようになっていきましたね。
――それは、ワインに向き合ってきた桑原さんだからこその視点かもしれません。
桑原さん:考えや価値観が似ている方の作るワインは、不思議と僕たちの作る料理にも合うんですよ。ペアリングみたいに、味わいや香りがバッチリ合うっていうよりは、お互いの個性を邪魔せず、寄り添い合う感覚に近いのかなと。
――そんなワインを提供するスタイルにも、変化があったのだとか。
桑原さん:前は、ワインの産地とかブドウの品種をメニューに書いていたんですけど、それをやめました。これを書いてしまうと、ワインを気軽に飲みたい人のハードルを上げてしまうなと思って。だから今は順番を変えて、まず「これは餃子に合うワインです」と伝えてから、「イタリアのものなんです」くらいの説明にとどめるようにしました。
――情報を減らした、ということですか。
桑原さん:そうそう、興味を持って引っかかってくれた人にだけ、詳しく説明すればいいのかなと思っていて。「これは酸味があって、喉越しが〜」みたいに先に説明されると、いざ飲んでみたとき、結局何を飲んでいるのかよく分からないまま終わってしまう気がするんです。お客さんも「美味しい」とは言ってくれるかもしれないですけど、それって本心かどうか分からないというか。だから、なるべく自分で感じて、自分で決めてもらうことを大事にしています。


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昨日よりも、今日が良くなるように。
ふたりで作る、「里酒家」のこれから。
――これから、どんなお店にしていきたいと考えていますか。
桑原さん:派手なことをするつもりは全くなくて。「昨日よりよければいい」というのをずっと続けていければ、それが結果的にすごいお店になっているのかもしれない、と思っているんです。すごい店を目指すというより、「昨日よりいい」を積み重ねていけたらいいなと。
――それは駅南時代からずっと変わらない考え方だそうですね。
桑原さん:そうですね、ずっと同じです。企業が求めるようなスピード感には全然追いついていないと思いますけど(笑)。ただ、去年より悪くなっていないかは、続けていればなんとなく分かるものなんです。去年より楽をしているところがあれば、それも自分たちで分かるんです。だから「悪くならないように」というよりは、「去年よりよくなっていたら夫婦ふたりとも嬉しいよね」というくらいの感覚です。「よくやったね」って夫婦で言い合えたら、それがいちばんいい答えなのかなと。
――近所にこんなお店があったら、通い続けたくなります。
桑原さん:ありがとうございます。なるべく近所の方が、ふらっと来てくれるような。「今から5分後だけど、空いていますか」って気軽に電話してもらえるような、そんな距離感のお店であり続けたいです。おひとりでも、誰かと一緒でも、気兼ねなく過ごせてお酒と料理を楽しんでもらえる場所にしていこうと思っています。

ぎょうざとつまみ 里酒家
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