火を消す人生から、火を焚く人生へ。
走るサウナ「キタテバコ」
カルチャー
2026.05.28
コロナ禍を機に進化を遂げたデリバリー。そのなかでも、今回は珍しいサウナのデリバリーを紹介します。移動式サウナ「キタテバコ」は自分で足を運ぶことなく、様々なシチュエーションでサウナを楽しむことができるんです。地元の消防署に30年間勤務してきた今井さんに、移動式サウナをはじめたいきさつや、こだわりについてお話を聞いてきました。
今井 正樹
Masaki Imai(キタテバコ)
1972年五泉市(旧村松町)生まれ。地元の消防署に30年間勤務。2026年より移動式サウナ「キタテバコ」をはじめる。趣味は小学生から続けている野球。
我慢比べだと思っていたサウナに
リフレッシュの喜びを感じはじめる。
――今井さんは昔からサウナがお好きだったんですか?
今井さん:20代後半からサウナを利用するようになりましたが、最初は暑くて息苦しいとしか思えなくて全然好きではなかったんです(笑)
――じゃあ、いつ頃から好きになったんでしょう?
今井さん:いつ頃からなんでしょうね……(笑)。自分に負けたくないという気持ちで続けているうちに、身も心もすっきりリフレッシュしていることに気づいたんです。夜もぐっすり眠れるようになりました。
――最初のうちは己との戦いだったんですね(笑)
今井さん:我慢比べでしたね(笑)。自分に打ち勝った達成感で続けていたのかもしれません。ハマり出してからは、ドライブや旅行とセットでサウナを楽しむようになりました。人気のサウナをもとに旅行先を決めることもあるんです。
――旅行やドライブも2倍楽しめますね。「移動式サウナ」の発想はどこから思いついたんですか?
今井さん:あちこちのサウナに足を運んでいるうちに、サウナが自分の家まで来てくれたらいいのにと思うようになったんです。でも安定している消防署勤めを辞めるつもりはありませんでした。

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消えゆく命を見守るしかできない
消防署員としての悔しさと無念。
――今井さんは消防署にお勤めだったんですね。
今井さん:30年間勤務しました。地元の小さな消防署だったので、すべての業務をやらなければならず、お茶出し、トイレ掃除から消防や救命の現場まで何でもやりました。
――大変なお仕事だと思います。ずいぶんつらい思いもされたんじゃないですか?
今井さん:いろいろありましたね……。現場に到着したときはまだ息があったのに、自分たちでは手に負える状況ではなくてどうすることもできず、亡くなってしまう方をたくさん見てきました。そういうときは悔しいし無念でしたね。交通事故で知り合いが亡くなる現場に遭遇したこともあります。
――話を聞いているだけで切ない……。
今井さん:東日本大震災のときは緊急消防援助隊として被災地で救急活動をしました。案内人としてついた現地の職員から、被災当時の話をいろいろ聞かされましたね。被災された方々は自分たちも大変なのに、消防車を見かけると手を合わせて感謝してくれるんです。
――命の儚さを感じることも多かったんでしょうね。
今井さん:そうですねぇ……。でも、心停止された方を心臓マッサージで蘇生させたときもありました。そんなときは、この仕事に就いてよかったと心から思いましたね。
――消防署の仕事をやめたのは、どうしてだったんですか?
今井さん:5〜6年前から仕事への情熱が薄れてきてしまって、代わりに移動式サウナで多くの人を楽しませたいという思いが強くなりました。でも、公務員としての安定や信用をなくす不安もあって葛藤が続いていたんです。

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移動式サウナを製作する難しさと、
どうしても外せないこだわりポイント。
――消防署をやめて移動式サウナをはじめることに、ご家族の反応はいかがでした?
今井さん:もちろん反対されました(笑)。「消防署をやめたい」という話はしましたが、「移動式サウナをはじめたい」という話はしていなかったんですよ。妻からは「とりあえず1年だけ頑張って消防署の仕事を続けてほしい」と言われました。
――それはどうして?
今井さん:その間に私の気が変わるかもしれないと思ったようですが、1年経っても転職したいという意思は変わらなかったんです。あきらめた妻から「自分がやりたいと思うことをやってみれば?」と背中を押してもらえたので、移動式サウナをはじめる決心がついたんです。
――まさか移動式サウナをはじめるとは思わなかったんでしょうね(笑)
今井さん:妻はサウナが苦手なんですよ。だから認めてくれてからも手伝ってはくれません(笑)。そのかわりにサウナ好きの息子が相談相手になってくれています。
――開業に向けた準備は順調だったんですか?
今井さん:トレーラー上にサウナをつくるのが大変でした。私の作成した図面をもとに業者で製作してもらうんですけど、トレーラーの重量制限、気密性や断熱性の精度など、たくさんの壁が立ちはだかりました。それをクリアしていくのは簡単ではなかったので、話し合いや試行錯誤を重ねて2年くらいの時間がかかったんです。
――かなり特殊なものをつくるわけですからねぇ……。サウナを製作するにあたって、今井さんがこだわったポイントを教えてください。
今井さん:サウナの座席を二段にすることにはこだわりました。上の段と下の段では温度が変わるので、どちらの温度でも楽しめるようにしたかったんです。熱した石に水をかけて、発生した水蒸気で体感温度を上げる「ロウリュ」もできるようにしたいと思いました。

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移動式だからこそ実現できる
いろんなシーンで楽しめるサウナ。
――移動式サウナの営業をはじめてから間もないですけど、反響はいかがですか?
今井さん:インスタグラムで告知や予約受付をしているんですけど、今まで満足にSNSをやったことがなかったので苦労しながら運営しています。そのせいか、まだまだ認知度が低く予約もほとんどない状況です。出張したのも知り合いの家の庭と地元の川原くらいなんですよ。
――そのときの反応はどうだったんでしょう?
今井さん:「気持ちよかった」「木の香りにリラックスできた」と好評で、その後も同じ川原に呼んでいただいたんです。先日は地元の「さくらんど温泉」にも呼んでいただきました。「さくらんど温泉」の浴場にもサウナがあるんですけどね(笑)
――これから、どんどんオファーが増えるんじゃないでしょうか。
今井さん:キャンプ場を中心にいくつかお話をいただいています。小千谷でトレーラーサウナをやっている方とのコラボも予定しているんです。いろいろなイベントに参加させていただきながら、少しずつ認知していただけたらと思っています。
――楽しみですね。
今井さん:自宅で気軽に家族と楽しんだり、川や海など自然のなかでキャンプがてらに楽しんだり、いろいろなシーンでご利用いただけると思うんですよ。どちらへでも「来たてば」とサウナの箱をお届けします。
――「キタテバコ」っていう名前はもしかして……。
今井さん:新潟弁で「来たよ」っていう意味の「来たてば」と、サウナの「箱」を組み合わせた名前なんです。これからもサウナを通して生きている喜びをお届けしていきたいですね。

キタテバコ
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