キャビアがチョウザメの卵だということを知っている人は多いと思います。でも、チョウザメを使って野菜が作られていることは知らない人も多いのではないでしょうか。今回ご紹介する長岡の「NAGAOKA SASATEI(ナガオカ ササテイ)」というイタリアンレストランでは、そうした野菜を使った料理を楽しむことができるんです。シェフの笹崎さんを訪ね、料理のこだわりについてお話を聞いてきました。
笹亭。
笹崎 誠之 Masayuki Sasazaki
1982年長岡市(旧川口町)生まれ。悠久山調理師専門学校卒業。学生時代にアルバイトをしていたサービスエリア、イタリアンレストラン、リストランテなどで料理の腕を磨く。2013年に「COCO TEA」をオープンし、2018年には「CASUAL DINING EU cafe」で店長兼シェフを務める。2022年には独立して「笹亭。」を立ち上げ、ケータリング事業や料理教室などに携わり、2023年より「NAGAOKA SASATEI」をオープン。気分をリセットしたいときは電子コミックを読む。
——まずは笹崎さんが料理に興味を持ったきっかけから教えてください。
笹崎さん:子どもの頃からテレビ番組に出ている料理人に憧れていて、包丁さばきや中華鍋の振り方なんかの手際の良さを真似したかったんですよ。中学生の夏休みには、毎日昼食にカップラーメンを食べる生活が嫌だったので、自分でチャーハンを作っていました。中学生のときから中華鍋を使っていたんですよ。
——と、いうことは中華の料理人を目指していたんですか?
笹崎さん:いえ、実は和食の板前を目指してたんです。高校3年から関越自動車道の越後川口サービスエリアにあるキッチンでアルバイトしていて、そこの料理長が和食の板前さんだったんですよ。
——それなのに、どうして洋食の道に進んだんでしょう?
笹崎さん:悠久山調理師専門学校で勉強しているときに、校外実習であるホテルに行ったんです。そこで洋食をやっている先輩がかっこ良かったので、自分も洋食をやってみたいと気持ちが傾いちゃったんです(笑)。さらに長期実習で中華料理店で働いてみたら、中華料理も面白くなっちゃって、自分のなかで三つ巴の戦いになってしまったんです(笑)
——あらら(笑)。そのなかから洋食を選んだんですね。
笹崎さん:そうなんです。アルバイト先だったサービスエリアの料理長からは、専門学校卒業後に知り合いの料亭を紹介してやると言われていたので、とっても言い辛かったんですけど、正直に洋食をやりたいという気持ちを伝えました。そしたら「何でもっと早く言わないんだ」って叱られましたけど、「がんばれよ」って気持ちよく送り出していただけました。
——それからは洋食ひと筋でやってきたわけですか。
笹崎さん:イタリアンレストランやリストランテといろいろなお店で働きましたが、先輩やオーナーに恵まれず、なかなか長く働きたいと思うお店に巡り会えなかったんです。唯一パスタ店で8年働いたことがあるくらいで、そのときは店長や営業部長を経験させていただきました。最後に働いたリストランテではメンタルがズタボロになってしまい、身体が動かなくなってしまったんです。それで料理の仕事を辞めようと決心しました。
——えっ、それでどうしたんですか?
笹崎さん:アルバイトとしてパチンコ店で働きはじめました。「パチンコ店」って聞くとネガティブなイメージを持つ方も多いかもしれませんが、勤務時間や給料、福利厚生がしっかりしていて、それまで僕が働いてきた飲食店とは違った「ホワイト企業」だったんです(笑)。あと仕事に一生懸命取り組んでいる人ばかりで、僕も仕事をすることが楽しくなっていきました。
——それがどうして、再び料理の仕事に戻ることになったんでしょう?
笹崎さん:パチンコ店の同僚から、子どものバースデーケーキを作ってほしいと頼まれたんです。そこでケーキを作ってあげたらとっても喜んでくれて、子どもからお礼の電話をもらったんですよ。その出来事を通して、人を喜ばせたり笑顔にしたりできる料理の素晴らしさを再認識して、消えかけていた料理への思いが復活しました。
——パチンコ店の後はふたたび飲食業に戻ったんでしょうか?
笹崎さん:はい。専門学校時代の同級生がやっていた店舗を譲り受けて、「COCOTEA」というカフェレストランをオープンしました。その頃から異業種交流会にも顔を出すようになって、人脈もどんどん広がっていったんです。
——例えばどんな出会いがあったんでしょう?
笹崎さん:長岡市にある「CASUAL DINING EU cafe」のオーナーとの出会いは大きかったですね。意気投合して「CASUAL DINING EU cafe」の店長兼シェフとして迎えていただくことになりました。でも、しばらくしてコロナ禍がはじまりお客様の数も減ってきたので、自分でも何かはじめなければと思うようになったんです。
——なるほど。それで、どんなことをはじめたんですか?
笹崎さん:「発酵検定」という資格を取って「腸活」に繋がる発酵を絡めた料理教室もはじめましたし、そこの生徒さん達からオーダーをいただいて出張シェフとしてケータリングの仕事もはじめました。それから、古民家を改装した複合スペース「千のてらす」でも料理講座をやらせていただき、今ではランチ営業をさせていただいています。
——いろいろなことをはじめたんですね。
笹崎さん:コロナ禍のなかでしたけど、いろんなチャレンジをすれば認めてくださる方もいて、それが新しい仕事に繋がっていくことを学びましたね。そこで2022年に「笹亭。」として独立したんです。
——それも実力があるからこそなんでしょうね。こちらの「NAGAOKA SASATEI」をはじめることになったいきさつを教えてください。
笹崎さん:「CASUAL DINING EU cafe」の頃に「株式会社プラントフォーム」からレタスを仕入れていた縁で、代表とは面識があったんです。「CASUAL DINING EU cafe」を辞めることをその代表に話したら「だったら、うちでお店をはじめたらいいじゃん」と言っていただきまして、2023年3月に「NAGAOKA SASATEI」をオープンしました。
——「株式会社プラントフォーム」というのは、どんな会社なんですか?
笹崎さん:魚と植物を同じシステムで育てる「アクアポニックス」という農業に取り組んでいる会社です。チョウザメを飼育し、その排泄物が栄養素になって野菜やエディブルフラワーを栽培します。その植物がチョウザメの水槽を浄化することで循環型農業を実現しているんです。農薬や化学肥料を必要としない「究極のエコ農業」と言えますね。
——チョウザメを使った農業って、すごいですね(笑)
笹崎さん:だから「株式会社プラントフォーム」では「フィッシュベジ」というオリジナルブランドを立ち上げて、野菜やエディブルフラワーを販売しているんです。もちろん「NAGAOKA SASATEI」でも「フィッシュベジ」を使った料理を提供しています。チョウザメの卵・キャビアも使っているんですけど、夏場はお休みさせていただいているんです。
——「フィッシュベジ」を使っている以外にも、料理でこだわっていることはあるんでしょうか?
笹崎さん:もちろんです。長岡には昔から続いている醸造所がたくさんありますので、「発酵・熟成イタリアン」をコンセプトに営業しています。長岡産の醤油、味噌、酒粕はもちろん、アンチョビやコラトゥーラといった海外の発酵調味料も合わせて作ります。熟成にもこだわっていて、魚沼産の熟成肉を使って生ハムなんかを作っています。
——長岡には名だたる酒蔵もありますよね。
笹崎さん:うちは発酵食品を使った料理ですので、日本酒にもよく合うんです。ぜひペアリングを楽しんでいただきたいですね。
——その発酵食品を使ったお料理のおすすめを教えてください。
笹崎さん:人気があるのは「渡り蟹の麹トマトパスタ」ですね。塩麹で作ったトマトソースに渡り蟹を合わせ、最後にハーブを効かせた自信作です。塩麹を使うことで、まろやかな甘さのあるうま味を感じることができるんです。
——いい感じに発酵食品を組み合わせているんですね。今後やってみたいことってありますか?
笹崎さん:今も「株式会社プラントフォーム」の食品開発には携わっているんですが、今後は食の6次化産業におけるプロになりたいと思っています。製品として販売することで、お店に足を運んでいただくよりもたくさんの方に味わっていただけるじゃないですか。そうして、多くの方々に新潟や長岡の食材の魅力をお届けしたいですね。
NAGAOKA SASATEI
長岡市上前島1−1863
土日曜12:00-15:00/水〜土曜17:00-22:30
月火曜休(日曜は不定休)